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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第六章 争奪戦!
63/223

62nd BASE

お読みいただきありがとうございます。


緊急事態宣言が全国に拡大されました。

苦しいですが、今だからこそやれることもあると思います。

自宅待機に励みつつ、今までできなかったことも少しずつ取り組んでいきたいです。


「セカン」


 洋子は三球目を打ってセカンドゴロに倒れる。しかしその間に京子が三塁へと進んだ。


《三番ライト、踽々莉さん》


 左打席に紗愛蘭が入る。楽師館の内野は前進守備を敷かない。まだ初回ということに加え、ここから亀ヶ崎打線がクリーンナップに回っていくことを考慮し、確実に大量点を防ごうとしているのだろう。


(京子の積極性が生んだチャンス。向こうは一点覚悟みたいだし、確実にモノにする)

 昨年の夏大で一年生にしてレギュラーを掴んだ紗愛蘭。新チームになって以降は主力として結果を残し続け、今年も活躍が大いに期待される。


 初球、苑田はアウトローにストレートを投じる。紗愛蘭は打って出るも、打球は三塁ベンチの屋根に直撃するファールとなる。


(苑田さんとは少し前に対戦したけど、その時よりも球速がかなり上がってる。だから元々厄介だったクロスファイヤーが更に打ちにくくなった。差し込まれないように意識しないと、捉えたと思っても今みたいなファールで終わっちゃう)


 二球目は真ん中から外角に逃げていくカーブ。紗愛蘭はタイミングを外されて見送り、思わず顰め面を作る。判定はストライクだ。


(ストレートが早いから、遅いカーブもより効果的になってる。ただ今のはもうどうしようもないし切り替えよう。苑田さんは確かスクリューを持っていたはずだけど、いきなり使ってくるのかな?)


 三球目、苑田が投げてきたのは胸元へのストレートだった。紗愛蘭は腰を反って避け、一歩二歩後ずさる。これでワンボールツーストライク。如何にも決め球を投げてきそうなカウントとなる。


 返球を受け取った苑田は手早くサイン交換を済ませ、足を上げて四球目を投げる。二球目と同じようなコースへのカーブ。スクリューを警戒していた紗愛蘭は対応しきれず、バットの先で辛うじて引っ掛けたバッティングとなってしまう。


「くっ……」


 平凡なゴロがファーストの真正面に転がる。だが京子は躊躇なくホームに突入した。


「ホーム無理! 一つ優先して」


 ファーストを守っていた小和泉(こいずみ)はホームに送球しようとしたが、キャッチャーに制止されて投げるのを諦める。彼女が自分でベースを踏んで一塁はアウト。けれども京子は生還し、亀ヶ崎に一点が入った。


「ナイスラン京子。良いスタートだったね」

「ありがとうございます。内野が後ろに下がってたんで、転がったら思い切って行こうと思ってました」


 ベンチ前で出迎えた杏玖に褒められ、京子は顔を綻ばせる。彼女の快足が、紗愛蘭のただのファーストゴロを先制に繋がる価値ある一打へと変えた。これにはベンチに戻ってきた紗愛蘭も、京子に感謝を述べる。


「ナイスラン。完全にやられたと思ったから助かったよ。ありがとう」

「いやいや、紗愛蘭がしぶとくバットに当てたからウチは走れたんだよ。何はともあれ一点入ったし、結果オーライってことで」

「ふふっ、そうだね」


 紗愛蘭は京子とハイタッチする。久しぶりに京子が楽しそうに野球をしていることに、思わず笑みが零れるのだった。


 初回の亀ヶ崎の攻撃はこの一点で終了。攻守が入れ替わり、一回裏のマウンドに真裕が上がる。


《守ります亀ヶ崎高校のピッチャーは、柳瀬さん。キャッチャー、桐生さん。ファースト、紅峰さん》


 真裕が投球練習を進めていく中、守備陣を紹介していくアナウンスが流れる。グラウンドの雰囲気は本番さながら。選手たちも一層気が引き締まる。


「一回、〇点に抑えるぞ!」

「おー!」


 一回裏が始まる。楽師館の一番を務めるのは万里香だ。


「よろしくお願いします!」


 張りのある声で挨拶し、意気揚々と右打席に立つ万里香。彼女は今回、真裕と対戦できることを待ち侘びていた。


(こうやって真裕と対峙するのは一年ぶりか。どれだけ成長してるのか、見せてもらうよ)


