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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第四章 嫌いです
48/223

47th BASE

お読みいただきありがとうございます。


プロ野球ではオープン戦が始まりました。

この時期は各球団の新戦力や、ブレイク期待の選手たちに注目して見るのが楽しみです。


 翌日の土曜日は、午前八時から練習が行われた。テスト週間で薄れた感覚を取り戻すため、実戦練習を多めに熟していく。シートバッティングも取り入れられ、当然の如く私や春歌ちゃんも投げることとなる。私は最初に打つグループに入り、ちょうどそこで春歌ちゃんがマウンドへと上がった。


「よろしくお願いします」


 最初の打者として打席に入るのは愛さん。一打席目はランナーを二塁に置き、カウントはいつも通りワンボールワンストライクから始まる。その初球、春歌ちゃんの投じた直球を、愛さんは悠然と見送った。


「ストライク」


 二球目、春歌ちゃんは速い球を続ける。打ちに出た愛さんだったが差し込まれてしまったようで、ショート後方にフライを上げる。


「オーライ」


 落下地点に入った昴ちゃんが、半身の体勢で打球をキャッチする。ランナーはもちろん動けず、春歌ちゃんは一人目の打者をあっさり打ち取った。


 二人目の打者は杏玖さん。一球目、春歌ちゃんは再び速球を投げてきた。杏玖さんは打ち返すも、打球は前に飛ばずバックネットへのファールとなる。


 二球目は高めに直球が外れる。続く三球目、またもや速い球が投じられた。体に近いコースだったのか、杏玖さんは窮屈そうなスイングをする。ボールはバットには当たったものの、緩いゴロとなってサードの前に転がった。


「サード」

「オーライ」


 サードを守っていたきさらちゃんが素早く前進して打球を掴む。そのまま落ち着いて一塁へと送球し、杏玖さんをアウトにする。


「ナイサード」

「これくらいは余裕のよっちゃん! そっちもナイスピッチ。この後もどんどんこっちに打たせてきてよ。全部処理するから!」

「はいはい。程々に頼みますよ」


 気合を溢れさせるきさらちゃんを、春歌ちゃんが軽くあしらう。如何にも同級生同士の会話といった感じだ。次の打者である私は、二人のやりとりに仄かな羨ましさを抱きながら打席に入る。


「よろしくお願いします」


 私はゆったりとバットを構え、春歌ちゃんを見る。春歌ちゃんも表情は変えないものの、今度はこちらに目をやってきた。私の心が少しだけ高鳴る。


 初球、春歌ちゃんは外角にツーシームを投げてくる。しかし僅かに外れており、私は落ち着いて見極める。


 二球目は低めのカーブが来た。こちらはストライクとなり、私は追い込まれる。


 ここまでは“どこにでもいる”ピッチャーの配球である。普通なら決め球はチェンジアップを使ってくるだろう。けれど私が見たい春歌ちゃんはそうじゃない。


 サインに頷いた春歌ちゃんが三球目を投げる。投球は私の胸元に向かって真っ直ぐに進んできた。私は咄嗟に打ちにいくも、ボールはバットの根っこに当たる。


「痛っ……」


 ショートに平凡なゴロが転がり、昴ちゃんが難なく捌く。私は手に痺れを堪えながら走るも、及ぶはずがなかった。


 最後の球はインコースへのストレート。これはただ単にサインに従っただけなのか。それとも春歌ちゃんがある程度自分の意思を持って投げたのか。どちらかは分からないが、私は彼女の以前の投球スタイルが見られたことが嬉しかった。


 その後の打者に対しても、春歌ちゃんは昨日までとは一変し、積極的にインコースに投げ込んでいるように見えた。私は期待に胸を膨らませつつ、二打席目に入る。


「よろしくお願いします」


 引き続きランナーが二塁にいる中での対戦。一球目、春歌ちゃんはいきなり直球で内角を抉ってきた。


「おっと……」


 私は腰を引いて避ける。後からキャッチャーの優築さんのミットの位置で確認すると、投球は私の臍の部分を通っていた。


 二球目もインコースの直球が続く。私はバットを出そうとしたが、手元での伸びに追い付けずスイングできない。


「ストライクツー」


 三球目は外に逃げるカーブを私が見極めてスリーボールツーストライクのフルカウントとなる。次は何が来るのか。練習とはいえ真剣勝負だが、今の私はそれがどうでも良くなるほどのときめきを抱いていた。


