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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第一章 野球女子!
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2nd BASE

お読みいただきありがとうございます。


前書きは作者が自由なコメントを残すのに使っています。

本当に自由なので、スルーしていただいて構いません。

偶に重要なことを呟くこともありますが。


……あ、血液型はB型です。

「ありがとうございました!」


 朝練が終了し、私たちは制服に着替え直す。今日から新学期ということで、昇降口の前には新しいクラス分けが張り出されていた。


「えっと、柳瀬は……」


 さてさて、自分の名前はどのクラスにあるのか。私の苗字の頭文字は“や”なので、名簿を下からなぞって探していく。


「お、あったあった。一組かー」

「え、真裕も一組? 私と一緒じゃん! やったね!」


 そう言って、一人の女の子が私の横で軽く飛び跳ねながら喜ぶ。肩に掛かるか掛からないかの位置で上下にふんわりと揺れる髪は、まるでタンポポの綿毛みたいだ。


「ほんとだ、紗愛蘭ちゃんもいる。嬉しい! 一年間よろしくね」

「えへへ、こちらこそよろしく」


 頬を桃色に染めて笑う彼女の名前は、踽々莉(くくり)紗愛蘭(さあら)ちゃん。私と同じく野球部に所属している。一年前に出会った頃は私たちに遠慮を見せる部分も多かったが、今ではすっかり仲良くなり、こうして喜怒哀楽を包み隠さず表現してくれるようになった。まあ怒ったところは見たことないのだけれど。


「真裕たちは一組か。残念ながら私は五組。まあ菜々花(ななか)とゆりも五組だから良っか」


 頭の後ろで手を組み、ほっとした表情を見せるのは笠ヶ原(かさがはら)(さち)ちゃんだ。彼女ももちろん野球部の一員。高校に入ってから野球を始め、色々と苦労していることも多いが、最近は徐々に試合で活躍できるようになってきている。因みにここにはいないが、先ほど祥ちゃんが口にしていた菜々花ちゃんとゆりちゃんも野球部の仲間である。


 今年は誰かが孤立することなく、上手い具合に野球部の面々は振り分けられているようだ。……と思ったら、一人だけ例外がいた。


「ねえねえちょっと待ってよ。ウチ二組なんだけど。部の人誰もいないんだけど。……もしかして、一人ぼっち?」

「あー……。京子ちゃん二組なのか。ってことは……、そうなるね」


 私は紗愛蘭ちゃんと祥ちゃんと気まずく顔を見合わせる。こればかりはどうにもしようがないことなのだが、無意識に京子ちゃんに対しての申し訳なさが芽生える。


「だ、大丈夫だよ。京子ならすぐに友達できるって。それに私たちとは野球部で会えるでしょ」

「はあ……。紗愛蘭は自分のクラスが良かったからそんなお気楽に言えるんだよ。一年生の時ですら野球部以外に新しい友達ができなかったのに、二年生でできるわけないじゃん。あーあ、ウチはこの一年、孤独な時を過ごすことになるのか……」


 紗愛蘭ちゃんのフォローも効果は無く、京子ちゃんは魂が抜かれたかのように憂える。流石に友達が一人もできないということはないと思うが、ちょっと心配なので落ち着くまでは様子を見にいってあげるとしよう。


「まあまあ京子ちゃん、そんなに気を落とさないで。私たち隣のクラスなわけだし、定期的に紗愛蘭ちゃんと遊びに行くよ」

「……ほんとに? ならまあ良いか」


 京子ちゃんの表情にほんの僅かながら晴れ間が差す。ひとまずは何とかなりそうだ。


 こうして各々のクラスは一通り確認できた。私たちは靴を履き替えて教室へと向かう。


「よいしょっと」


 二年一組と表記された教室に入り、私は自分の席に荷物を降ろす。紗愛蘭ちゃんとは若干距離が離れていた。新しいクラスは楽しみな反面、その雰囲気に馴染めるかどうかの不安はある。


