表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第六章 争奪戦!
71/223

70th BASE

お読みいただきありがとうございます。


リモート飲み会をしてみたいのですが、中々開催できず悶々とした日々を過ごしております。


 攻守交替して七回裏。真裕はツーアウトまで漕ぎ着けたが、一、三塁のピンチを背負う。


《九番、島田(しまだ)さんに代わりまして、バッター、比奈渕(ひなぶち)さん》


 右打席に代打の比奈渕が入る。彼女は今年楽師館に入ったばかりの一年生だ。


(一年生でこの時期に試合に出てきてるってことは、相当な実力があるはず。場面も場面だし、気を引き締めて厳しく攻めないと)


 初球、優築は内角へのツーシームのサインを出す。もしもここで比奈渕が繋げば、一番の万里香に回る。


(分かりました。万里香ちゃんともう一回勝負したい気持ちもあるけど、勝つためにはここでしっかり切っておかないとね)


 真裕はもうひと踏ん張りと自らを奮い立たせ、一球目を投じる。比奈渕は果敢に打って出た。鈍い音が響き、どん詰まりのゴロが真裕の左を通り過ぎていく。


「ショート!」

「走れ比奈!」


 マウンド上の真裕、ネクストバッターズサークルの万里香、二人の叫び声が交錯する。比奈渕の足は速い。しかし京子も機敏に前進して素手で捕球すると、走りながら一塁へと投げた。


「アウト! アウト、ゲームセット」


 間一髪ではあるが、京子の送球が勝った。試合終了。三対〇で亀ヶ崎の勝利となる。真裕はピンチこそ何度か作ったものの、終わってみれば完封という圧巻の投球内容だった。




「お疲れ。ナイスピッチングだったね」

「お疲れ様。何とか勝てたよ」


 昼休憩に入ったところで、万里香と真裕は一緒に昼食を取る。楽師館には校庭にいくつかの東屋が設置されており、二人はそこに腰掛けた。


「いやいや、何とかって言いつつ完封してるじゃん。やっぱり凄いよ」

「えへへ、ありがとう」


  真裕は気の抜けた笑みを見せながら、弁当箱に入っていた真っ黄色の卵焼きを頬張る。しらすと鰹出汁の風味が口一杯に広がり、彼女の顔は更に(とぼ)けたものになる。


「……で、最後の一球のことなんだけど、あれがスライダー?」


 万里香は唐突に怪しげな笑いを浮かべて質問する。彼女はどうしても聞いておきたかったのだ。無論、真裕もそうなるであろうことは予期していた。慌てて表情を引き締め直し、堂々と答えを返す。


「ふふっ、そうだよ。あれが私のスライダー。今回は上手く空振りさせられて良かったよ」

「あれはほんとにナイスボールだったし、それまで配球にもしてやれたよ。でも二度はやられない。夏大の時は覚悟してね」

「うん。私ももっと完璧に抑えられるよう技を磨いておくよ」


 二人とも全く譲る気は無い。だからこそ切磋琢磨し、更なる成長が望めるのだ。


「真裕は午後の試合はお休み?」

「うん、おそらくね」

「そっか。次は誰が先発するの? 祥?」

「いや、違うよ」

「え? じゃあ誰?」


 首を傾げる万里香。後ろ髪から流れ出た汗が、うなじを辿って喉仏の辺りを伝う。万里香は咄嗟に右手で拭った。


「ふふっ、うちの期待のルーキーだよ」


 真裕は誇らしげに言う。レギュラー争いはこれで終わりではない。今度はフレッシュな面々がアピールする番だ。




《守ります、亀ヶ崎の先発ピッチャーは、沓沢さん》


 昼休憩が明け、二試合目が始まる。亀ヶ崎の先発投手を務めるのは“期待のルーキー”、春歌だ。


(一試合目で真裕先輩は完封した。ずっと楽しそうに投げてたのは正直気に食わないけど、結果は結果だ。私も負けていられない)


 夏大のメンバー入りを確固たるものにするためにも、今回の登板は非常に大事になる。真裕にも遅れを取るわけにはいかない。


「プレイ!」


 プレイボール直後、春歌は一、二番を難なく打ち取る。内角への強気の投球で打者を詰まらせ、自分のバッティングをさせない。


《三番ショート、円川さん》


 ツーアウトランナー無しで万里香の一打席目を迎える。この試合では三番に入っていた。


(この子が真裕の言ってた一年生か。マウンド捌きはかなり落ち着いてるね。お手並み拝見といかせてもらおう)


 初球、春歌はインローに直球を投げる。万里香は悠然と見送った。判定はストライクだ。


(なるほど。スピードがあるタイプではないけど、コントロールと度胸はありそうだ)


 二球目も内角のストレートが続く。万里香は打ち返すも芯で捉えられず、ゴロとなった打球が三塁側のファールゾーンへ転がる。


(二球連続でインコース。中々やるねえ。狙って投げていたとしたら大したもんだよ)


 僅か二球だが、万里香は春歌の実力を犇と感じる。一方の春歌もまた、万里香が別格の選手であることを察知していた。


(一試合目でベンチから見てた時も思ったけど、この人だけ打席での雰囲気が違う。真裕先輩も苦戦していたみたいだし、他の人を蔑ろにして良いわけではないけど、この人は一層気を付けないと)


 三球目はカーブ。ストライクゾーンから外へと逃げていくが、万里香は冷静に見極める。


(良いボールだったけど、このパターンはオーソドックスだから読めちゃうよね。ここでまた内に投げ切ることができたら凄いと思うけど、果たしてどうかな?)


 ノーワインドアップから春歌が足を上げ、四球目を投じる。投球はインコースへ来た。万里香は驚きながら打ちにいく。


(うおっ! まじか……)


 投球は手元で微妙に変化し、バットの芯から外れる。ツーシームだ。平凡なゴロが三遊間に転がった。


「オーライ!」


 打球が飛んだ瞬間、ショートの昴が反応良く前に出てくるも、サードのきさらが間に入って捕球する。それから落ち着いて一塁へ送球。悠々アウトとなった。


「ナイサード」

「そっちもナイスピッチ! もっと気合入れてじゃんじゃん盛り上がっていこう!」

「いやいや、それはきさらだけで十分だから。私がやったら疲れちゃうよ」


 スリーアウトとなり、春歌はきさらと会話を交わしながらベンチに引き揚げていく。万里香はその姿を見ながら小刻みに頷き、ほんの僅かに微笑む。


(ほんとにインコースに投げてくるとは。真裕が目を掛けてるだけのことはあるね。この試合も楽しめそうだ)


 一回裏の亀ヶ崎の攻撃に移る。先頭打者として昴が打席に入る。


《一回裏、亀ヶ崎の攻撃は、一番ショート、木艮尾さん》


 一試合目の京子と同じく、一番で起用された昴。復活の活躍を見せた京子に続けるか。


(今日の試合は場内アナウンスもあって、本番に近い雰囲気の中で野球ができる。そういうところで自分のプレーができなきゃレギュラーなんて取れない。気負わず、普段通りの野球をやるんだ)


 昴は深く呼吸をしてからバットを構える。ところがいつも以上に緊張は強く、クールな昴も自身の体が上手く制御できていないことを感じていた。



See you next base……

第二試合の主な出場選手


木艮尾 昴(一番ショート)

野極 栄輝(五番レフト)

弦月 きさら(八番サード)

沓沢 春歌(九番ピッチャー)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