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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第三章 先輩として
30/223

29th BASE

お読みいただきありがとうございます。


この時期は毎年家に大量のみかんが置いてあり、それをお風呂で食べることが日課です。

これをすると風邪を引かなくなるので、勝手に予防になると思って続けております。


 打席には二番の穂波が入ろうとしていた。前の打席ではピッチャーゴロに抑えているが、ここはランナーも警戒しなければならないので、先ほどとは勝手が違ってくる。


(ツーアウトとはいえ、盗塁で得点圏にランナーを置くのは避けたい。何とか一塁に釘付けにしておかないと。まずは一球様子見をしてましょう)

(はい)


 優築の指示に従い、春歌が牽制を投じる。濱地は立ち上がったまま一塁に戻る。


(バッティングの積極性が走塁にもあるなら、初球から走ってくることも大いにあり得る。次は殺しにいくつもりで牽制を入れよう)

(分かりました)


 春歌は続けて牽制する。今度はクイックモーションで一塁へと投げた。濱地は頭から滑り込んで帰塁する。クロスプレーにはなったが判定はセーフ。タイミング的にはまだまだ余裕があった。


(まあここでアウトになるほど野暮じゃないか。とりあえず牽制はこれくらいにして、春歌には打者に集中してもらいましょう。ランナーとの兼ね合いでストレートを狙ってるだろうし、アウトコースのカットボールでもし打ってきても芯を外せるようにしておく)


 穂波への一球目。セットポジションに入った春歌が足を上げる。すると濱地は二塁に向かって走り出す。スチールを仕掛けてきた。


(やっぱり来たか。刺す!)


 優築は立ち上がりながら投球を受け、素早く態勢を整えて二塁に投げる。送球はベースカバーに入ったセカンドの愛の胸元へ。ボールを捕った愛はスライディングしてきた濱地の爪先にタッチする。


「セーフ!」


 二塁塁審は両手を広げてジャッジを下す。間一髪で濱地の足が早かった。盗塁は成功し、ツーアウト二塁と浜静がチャンスを広げる。


(くそ……。私の肩じゃあれが精一杯か)


 優築は歯がゆそうに唇を噛み、マスクを被って座り直す。捕ってからの素早さも送球の質も申し分なかったが、僅かに濱地のスピードが上回っており、優築からすれば完全な力負けとなってしまった。


(仕方が無い。打者を抑えて乗り切る。三盗があるかもしれないけど、ツーアウトだしそこまで気に留める必要は無い。とにかく打者相手に注力しよう)


 一球目の投球はストライク。優築は次の球にインコースのツーシームを要求する。


(外れても構わない。大振りせず引きつけて打つことを考えているだろうし、早いカウントで内を意識させておきたい)

(分かりました)


 春歌が二球目を投げる。穂波は若干及び腰になりながら見送った。


「おっと……」

「ボ―ル」


 カウントはワンボールワンストライクとなる。優築はストレートのサインを出すと、再び穂波の体の近くにミットを構える。


(今の反応を見るともう一球内角で行っても良い気はする。こっちのコースでストライクを取って、最後は外を使って打ち取ろう)

(お、二球続けてインコースだ。やっぱり優築さんとは気が合うのかも)


 三球目。春歌の力の籠った直球が内角低めを突く。しかし優築の予想に反し、穂波はフルスイングで弾き返して快音を響かせた。


「嘘?」

「ショ、ショート!」


 揃って虚を衝かれた表情を見せるバッテリーを後目に、打球が三遊間を襲う。京子が懸命にダイブしていくも捕ることはできず、レフトへのヒットとなる。


「回れ回れ!」


 濱地が快足を飛ばして三塁を蹴った。レフトの逢依は前に出ながら打球を掴み、急いでバックホームする。


「ノーカット!」


 送球はワンバウンドで優築に渡る。濱地はその背後に回り込み、勢いよくスライディングしながら左手でベースの先端に触る。


「セーフ! セーフ!」


 優築のタッチも及ばず、濱地がホームイン。浜静に二点目が入る。打った穂波は二塁まで進んだ。


「おっしゃ! ナイスラン、ナイスバッティング!」


 浜静ベンチが一層の盛り上がりを見せる。走者のいない二死から、守りのミスに付け込んで挙げた追加点。亀ヶ崎に大きなダメージを与えたことは言うまでもないだろう。


「くっそ……。私のせいだ……」


 濱地の生還を見届けた瞬間、京子は思わず膝に手を付いて項垂れる。自らのエラーで失点を招いてしまった。彼女の心は罪悪感で一杯になり、自責の念に苛まれる。


「アウト。チェンジ」


 次打者の花輪はライトフライに倒れてスリーアウト。優築はベンチに戻るとすかさず春歌に声を掛け、ヒットを打たれた穂波の打席について復習する。


「春歌、ごめんなさい。二番への配球、私が相手を侮っていた部分があった。ちょこんと合わせてくるタイプだと思ってたけど、あんなに強振できるなんてね。春歌のコントロールを信じて外角を突いていくべきだった」

「そんな、優築さんのリードは間違ってないですよ。私も同じ意見だったからそこに投げたわけで、しっかり詰まらせられなかったのいけないんです。次は必ずやり返します。だからこの後も、どんどんインコースを使っていきましょう」


 春歌は咄嗟に強気を取り繕い、優築を庇う。このままでは内角への投球が減らされるのではないかと懸念したのだ。


「そう? 分かった。もう少し用心深く相手を見てサインを出すようにはするけど、インコースの割合は変えない。一本打たれて弱気になっていてはいけないものね」

「はい! よろしくお願いします!」


 自分の意見が通り、春歌はほっとしたように白い歯を溢して返事をする。同時に今一度、自分に対して活を入れる。


(もうインコースを打たれるわけにはいかない。“私のピッチング”を続けられるようにするためにも、より厳しいところに投げ切らなくちゃ)


 この選択が吉と出るのか凶と出るのか。春歌にとって重要な分岐点となりそうだ。


 三回裏の亀ヶ崎は三人で攻撃終了。続く四回表、春歌は大野にヒットを許すも、後ろを抑えて生還はさせなかった。


 四回裏の亀ヶ崎の攻撃。打順が一巡し、再び一番の京子が先頭打者となる。一打席目は三球三振、加えて先ほどの守備では失点に結びつくエラーを犯してしまうなど、ここまで全く良いところがない。どうにかして巻き返さなければ。


(ウチのエラーで取られた分はウチで取り返さないと。ここはとにかく打つしかない)


 初球、桜はアウトローに直球を投げ込んできた。京子はバットを強振していくも体の開きが早く、空振りとなる。ネクストバッターズサークルにいた洋子はすかさず注意を促す。


「京子振り過ぎ! 全然当たるところ見られてないよ。ミスを取り返したいのは分かるけど、自分を見失っちゃ駄目だぞ!」

「は、はい」


 二球目。真ん中にカーブが来る。


(コースは甘い。これぐらいは打たなきゃ)


 京子はこれにも手を出していく。ところがまたもやスイングに余分な力が入り、沈んでくるボールをバットの下で引っ掛けてしまった。


See you next base……


PLAYERFILE.15:桜胡桃(さくら・くるみ)

学年:一年生

誕生日:5/8

投/打:右/右

守備位置:投手

身長/体重:159/52


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