67th BASE
お読みいただきありがとうございます。
筍が美味しい季節になりました。
筍ご飯、天ぷらなど色々な食べ方がありますが、個人的に一番好きなのは採れたての筍を焼いて醤油に付けて食べることです(贅沢)
五回表、ツーアウトランナー一、三塁。ワンボールワンストライクからの三球目、楽師館バッテリーはインコースを突いてきた。狙いを定めていた京子は打ちに出る。
だが苑田たちも素直に直球を投げてきたわけではない。京子がバットを振り始めた瞬間、投球は彼女の体に向かいながら落ちてくる。
(これがスクリューか。けど構うな。ここで躊躇っちゃ駄目だ。これまでの自分を乗り越えるんだ!)
京子はスイングを止めなかった。溜め込んだ鬱憤を放出させるかの如く、力の限りバットを振り切る。
「ふん!」
短い金属音が鳴る。ボールはバットの下を掠め、単調なゴロとなって転がる。
「ファースト、セカン!」
一見打ち取られたかに思われたが、飛んだコースは一二塁間のど真ん中。加えてフルスイングしたことで球足に勢いが付いている。
「抜けろ!」
「抜けて!」
京子は叫びながら一塁へと駆ける。同じくして真裕の声も轟く。その願いが通じたのか、セカンドもファーストも打球に追い付けず、ライトへのヒットになった。三塁ランナーの逢依は悠然とホームを踏み、亀ヶ崎に二点目が入る。
「やったあ!」
ベンチ前で真裕は万歳をして喜ぶ。得点が入ったこと以上に、京子が打ったことが何よりも嬉しかった。
「ナイスバッティング!」
真裕は突き上げた両手を京子に向ける。京子は照れ臭そうに頬を赤らめつつも、呼応して力強く右の拳を掲げた。
(良かった。真裕もあんなに喜んでるし、少しは力になれたってことだよね)
今の打席、勝負としてはスクリューを引っ掛けさせた苑田が勝っていた。だが京子がフルスイングを貫いたことで、凡打はヒットへと変わった。失敗続きだったこれまでの彼女にはなかった姿である。過去の自分を打破し、良い結果を生み出したのだ。
「アウト、チェンジ」
後続は続かず、五回表は終了する。しかし京子のタイムリーで亀ヶ崎は一点を追加。リードを二点に広げた。
「やったね京子ちゃん!」
「ありがと。ふふっ……」
一塁から引き揚げてきた京子を真裕が出迎え、二人はハイタッチを交わす。それから真裕は意気揚々とマウンドへと走っていく。
(京子ちゃんが私のミスを取り返してくれた。それに恩返しするために、後は私が抑えきらなくちゃね)
京子の一打に勇気を得た真裕。昂る気持ちを活力にし、六イニング目の投球に向かう。
《五回裏、楽師館高校の攻撃は、六番ライト、菊池さん》
亀ヶ崎同様、楽師館の五回の攻撃も六番から始まる。つまりランナーが二人出れば、一番の万里香に三打席目が回る。真裕もそのことは承知しており、図らずも意識していた。
(ここは下位打線だから三人で切りたい。ピンチで万里香ちゃんは迎えたくないよ)
一球目。左打者の菊池に対し、バッテリーはインローへのカーブから入る。
「ストライク」
菊池はほとんど反応を見せない。速い球に張っていたのか、タイミングを狂わされたような見送り方だった。
二球目はアウトコースのストレート。菊池はスイングしていったが振り遅れ、三塁側へのファールを打つ。初球のカーブが効いているみたいだ。
(真裕、次はボールになるツーシームで行くよ。振らせるつもりで投げてきて)
(分かりました)
三球目のサインが決まった。真裕は振りかぶって投球モーションに入り、右腕を振る。
外角低めから沈んでいくツーシーム。ストライクだと錯覚した菊池はまんまと手を出してしまった。辛うじてバットには当てられたものの、ショートへの弱々しいゴロとなる。
「オーライ」
京子が素早く前に出て打球をキャッチ。一塁へ丁寧な送球を送り、難なくアウトにする。
「ナイショート!」
「ナイピッチ!」
真裕と京子は愉し気に声を掛け合う。やはりこの二人はこうでなくては。
《七番レフト、日生さん》
続いて七番の日生が右打席に立つ。初球、真裕はインコースにツーシームを投じる。日生は打っていったが、バットの芯を外し、左足首に自打球が当たる。硬いものが生々しくぶつかり合う音が響いた。
「いたた……」
日生は咄嗟に患部を押さえて跳びはねる。相当痛かったのだろう。大事には至らなかったようだが、打席へと戻る際も痛みは引かず、眉間に皺を寄せて辛そうにしている。それを優築は見逃さない。
(こちらで見た感じだと足首に直撃してた。あれは痛いでしょう。可哀想だけど、そこを利用させてもらう)
優築はアウトコースへのカーブを要求する。情けは無用。日生が強く踏み込めなくなっているところを容赦なく突こうというのだ。こうして勝つために嫌らしくなれるかどうかも、正捕手には必要な資質である。
真裕が二球目を投げる。サイン通りカーブが外角に行った。日生は打ちに出ようと左足を踏み込んだが、痛みで思うように力が入らずスイングが鈍る。彼女のバットは虚しく空を切った。
「くう……」
スイングを終えた日生の額には脂汗が滲む。優築はマスク越しからそれをじっと見つめていた。ただ表情を変えることはせず、すぐに次の配球を考える。
(やっぱり左足の踏ん張りが効いてない。回復しない内にさっさと打ち取らせてもらう)
優築は日生の胸元にミットを構えた。真裕はそこを目掛け、球威のある直球を投じる。
「うっ……」
日生は三度スイングしていったものの、やはりインパクトの瞬間に踏ん張りが効かない。これでは真裕の球を打てるはずがなかった。
「バッターアウト」
三球三振。ラッキーな面もあったが、結果的に真裕はあっさりとツーアウト目を取った。
See you next base……
苑田’s DATA
ストレート(最高球速106km:常時球速95~100km)
スライダー(球速90~95km)
カーブ(球速80~90km)
★スクリュー(球速88km~93km)




