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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第五章 友よ
61/223

60th BASE

お読みいただきありがとうございます。


7都道府県に緊急事態宣言が発令され、愛知県も独自で宣言されました。

仕方のないことだと分かってはいても、やっぱり気分が沈んでしまいますね……。

しかしいつか夜が明ける時は来ます。

その時のために今はぐっと堪えつつ、小説の方でストレス発散させていきたいと思います!


 次の日から京子ちゃんは学校に復帰。部活動にも出てきた。


「ショート行った!」

「オッケー! ウチが捕る」


 シートバッティングの最中、三遊間後方に緩いフライが上がる。京子ちゃんは素早く落下地点へと駆け出し、後ろ向きの体勢でスライディングしながら捕球する。


「おお! ナイスキャッチ!」


 マウンドに上がっていた私は京子ちゃんを拍手で称える。呪縛から解き放たれたという表現がぴったり合うかの如く、今日の京子ちゃんのプレーは活き活きとしていた。


「これくらい序の口だよ。まだまだ来い!」


 四月からここまで野球以外のことで悩まされることもあったが、ひとまずそれらは落ち着いた気がする。これで私も、尚のこと野球に集中できそうだ。


 そして夏大も一ヵ月に迫り、いよいよメンバー選考は大詰めを迎える。


「集合!」

「はい!」


 シートバッティングが終わったところで、監督がベンチ前に私たちを集める。何やら話があるみたいだ。


「ご苦労だった。六月に入って気温も上がり、着々と野球の季節になってきているという実感が湧くな。皆の動きも心なしか良くなってきていると思う。これから梅雨を迎えるので調整も難しくなるだろうが、各自工夫して状態を上げていってほしい」


 監督の表情は引き締まっていたが、その口元は若干柔らかくなっているように見える。京子ちゃんが帰ってきたことでチームが完全な形に戻り、監督としてもほっとする部分があるのだろう。


「本題に入ろう。来週の日曜日だが、楽師館高校と練習試合をすることが決まった。あちらのグラウンドに出向き、午前と午後に分けて二試合を行う」


 楽師館は同じ県内の女子野球部がある私立高校で、グラウンドを含めて非常に良い設備を保有している。去年の夏大、今年の春大では共に準優勝している強豪校だ。当然良い選手も多く、特に同学年の円川(まるかわ)万里香(まりか)ちゃんとは切磋琢磨する仲であり、交流が深い。


「今回の練習試合が二期考査前の最後の実戦となるだろう。即ち皆にとっては、夏の大会のメンバー選考においても最後のアピールの場となるわけだ」


 そう監督が言った瞬間、全体の緊張感が一気に高まる。この練習試合の持つ意味がどれだけ大きいか。もちろん皆言われなくても分かっているだろうが、こうして言葉に出されると一層現実感が増す。


「現状でどんな戦い方をしていくかは俺の中で思い浮かんではいるが、具体的なメンバーは決まっていない。つまりチャンスは誰にでもあるということだ。反対に今試合に出ている者も立場が保障されているわけではないので、隙を見せている余裕は無いぞ!」


 監督の口調に熱が帯びる。この時期なので全くメンバーが決まっていないということはないはずだが、決め兼ねているところがあることは間違いないのだろう。そこには私も関わっているかもしれない。だから油断せずにしっかり結果を残さなければ。


「いつも言っていることだが、自分がレギュラーになるためには、チームが勝つためにはどうするべきなのか、よく考えながらプレーしてくれ。先にも言ったが誰しもにチャンスはある。学年も関係無い。俺は勝てると思った選手を使うからな」

「はい!」


 私たちは揃って返事をする。その声はいつもより気合が籠っており、監督は少し気圧されたように笑っていた。




「京子ちゃんお疲れ。帰ろ」


 解散後、私は京子ちゃんに声を掛ける。無くなりかけていた“いつも通り”の日常が戻ってきた。


「うん。帰ろう」


 私たちは荷物を整理して部室へと歩いていく。その間の話題はもちろん楽師館との練習試合についてだ。


「楽師館とやるのは秋以来だね。万里香ちゃんとも会えるし、楽しみだなあ」

「いやいや、楽しみに思ってるのは真裕だけだよ。夏大に向けてメンバーは絞られていくし、ウチらみたいな人間は結果を出さなきゃいけないから気が重くて仕方ないよ」


 京子ちゃんが苦笑しながら言う。しまった。今の京子ちゃんの前でする発言ではなかった。


「あ、ごめん。無責任なこと言っちゃった」

「良いよ別に。そうやって純粋に野球を楽しんでるのは真裕の良いところだと思う」

「そう? なら良いけど……」

「そんなに重く考えないでよ。そういうところがあるから真裕と野球をしたいとも思えるんだし。だから真裕はそのままでいて。そうすればウチは元気が湧いてくるから」

「そっか、分かった! ふふっ……」


 私は思わず笑みを溢す。すると京子ちゃんの口元も緩み、私たちは互いの顔を見て笑い合う。そんな二人に、前方から鞄を背負って走ってきた一人の女の子が挨拶する。


「京子さん、真裕さん、お疲れ様です」

「あら、昴ちゃんじゃん。お疲れ様」


 タイミングが良いのか悪いのか。やってきたのは昴ちゃんだ。


「京子さん、風邪の方はもう良いんですか? 今日の様子を見ると大丈夫そうでしたけど」

「うん。一昨日の時点でほとんど治ってたからね。それに気分的にも色々すっきりしたし。久々に動けて気持ち良かったよ」

「それなら良かった。やっぱり京子さんがいないのは不安です。私だってレギュラーを取りたいですけど、まだまだ京子さんには全然追い付けていないので」


 謙遜する昴ちゃんだが、今の京子ちゃんにはその言葉を素直に受け取ることはできないだろう。しかし京子ちゃんは動揺することなく、堂々とした態度で受け答えをする。


「ありがとう。ウチもレギュラーを奪われるわけにはいかないからね。来週の試合もお互いにベストを尽くそう」

「はい。よろしくお願いします。ではお先に失礼します」


 昴ちゃんは一礼し、急ぎ足で校門の方へと去っていく。京子ちゃんはその姿を暫し見つめた後、私にこう言った。


「真裕、ウチは絶対に負けないから。真裕の言葉を信じて、昴に勝ってみせるよ」


 肝の据わった厳かな響きだった。私はそれに呼応するように、重々しく首を縦に振る。


「うん……。私も負けない。一緒にレギュラーとして大会に出よう」


 隣で京子ちゃんが静かに頷く。かくして私たちは、運命の練習試合へと向かうのだった



See you next base……

亀ヶ崎高校の今後の日程


六月

一週目 ←イマココ

二週目 楽師館高校との練習試合(日曜日)

三週目 夏大のメンバー発表

四週目 テスト週間(部活動禁止)

五週目~七月一週目 テスト


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