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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第四章 嫌いです
43/223

42nd BASE

お読みいただきありがとうございます。


2月に入ってプロ野球がキャンプインし、今年も球春到来となりました!

シーズン開幕に向け、私も着々と準備を進めていきたいと思います(何の?)


 帰り道、私は京子ちゃんと紗愛蘭ちゃんと駅まで歩いていた。


「あーもう、何なの!?」


 私は仰々しく頬を膨らませる。横で聞いていた紗愛蘭ちゃんは驚いたように肩を震わせ、目を丸くしてこちらに振り向く。


「珍しいね。真裕がそんなに苛立つなんて」

「だって聞いてよ、春歌ちゃんってば意味分かんないんだよ。急に昨日の試合後に私のこと嫌いだなんて言い出したの」

「え、そんなこと言われたの?」

「うん。今まで私の前であんなに楽しそうにしてたのは嘘だったのって感じ。すっごくショックだった。しかも今日監督から春歌ちゃんにアドバイスしてやれって言われて話したんだけど、そこでも拗れちゃって。これじゃ全然話になりそうにないよ」


 沸々と溢れ出てくる不満を、私は留めることなく紗愛蘭ちゃんにぶつける。こんなにも腹が立ったのは初めてかもしれない。


「春歌がそんなこと思ってただなんてね。外から見てたらそんな雰囲気全然感じなかったし、仲良さそうにしか見えなかったけど」

「そうなんだよ。私だって仲良くやれてたつもりだから困惑しちゃって。でも本人曰く、それくらい取り繕うのは普通なんだって。もうどうすれば良いんだろ?」


 私は眉間に皺を寄せる。紗愛蘭ちゃんも映し鏡のように表情を歪める。


「どうすれば良いかねえ。そもそもどうして春歌はそんなこと言い出したんだろう。嫌いだって言ったところで何か変わるわけじゃないのに」

「単純に距離を取りたかったんじゃない? 私もああ言われて今日は近寄りがたかったし。監督に頼まれたからそういうわけにはいかなくなっちゃったけど」

「なるほどね。京子は二人を見てて何か思わなかった?」

「へ? 何が?」


 紗愛蘭ちゃんが京子ちゃんに話を振る。しかし京子ちゃんは素っ頓狂な顔をして私たちに聞き返してきた。


「へ?って、話聞いてなかったの? 真裕と春歌の話だよ。最近二人を見てて変わったこと感じたことはなかった?」

「ああ、ごめん……。ぼーっとしてた。ウチが見たところでは特に何にも感じなかったかな。ウチがあんまり余裕無くて見えてなかっただけかもしれないけど」


 京子ちゃんも紗愛蘭ちゃんと同じ見解だった。それにしても、京子ちゃんの思い詰めた様子は少々気掛かりだ。練習中もいつもより動きが鈍かったし、昨日の試合を明らかに引きずっている。昴ちゃんにレギュラーを奪われるかもしれないという危機感からそうなってしまっているのだろう。ただこればかりは本人の問題だし、京子ちゃんの力でどうにかするしかないのだが。


「そっか……。でも春歌には夏大でも投げてもらいたいし、このままにしておくわけにはいかないよね」

「それは分かってる。春歌ちゃんに嫌われているといっても私は嫌いになったわけじゃないし、春歌ちゃんのためにもチームのために何とかしなきゃとは思ってるんだよね。とりあえずもう一度歩み寄れるようには頑張ってみるよ」

「私もできることがあったら手伝う。何かあったら相談してね」


 紗愛蘭ちゃんは私を優しく励ましてくれる。誰かに話したことで、少し気が楽になった。


「ありがとう。今後色々と話を聞いてもらうかもしれないけど、よろしくね。あ、そういえば話が変わるんだけどさ……」


 悩んだ時には同級生が頼りになる。私はこの関係性を大切にしようと思いつつ、気分転換に他の話に花を咲かせるのであった。




 休日を一日挟み、ゴールデンウィーク最終日は午後からの練習となる。この日は投手が投げてのシートバッティングが行われた。三グループに分かれ、一グループ三打席ずつで交代していく。


 私は一グループ目を相手に登板した。そちらが先ほど終わり、二グループ目に入る。ここでマウンドに上がるのが春歌ちゃんだ。


「春歌、準備は良い?」

「はい、大丈夫です!」


 キャッチャーの優築さんの問いかけに笑顔で答え、春歌ちゃんは投球練習を切り上げる。一昨日と今日の感じを見る限り、他の人との接し方は以前と変わっておらず、優築さんとの間にも軋轢が生じた気配は無い。だからこそ私だけ嫌われているようで辛くなる。

 ただひとまずその問題は置いておこう。肝心のピッチングの方はどうなのだろうか。私は自分の打つ順番を待ちながら様子を覗う。


「よろしくお願いします」


 打席には最初の打者としてゆりちゃんが入る。カウントワンボールワンストライク、ランナー一、二塁からのスタート。その初球、春歌ちゃんが投じた速い球を、ゆりちゃんが弾き返す。打球はキャッチャーの背後に上がり、バッティングゲージに当たった。


 二球目。春歌ちゃんは速球を続ける。コースは内角だったのだろうか、腕を畳んだスイングで引っ張る。しかし打球は三塁線の外側へと転がり、二球連続でファールとなる。


 三球目は低めのカーブをゆりちゃんが見極めた。ツーボールツーストライクとなっての四球目、春歌ちゃんは再び速い球を(ほう)る。ゆりちゃんはそれをバットの芯で捉え、快音を響かせた。


「レフト!」


 鋭いライナーがレフトを襲う。ところが飛んだ先は守っていた栄輝ちゃんの真正面。彼女はほとんど動くことなくキャッチする。良い当たりではあったがアウトとなった。


 春歌ちゃんはその後、更に二人の打者を打ち取った。続いて打席が回ってきたのは逢依さん。一球目、逢依さんは高めの球をいきなり打って出る。

 強いゴロが春歌ちゃんの左を抜けていくも、ショートの京子ちゃんが回り込んで捕球体勢を取る。完全な併殺コースだ。


「オーライ。……あっ」


 ところが京子ちゃんはバウンドを合わせきれず、グラブで弾いてしまった。ボールは呆気に取られた彼女の背後を転々とする。


「京子! ぼーっとしてないで次のプレーあるよ。バックホーム!」

「す、すみません」


 優築さんの叫びを聞いて京子ちゃんは慌てて動き出すも、その間に二塁ランナーがホームイン。一塁ランナーも三塁に進んだ。


「ま、またやっちゃった……」

「京子さんドンマイです。切り替えていきましょう」


 バツが悪そうにする京子ちゃんに対し、春歌ちゃんは快く鼓舞する。まるでこの前の試合のリプレイを見ているかのようだ。その時はここから崩れたが、今回はどうなるか。ランナーが元に戻され、次は私が打席に立つ。



See you next base……


★シートバッティングとフリーバッティングの違い


 野球用語で“シート”とは守備位置を指す。そのためシートバッティングは守備陣が然るべきポジションに就き、ランナーをおいたりカウントを設定したりして行われる。一方でフリーバッティングは守備が決まった位置に定められず、打者が自由にバッティング練習を行う形が取られる。

 基本的に実戦形式を目的とするのがシートバッティング、とにかく数を打ち込むことを目的とするのがフリーバッティングと分別される。


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