「おお、柳瀬も一組なのか」

「へ?」


 すると背後から、親しみのある声の男の子が話しかけてきた。私は咄嗟に振り返り、彼と視線を交わす。


 一八〇センチに迫る身長と、学生服がはち切れそうなほどに鍛え上げられた逞しい上半身。スポーツマンとしては理想的な体型をしている。

 椎葉(しいば)(たけし)君。男子野球部のエースピッチャーである。高校入学の時点で既に一四〇キロを投げるほどの実力を持っていた彼は、一年生から主力として活躍。甲子園への出場、更にはその先の日本一を目指して日々奮闘し続けている。私とは入部当初に行われた交流試合で投げ合い、以後はライバルとして切磋琢磨する仲となった。といっても一方的に私が思っているだけなのかもしれないが。


「椎葉君も同じなの? ふふっ、これは楽しくなりそう。一年間よろしく」

「お、おお……。よろしくな」


 椎葉君はうっすらと口元を弛ませ、左手の薬指で頬を掻く。マウンドにいる時や普段の私生活では寡黙で威厳のあるオーラを纏っている彼だが、時折こうしてあどけなく相好を崩すことがある。この雄雄しさと可愛さのギャップが、個人的に好きだ。


「おーい椎葉、ちょっと良いか?」

「え? ああ、今行く」


 友達に呼ばれ、椎葉君は素早く顔を引き締めて去っていく。それと入れ替わるように、今度は紗愛蘭ちゃんが私の元に寄ってきた。


「ねえ、今の椎葉君だよね? 同じクラスなんだ」

「そうみたい。紗愛蘭ちゃんはこれで二年連続だね」

「うん。それはともかくさ、最近椎葉君とはどうなの? 進展はあった?」 

「はい? いきなり何言ってるの。別に進展することなんてないよ」

「またまたそんなこと言っちゃって。二人でお出かけとかしてないの?」


 紗愛蘭ちゃんはにんまりと口角を持ち上げ、少し体を屈ませてから私の顔を覗き込んでくる。一年前は五センチほど私の身長が上回っていたが、紗愛蘭ちゃんが急成長したこともあり、その差はほぼ無くなった。


「してません。そもそも私たちは同じ高校で野球をやってるってだけで、それ以外の繋がりは無いから」


 私は紗愛蘭ちゃんのおでこを掌で押し退けた。この手の質問は何故か他の人からもよくされる。別に腹が立つとかそういった気持ちになることはないが、実際に何もないことを聞かれても答えようがないので困るのだ。椎葉君と私は、野球をやっている者同士として仲が良いだけ。それなのにどうして皆、こんなにも(はや)し立ててくるのだろうか。


「ほんとかなあ。ま、この一年間じっくり観察させてもらうとしよう」

「どうぞご勝手に。何も起こらないと思いますけどね」

「はーい。とりあえず今はそういうことにしておいてあげます」


 悪戯っぽく舌を出す紗愛蘭ちゃん。昔の淑やかだった彼女が恋しい。一体どこへ行ってしまったのか。もちろん今の紗愛蘭ちゃんも大好きだけれども。




 始業式など諸々の予定を終え、放課後となった。私たちは再びユニフォームに袖を通し、部活動に勤しむ。


「次、スライダー行きます!」


 私のポジションは、椎葉君やお兄ちゃんと同じピッチャー。一応このチームでは一番手に位置付けている。現在はブルペンに入り、投球練習を行っている最中だ。


 グラブを大きく振りかぶり、左足を上げる。そこから臀部を軸に着地した後、下半身に込めた力を上半身に押し上げて一気に右腕を振る。指先から放たれた白球は勢い良く直進し、ホームベースの手前で鋭く横に曲がった。


「ナイスボール」


 キャッチャーミットから快い音が響き渡る。この瞬間が堪らなく爽快で、私がピッチャーに焦がれる理由の一つである。


「おー、清々しい投げっぷりだなあ。見てるこっちまで気持ち良くなってきますよ」


 そんな私のピッチングをずっと眺めていた人がいたようで、唐突に誰かの呟き声が聞こえてきた。気になって確認してみると、ブルペン横の階段を登った先で座っていた一人の女の子と目が合う。


 新たな出会いの予感がした。



See you next base……

PLAYERFILE.2:陽田京子(ひなた・きょうこ)

学年:高校二年生

誕生日:4/20

投/打:右/左

守備位置:遊撃手

身長/体重:152/50

好きな食べ物:ポテトチップス、ハンバーガー


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