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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第三章 先輩として
36/223

35th BASE

お読みいただきありがとうございます。


どんなスポーツでもそうですが、上手くいかないことがあるとどうしてもカッカしてしまいますよね。

それを制御できる選手こそが一流になれるのですが、中々難しいことだと思います。

 打順は七番の永沢に回る。今日ヒットの無い彼女だが、今の春歌では誰が相手でも投げてみなければ抑えられるか分からない。


「ボール」


 初球は外角へのストレートが外れる。二球目もストライクが入らず、ボールが二つ先行する。春歌は得意なはずのコントロールも本格的に乱していた。これでは受ける優築も配球を考えようがない。


(不味いな……。春歌の球に力が無くなってるだけじゃなく、ストライクを取ることすらできなくなってきてる。これじゃ正直、アウトにできるかどうかは運任せって言っても過言じゃないかも。ただそれでも抑えられるようにするのが私の仕事だ)


 三球目、優築は直球のサインを出して再びアウトコースに構える。だが春歌の投球は真ん中に入ってきた。永沢は大振りせずにミートし、お手本のようなピッチャー返しを打つ。


「うわ!」


 春歌が咄嗟にグラブを出すも、打球はその先っぽを掠めてセンターに抜ける。三塁ランナーの杉山はゆっくりとホームイン。浜静に七点目が入る。


(だから何で続投させてるの? こうなること分かってんじゃん)


 大野の一発で集中力が途切れてしまった春歌。もはや点を取られても何の感情も湧かなかった。しかし隆浯は相変らずベンチに座ったままで、春歌を降板させようとしない。


(まだ私が投げるの? どうなっても知らないよ。ていうか既に試合は壊れてるか)


 春歌は半ば自暴自棄になり、不貞腐れながらマウンドに戻ってきたボールを受け取る。しかしそんな彼女でも、まだ仲間たちは見捨ててはいない。


「春歌、あとワンナウトだよ。私のところに来たらどんな打球でも取るから!」

「負けるな春歌ちゃん! 最後まで自分を信じて投げ込むんだよ」


 杏玖や真裕から温かい声が飛ぶ。辛い時こそ、こうした励ましが身に染みるもの。けれども春歌はそれらを真っ直ぐに受け止めることができなかった。


(杏玖先輩も真裕先輩もどうしてまだ私に声援を送るの? 普通はとっと降りてくれとか思うでしょ。それとも、哀れな後輩をめげすに応援してる良い人を演じたいのかな。そういう人ってどこにでもいるよね。……あいつも似たような感じだったし)


 春歌はマメで硬くなった指先の感覚を整えることもせず、何の気なしに次の投球に向かう。打席に入るのは八番の丸尾。思えばこの五回表の攻撃は彼女から始まった。つまり浜静は打者一巡したということになる。


 初球はアウトハイへのストレート。丸尾は打って出たが、タイミングが早く三塁側へのファールとなる。


 二球目。春歌は低めにカーブを投じる。際どい高さだったが判定はストライク。あっさりと丸尾を追い込んだ。


(とりあえずここまでは来られた。これで少しは抑えられる可能性も増すでしょう)


 三球目のカットボールが外角に外れた後、優築は低めのチェンジアップを要求し、空振りを奪いにいく。春歌はそれに従って丸尾への四球目を投げた。


 ところが投球は高めに浮き、真ん中付近へと沈んでいく。丸尾は強いスイングで思い切り引っ張り込んだ。


「ああ!」


 亀ヶ崎ベンチから悲鳴が上がる中、先ほど大野が放った打球と同じような大きなフライがレフトに高々と打ち上がる。春歌はその行く末を見ようともしない。


(またか……。まあもう何点取られても変わらないし、どうでも良いや)


 この回二本目のホームランとなるのか。しかし打球は惜しくも最後の一伸びが足りず、フェンスの手前でワンバウンドする。それでも逢依が処理をする間に二者が還ってきた。


「ああ、もうちょっとだったのに……。次の打席で打ち直すしかないか」


 丸尾は二塁ベース上で眼鏡を外し、レンズに付いた汚れを拭う。ホームランにならず悔しがってはいたが、その顔に仄かな笑みが浮かんでいる。


「丸尾さんナイスバッチ! 今日も眼鏡がキラキラしてるね!」

「さあさあこのままもっと点取っちゃお!」


 このタイムリーで九対〇。練習試合とはいえ大量得点を奪い、浜静ベンチはお祭り騒ぎとなる。


「アウト。チェンジ」


 次の桜がセカンドゴロに倒れ、ようやく長い長い五回表が終了する。最終的に浜静は七点を加え、九点差までリードを広げた。


「はあ……、疲れた」


 春歌は溜息をついてマウンドを降りていく。気力も喪失し、全てがどうでも良くなっていた。そんな彼女がベンチに戻るや否や、一人の選手が怒りを露わにする。


「おい春歌! あんたもう約束を破ったな! 何のつもりだ!」


 そう言って春歌に詰め寄ってきたのは菜々花だ。彼女は以前の試合で春歌の身勝手な行動に振り回され、二度とやらないようにと忠告していた。


「何のつもりって、……見ての通りですよ。打たれたからやり返そうとムキになって、キャッチャーのサインを無視して危険なコースに投げたんです。その結果打たれちゃいましたけどね」

「あんた……、自分が何言ってるのか分かってんの!?」

「ちょっと菜々花ちゃん、今は試合中だし、そんなに……」


 菜々花は更に声を荒げる。真裕がどうにか場を収めようとするも、その前に優築が二人の間に割って入った。


「菜々花、落ち着きなさい。ここで春歌を責めても仕方ないでしょ。彼女に責任を押しつけるのは良くない」

「良くないって、優築さんは自分が出したサインを無視されたんですよ。何とも思わないんですか?」

「思わないと言えば嘘になる。もちろんサイン無視は決して褒められる行為じゃないし、やって良いことでもない。けど春歌は私の配球よりも抑えられると考えたからああいうことをした。そして私はそれを許した。だからホームランを打たれた責任は私にもあるの」

「ですけど……」

「ですけども何もない。当事者の私たちが言ってるんだからそういうことなの。次の攻撃がもう始まるし、ベンチに入るよ」


 優築はここでも冷静な態度で菜々花を諭す。しかも裏切られた春歌を庇うような言動をしており、菜々花だけでなく春歌までもあっけらかんとする。


(いやいや、何でここでもそんなことが言えるの? 明らかに悪いのは私なんだから、はっきりそうやって言えばいいじゃん。試合中だから大事にしたくないってこと?)


 春歌は何一つ理解できないままグラブを外し、ベンチに置く。よく見ると親指の付け根の部分の紐が解け、不細工に(ただ)れていた。



See you next base……


PLAYERFILE.20:丸尾広子(まるお・ひろこ)

学年:二年生

誕生日:12/31

投/打:右/右

守備位置:捕手

身長/体重:157/55


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