 そして四球目、春歌ちゃんは私の期待通りの投球をしてくる。再び内角高めへの直球を投げ込んできたのだ。


 私はフルスイングで応戦する。しかし、投球はバットの上を通過していく。


「バッターアウト」


 空振り三振。私は完全に力で押し切られてしまった。


「ふう……」


 春歌ちゃんはマウンドで大きく一息をつく。渾身の一球だったのだろう。三振した私だったが非常に清々しい気分だった。


「今のは良い球でしたね」


 打席を去る前、私は優築さんに感心しながら言う。するとマスク越しの優築さんの口角が微かに上がった。


「そうね。やっぱり自分でしたいと言い出しただけあって、今日は全体的に気迫が違うし、それがボールに乗ってる」

「自分でしたいって、春歌ちゃんがこういう配球で行きたいって言ったんですか?」

「ええ。シートバッティングに入る前にあの子から言ってきたの。インコースで仕留める投球がしたいですって」

「ああ……。そうなんですか」


 私は口を半開きにしながら、もう一度マウンドの春歌ちゃんに目を向ける。その姿はとても(たくま)しく、雄壮に感じられた。


 第三打席はランナー二、三塁という局面で回ってきた。私はこれまで以上に集中力を高めて打席に入り、春歌ちゃんと対峙する。


 初球、春歌ちゃんは低めに真っ直ぐを投じてきた。私はバットを出していくも芯で捉えられず、一塁側へとファールを打たされる。これまでの打席に比べ、春歌ちゃんの球威が上がっているように感じられる。三巡目に入ったことでギアチェンジしたのかもしれない。


 二球目は内角高めのストレート。体に近いコースに来た。私は反射的に背中を逸らして見逃す。


「ボール」


 これでこそ春歌ちゃんだ。私は思わず口角を持ち上げる。

 カウントはツーボールツーストライク。おそらく次の一球で決めにくるだろう。今の春歌ちゃんのボールの勢いであれば、せっかくなら力勝負をしてきてほしい。


 三球目、春歌ちゃんは私の希望に沿うかのように、膝元のストライクゾーンに直球を投げ込んできた。私は負けじとフルスイングで打って出る。バットから快音が響いた。


「ショート!」


 痛烈なゴロが転がり、前進守備の三遊間を襲う。春歌ちゃんの声に導かれるかの如く、昴ちゃんはダイビングキャッチを試みる。彼女の胸部から土煙が上がる中、打球はグラブの先に引っかかった。


「昴、ホーム間に合うよ!」

「はい!」


 昴ちゃんがすぐに起き上がって本塁に送球する。中腰で構えていた優築さんは胸の前で捕球し、滑り込んできたランナーの足先に触れる。


「アウト!」

「ナイスショート。送球も良かったよ」

「ありがとうございます」


 優築さんが手で丸印を作ると、昴ちゃんは小さくお辞儀をする。彼女の好プレーに寄って私はヒットを損することとなった。だがこうなったのも、春歌ちゃんの球の威力が私の力を上回り、最後の一押しをさせずに詰まらせたからであろう。


「おお! ナイスバッティング!」

「ランナー回れ!」


 ラストバッターの栄輝ちゃんが右中間に走者一掃となるタイムリーツーベースを放ち、私たちのグループが打つ番は終了となる。春歌ちゃんが許した安打は合計で六本。結果的には先日よりも打たれてしまった。しかし私は今日の彼女のピッチングに、進化した“春歌ちゃんらしさ”を見られた気がして嬉しくなった。今後も続けてくれるのだろうか。


 ……ぜひとも続けてもらいたい。



See you next base……


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