 昨秋に亀ヶ崎と楽師館は練習試合を行っているが、その時は万里香は怪我で出場せず、ベンチで見ているだけだった。そのため彼女の脳内には一年前の真裕の投球しか残っていない。もちろんそれは真裕にも言えること。彼女もまた、万里香の成長を体感することを今日の楽しみの一つとなっていた。


(私もこの一年でレベルアップしたし、万里香ちゃんだって上手くなってるはず。久々の対決を存分に楽しませてもらうよ)


 真裕がサインに頷き、大きく振りかぶって初球の投球モーションに入る。投げたのは外角へのストレート。万里香はその軌道をじっくりと堪能するかのように見逃す。


「ストライク」


 まずは真裕が順当にストライクを先行させる。万里香は一年前に見た光景と照らし合わせ、その成長ぶりに驚く。


(おお……。球速が上がってるのはもちろんだけど、何よりボールの質が格段に良くなってる。これは捉えるのが難しそうだ)


 二球目もストレート。こちらは低めに外れたが、指にしっかり掛かってスピードは出ている。万里香の間合いも若干遅れていた。


 三球目。真裕は内角低めに直球を続ける。万里香は始動を早めて打ちに出るも空振りを喫する。


(むう……。これでも遅いか。追い込まれちゃったけど、決め球は何だろう。スライダー使ってくるのなら見てみたいな)

(ツーストライクを取ったし早速スライダー行きたいな。万里香ちゃんにも通用するのか試してみたい)


 スライダーを待つ万里香に対し、真裕も投げることを望む。ところがキャッチャーの優築はそれを良しとしない。


(真裕のスライダーを投げたい気持ちも分かる。けど楽師館とは夏大で当たるかもしれない。特に円川はポイントとなる打者の一人。この試合で無暗にスライダーを見せたくはない。だからここは我慢してちょうだい)


 優築はカーブを要求する。それを見た真裕の目尻が微かに垂れ下がった。


(スライダーは駄目なのかあ……。けど確かにこの試合は夏大のことも考えて戦わなきゃいけない。そうなると万里香ちゃんに最初からスライダーを見せるのは良くないよね)


 真裕は優築の考えを理解して頷く。それからゆったりと振りかぶり、万里香への四球目を投げた。


(これがスライダー? 違う、カーブか)


 一瞬スライダーかと思った万里香だったが、すぐにカーブだと気付く。見逃せばストライクなので打つしかない。万里香は体勢を崩されながらも真ん中から低めに沈んでいくところを拾い上げ、真裕の頭上に弾き返す。


「うわっ!」


 投げ終わった真裕がグラブを伸ばしてジャンプするも届かない。打球はそのまま二遊間を破り、センターへとヒットとなった。

 万里香は一塁をややオーバーランして止まる。彼女は真裕を一瞥し、若干不服そうな表情を浮かべた。


(スライダーじゃなかったか。まあ何かしら考えがあるんだと思うけど、そんな甘い攻め方じゃ私は抑えられないよ)

(流石万里香ちゃん。簡単にはアウトになってくれないよね。次の打席ではリベンジするよ。けどその前に後続を打ち取らないとね)


 真裕は気を取り直してマウンドに戻る。亀ヶ崎同様、楽師館も先頭打者が出塁した。



See you next base……

PLAYERFILE.24:円川万里香(まるかわ・まりか)

学年:高校二年生

誕生日:7/16

投/打:右/右

守備位置:遊撃手

身長/体重:158/56

好きな食べ物:カキフライ、焼き牡蠣

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