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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第三章 先輩として
34/223

33rd BASE

お読みいただきありがとうございます。


2020年、あけましておめでとうございます!

元旦に早速初詣に行ってきたのですが、縁起良く大吉のおみくじを引くことができました。

今年は昨年以上に良いことがあるのかな?

本年もお付き合いのほど、よろしくお願いします。


 三点目のタイムリーを打たれた直後のワイルドピッチで、春歌は再びランナーを得点圏に背負う。対する打者は三番の花輪。彼女を抑えて最少失点で凌ぎたいところだが、タイムが解けた後も春歌はプレーに集中できず、優築に掛けられた言葉を脳内で巡らせる。


(簡単に抑えられるとは思ってない? やっぱり優築さんも、私の球に力が無いって感じてたんだ。これじゃ結局あの頃と同じ……。でもせっかく女子野球部に入ったのに、あの頃みたいになったら意味無いじゃないか。そうならないために私は強気の投球スタイルを磨いてきたんだから)


 春歌は悔しさを押し殺すように鼻根をきつく締めながらサインを覗う。優築は再度外角へのカーブを要求していた。


(そりゃここで真っ直ぐは無いよね。それなら投げられるように仕向けてやる)


 二球目。春歌はサインに従い、カーブを投じる。だが打者の顔の高さくらいに大きくすっぽ抜け、優築が立ち上がって捕球する。もちろん花輪はバットを振ろうともしない。


(濱地の時まではきちんとカーブも制球できていたはずなのに、突然荒れ始めた。これも打たれて動揺してるせいなのか。カウントを整えるためにはストレートに切り替えるべきなんだろうけど、この三番はヒットこそ打ってないものの四番に匹敵する実力は持ってる。最悪満塁で五番との勝負になっても良い。ここは軽率にストライクを入れにいくことはせず、とことん慎重に行く)


 三球目。優築はもう一度カーブのサインを出す。春歌はとりあえず頷くだけ頷き、淡々と投球モーションを起こす。


(それでもカーブなのか。だけど私は、“自分のピッチング”がしたいんですよ!)


 今度はアウトコースのボールゾーンから更に外へ曲がっていく投球となった。他者から見れば大きくコントロールを乱していると捉えられるだろう。


「ボールフォア」


 続く四球目もボールとなり、花輪はバットを置いて一塁へと歩く。ランナーが二人溜まって、四番の大野の三打席目を迎える。


「春歌ちゃん、ここ踏ん張ればまだまだチャンスがあるよ! 苦しい時こそ普段のピッチングをすることを心掛けて!」


 ベンチでは真裕が春歌に声援を送り続けている。同じ投手として、大切な後輩として、この苦境を乗り切ってほしいと祈るばかりだ。裏を返せば今はそれしかできないということになるのだが。


(頑張れ春歌ちゃん。いつもブルペンで投げているようにやれば絶対に大丈夫だよ)


 打席に大野が入る。次の一点を浜静が取れば試合を決定付けることになるかもしれない。それは大野自身も重々承知しており、バットを構える動作一つ一つにもこれまでより一層の気迫が籠っている。


(亀ヶ崎の攻撃は残り三イニング。ここまで得点できそうで得点できていない上、私たちにじりじりと引き離されてる。それに桜もまだ奥の手を出していないから、打ち崩されるとしてももう少し時間が掛かる。その中で四点差を付けられたら向こうもかなり苦しくなるでしょ。高が練習試合かもしれないけど然れど練習試合。夏大ベスト四を打ち負かせれば私たちにとっては大きな自信になる! だからここは絶対に打っておきたい)


 ここまで自身は二安打を放っており、チームも順調に三点のリードを奪っているにも関わらず、大野に一切油断は無い。優築もどうにか策を練ろうと彼女をじっくり観察してみるが、隙は全く見つからなかった。


(どっしりとした構えをしている。去年の晴香さんがそうだったけど、こういう人が中心にいると他の選手は地に足を付けて自分のプレーに専念できる。今年設立されたチームとはいえ粒は揃っているみたいだし、道理で手強いはずだわ)


 不意に浜静の日頃の活動風景を思い浮かべる優築。彼女たちの強さの秘訣が理解できたような気がした。


(でも感心してばかりはいられない。私たちはこういう相手に勝っていかなくちゃならないんだから)


 優築は視線を春歌の方に移す。この状況で大野を抑えるにはどうするのが最適だろうか。


(カーブはもうストライクが入らないと考えておいた方が良い。その中で打ち取ろうとするなら、まだ一球しか見せていないチェンジアップを決め球にするのが一番可能性がある。真っ直ぐ、カット、ツーシームの三つで早めに追い込んで、最後にチェンジアップを使って一発で仕留める。それができなきゃ歩かせる。それくらいこっちも割り切っていかないとまず抑えられない)


 初球、優築は直球のサインを出す。春歌の待ち望んでいた球種が来た。


(お、やっとストレートだ! ……でも優築さんのミットは外角。しょうがない。私にはもうこの道しか残ってないんだから)


 春歌が首を縦に動かす。しかし足を上げた彼女は優築のミットには目もくれず、大野の首元を標的に据えて右腕を振り切る。


「え?」

「え?」


 ボールが腕から離れた刹那、大野と優築の顔には共に恐怖の色が浮かぶ。投球は春歌の狙った通りに進んできた。大野は瞬時に後ろへと倒れ込み、尻餅を付ながらも辛うじて死球を回避する。


「おお、危な」


 優築のミットに収まったボールを見て大野はそう呟き、避けた反動で背後に転がったヘルメットを拾って立ち上がる。それから臀部に付着した多量の土を掃っていると、彼女の身を案じた優築が一声掛ける。


「ごめんなさい。大丈夫?」

「ええ。別に当たったわけではないので。それにしても抜けたとは思えないくらい良い球だったので、ちょっとびっくりしました」


 若干はにかみながら返答をする大野。この辺りはまだ二年生というあどけなさが感じられる。ただしすぐに彼女は勝負師の顔つきになって打席に戻った。優築も何事も無かったことに関しては軽く安堵しつつも、口を真一文字に結んでマスクを被り直す。


(確かに今の一球は力があった。まるで春歌がそこに投げようと思って投げたかのように。濱地の時も思ったけど、まさかあの子……)


 優築の中で春歌への懐疑心が大きくなる。けれどももう規定の回数は超過しているので、マウンドに赴くことはできない。とにかく次のサインを出すことしかできないのだ。


(今のは態となのか偶然なのか。もう一度真っ直ぐを投げさせたら分かるかもしれない。配球の流れからも外角でストライクが欲しいところだし、試してみるか)


 一球目と同じように優築は外角低めへのストレートを要求する。これにも春歌は一回で頷いたが、従う気は毛頭無かった。


(そうですか……。私の考えは受け入れてもらえませんか。だったら仕方が無いです。すみませんが好きにやらせてもらいます) 


 春歌が二球目を投じる。やはりと言うべきか、彼女の右腕から放たれた直球は再び大野の顔の近くを抉った。



See you next base……


PLAYERFILE.18:花輪君佳(はなわ・きみか)

学年:一年生

誕生日:8/7

投/打:右/右

守備位置:遊撃手

身長/体重:164/52


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