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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第一章 野球女子!
6/223

5th BASE

お読みいただきありがとうございます。


早いものでもう10月に入りました。

それなのにまだ30度超えの日があるなんて……。

とりあえず来週からは落ち着いてくれることを祈ります。


 新学期が始まって一週間が経った。今日は遂に、新入生が本入部となる日だ。そのため終礼後はグラウンドではなく、ミーティングを行う教室に集まることとなっている。


「あ、真裕先輩。こんにちは」

「こんにちは春歌ちゃん。一年生は廊下側の席に座ってね」

「分かりました」


 早めに教室へと入った私が同級生たちと話していると、春歌ちゃんが一年生の中では一番乗りで姿を現す。始業式の日以降、彼女は土日を除いて毎日用具を持参し、野球部の練習に加わっていた。紗愛蘭ちゃんや三年生の先輩たちとも睦まじく話している場面が見受けられ、順調に部内に溶け込んでいっている。


「こんにちは!」

「こんにちは」


 春歌ちゃんを皮切りに、他の一年生も続々と教室にやってくる。その数は合計十人。去年の私たちに比べて三人も増えた。


「起立。よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」


 全部員が出揃ったところで主将の杏玖さんが号令を掛け、ミーティングが始まる。最初に監督が前に立ち、新入生に向けて自己紹介をする。


「こんにちは。俺が女子野球部の顧問、木場(きば)隆浯(りょうご)だ。よろしく」


 監督の会釈に合わせて、一年生たちがお辞儀をする。若干の怯えが見える子も少なくないが、無理もない。隆々と発達した厚い胸板、年齢相応の若々しさがありながらも重たく響く声、精悍で鋭利な眼差し。そしてそれらに後押しされつつ、大きな背中から放たれる威圧感。出会ってたった一週間で慣れるのは難しい話だ。


「まあよろしくと言っても、仮入部の時点で皆挨拶は交わしてるわけだし、態々改まることもないがな」


 ところが険しい顔つきはすぐに消え、監督は闊達(かったつ)な笑みを溢す。指揮官としての厳しさを備えている監督だが、普段は私たちを真摯に指導してくれる優しい人だ。時々よく分からないことを言い出す節があるけれど。


「だがスタートはしっかりやっておかないとな。ということで一年生の諸君、今日から君たちは、この女子野球部の正式なメンバーとなる。もう知っている者も多いと思うが、俺たちの目標は全国制覇、具体的には夏の選手権大会で優勝することだ。そのためには当然、過酷な鍛錬を積まなければならない。野球を好きで楽しもうとする心を忘れてほしくはないが、それは相応の辛い日々が待っていることも覚悟しておいてくれ。日本一を目指す以上は避けて通れない道だからな」

「は、はい!」


 監督の壮大な抱負に、一年生たちは皆引き締まった返事をする。それを見た監督は満足そうに頷く。


「うむ。ではこれからの君たちの活躍、期待しているぞ。うちは他の高校と比較しても選手の数は多くない。だから一年生でもいきなり試合に出てもらうことになるので、その際は思う存分自分をアピールしてくれ」


 私たちの野球部は現状、二年生と三年生を合わせて部員数は十六人しかいない。夏の大会でベンチ入りできるのは十八人まで。つまり少なくとも二枠は一年生が入ることとなる。


「俺からは以上だ。それでは次に杏玖、キャプテンとして何か言ってくれ」

「はい」


 ここから主将の杏玖さんにバトンタッチ。監督に代わって教壇に立つ。


「こんにちは。主将の外羽杏玖です。一年生の皆さん、今日ここに集い、野球部の仲間になってくれたことを心から歓迎します。先ほど監督も述べていた通り、私たちの目標は日本一になることです。そのためには貴方たちも一緒に戦ってもらわなくてはなりません。これから辛いこともあると思いますが、互いに手を取り、助け合って頑張りましょう!」


 杏玖さんは雄雄しく語りかける。主将の粋な演説は、新入生の胸に確と刺さったことだろう。


 その後再び監督が一言話し、ミーティングは終了。私たちはグラウンドに出て練習に励む。本日のメニューは一年生も守備に就かせてのシートノックから入った。それでは、新たに入部した一年生を何人か紹介していこう。


「ピッチ、ゲッツー取れるよ!」

「はい!」


 まず一人目は、沓沢春歌ちゃん。私と同じポジションのピッチャーを志望している。まだその投球は見られていないが、明日にでも監督からブルペンに入れと言われる可能性はある。その実力や如何に。


「ショート突っ込んで!」


 大きく跳ね上がったゴロがマウンドの左を越えていく。ショートを守っていた女の子は勢いよく前進し、ショートバウンドでボールを掴んで軽やかに一塁へ送球する。


「オッケー! ナイショート」

「はい。ありがとうございます」


 女の子は帽子を取って深くお辞儀をし、先輩の声掛けに応える。彼女は木艮尾(こごの)(すばる)ちゃん。二人目の一年生だ。非常に礼儀正しく、言葉選びなどから聡明な人柄を感じさせる。かといってずっと畏まっているわけでもなく、愉しそうな笑顔を見せることも屡々(しばしば)ある。

 背は低く華奢な体をしているものの、グラブ捌きや身のこなしは他の一年生よりもレベルは高い。今すぐ試合に出てもそれなりに通用するだろう。


「ライト、タッチアップ来るよ!」

「オーライ」


 三人目は、現在ライトの守備に就いている野際(のぎわ)栄輝(さき)ちゃん。新入生の中で最も身長が高く、既に一六〇センチを超えているらしい。


「ボ―ルサード!」

「はい!」


 飛球を捕り、栄輝ちゃんは素早く右手に持ち替えて三塁に投じる。中学時代は地元のクラブチームに所属していたという彼女。四番も務めていたらしく、その打棒には要注目だ。


「良いね栄輝! ナイスボール!」


 送球はワンバウンドでサードに届いた。ボ―ルを受け取った三塁手は、肩に引っかかった長髪を払い除けながら栄輝ちゃんに向かってサムズアップする。

 この子が四人目の一年生、弦月(つるつき)きさらちゃんである。明朗快活で、先輩にも同級生にも頻繁に話しかけている姿が印象的な子だ。彼女も中学時代はクラブチームで野球をやっており、相当の技術は持っている。


「サード!」

「おっしゃ」


 三塁線にゴロが飛ぶ。きさらちゃんは逆シングルで掴もうとしたが、バウンドを合わせられず弾いてしまう。


「あ……」

「ファーストまだ間に合う!」

「は、はい」


 きさらちゃんは慌ててボールを拾い、一塁へと投げる。しかし力んだのか送球は高く浮き、一塁手の頭上を通過していく。


「やべっ……」

「きさら、ミスした後こそ落ち着いてやれ! あれくらいなら捕り損ねても十分アウトにできるぞ!」

「す、すみません」


 監督から注意を受け、きさらちゃんは渋い表情をする。元気が取り柄の彼女だが、気合が入り過ぎて今みたいに空回りしてしまう一面も見られる。この辺りは今後の課題だ。


 ひとまず仮入部の時点で上手だと感じた新入生はこの四人。来週末には毎年恒例となっている男子野球部の一年生との練習試合が控えているが、彼女たちの出番もあるかもしれない。どんなプレーを見せてくれるのか楽しみだ。



See you next base……


PLAYERFILE.4:木場隆吾(きば・りょうご)

学年:教師

誕生日:7/28

投/打:右/右

守備位置:監督

身長/体重:179/83

好きな食べ物:カレー


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