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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第三章 先輩として
29/223

28th BASE

お読みいただきありがとうございます。


先日念願の「さわやか」デビューを果たしました!

味ももちろん美味しかったのですが、何と言っても大きくて挽き目が粗く食べごたえがありましたね。

静岡県内にしかありませんが、皆さんもぜひ行ってみてください!

「あんなにバット振り回して空振りしておいて、最後はスクイズなんて。卑怯だよ」


 ボールを処理した位置で腰に手を当て、不本意そうに嘆く春歌。もちろんルールの範囲内なので何一つ卑怯なことなど無いが、そう思わずにはいられないほど周到に計られた作戦だった。


「春歌、気持ちは分からないでもないわ。私も正直スクイズはしてこないと思ってた。読み負けってことね。でもツーアウト目は取れたし、今は後続を経つことを考えましょ」

「はい。くよくよしてもどうにもなりませんもんね。次のバッターを必ず打ち取ります」


 すかさず優築が声を掛けて立て直そうとする。これによって春歌はすぐに気持ちを改められる。


(まだ一点取られただけ。それもスクイズで失ったんだから打たれたわけじゃない)


 マウンドに戻った春歌は一度帽子を脱ぎ、額の汗を拭いながら自らを鼓舞する。点を取られたことは残念だが、それはもう終わったこと。先発投手は常に前を向いて投げ続けなければならない。


「サード」

「オーライ」


 春歌は七番の永沢(ながさわ)を一球でサードゴロに仕留める。先制は許したものの後には引き摺らず、一点で堪えた。


 二回裏。亀ヶ崎は洋子を中心に円陣を組んで士気を高める。


「点を取られたら取り返せば良いんだ。早い内に追い付いて、春歌を楽にしてあげよう」

「おー!」


 この回の攻撃は四番の珠音から始まる。彼女は右打席に入るとじっくりと足場を均しつつ、前の回の終了時に紗愛蘭から聞いた情報を思い出す。


(初回はストレート、カーブ、シュートの繰り返しだったみたいだけど、私にも続けてくるのかな。だとしたら最初に来る真っ直ぐを叩きたいな。あんまり速くなさそうだし、初見でも打てるでしょ)


 ピッチャーの桜がサインに頷き、一球目の投球を行う。外角低めへのストレート。珠音は迷わず打ちに出た。


(これくらいのスピードなら全然打てる。いただきます!)


 ボールがバットに当たった瞬間、珠音の腕に真芯で捉えた感触が生じる。打球は痛烈なライナーとなって右方向を襲う。


「オーライ」


 しかし飛んだ先はライトの正面。守っていた濱地がほとんど動くことなく、すぐに足を止めて捕球した。


「あらら……。残念」


 一塁を回ろうかというところまで走っていた珠音だったが、アウトになったのを見て口を尖らせながら引き返す。ただ内心ではこの結果に関して合点がいっていた。


(なるほどね。良い当たりを敢えて打たせておいてアウトを取る。もしかしてこれが相手バッテリーの狙いなのかも)


 野球のポジションというのは、バットの芯で弾き返した打球が飛んでいきやすい場所を計算して設定されている。そのためいくら打者が会心の一撃を放っても、外野の頭を越えない限り一定の確率でアウトになってしまうのだ。浜静バッテリーが単調な配球をする裏にはそういった絡繰りが潜んでいた。


(こういうのって分かっていても崩す方法が無いから厄介だよ。おそらく一巡目は全員この組み立てで来るだろうな)


 珠音の予想は的中する。浜静バッテリーは五番の杏玖、六番の逢依に対しても、これまでと全く同じ投球内容で攻めてきた。そして二人はまんまとその術中に嵌る。


「センター」

「オーライ」


 杏玖は五球目を打ってショートゴロに倒れる。逢依はツーボールワンストライクからの四球目を思い切り振り抜くも、センターライナーに終わった。


「あー、これも惜しい……」


 打球が上がる度に亀ヶ崎ベンチから歓声が沸いたが、どれも再現リプレーを見るかの如く最後は萎んでしまう。三者凡退でチェンジとなり、珠音はグラブを持ってファーストのポジションへと走っていく。


(杏玖も逢依も打たされちゃったか。それにしても色々と強かなことを仕掛けてくる相手だなあ。難しい作戦も臆せず成し遂げてくる度胸もあるし、今年から発足したチームとは到底思えないよ)


 まだ試合は二回裏までしか進んでいないが、珠音は浜静のレベルの高さを(ひし)と感じ取る。彼らを侮ってはいけない。その思いは珠音以外のナインも抱き始めていた。


(得点はそんなに取れそうもない。だったらこっちも与えちゃいけない。春歌のピッチングが通用していないわけじゃないし、私がしっかりリードしてこの点差を維持するんだ)


 キャッチャーの優築はより一層気を引き締めて三回表の守備に臨む。浜静の打順は下位に回り、八番の丸尾(まるお)が右打席に立つ。彼女はスポーツ選手としては珍しく、試合中でも眼鏡を掛けている。


 初球はアウトローのストレートが外れるも、その後二球連続でストライクが入り、亀ヶ崎バッテリーは丸尾を追い込む。続く四球目、春歌は再び直球を外角低めに投げていった。


「ストライクスリー」


 丸尾はバットを振ることができず、見逃し三振に倒れる。まずは春歌たちがアウトのランプを一つ灯す。


「スイング。バッターアウト」


 九番の桜も三振を喫する。あっさりとツーアウトになり、次の打者は一番の濱地だ。


(濱地の一打席目はツーシームに詰まってサードゴロ。少々のボール球でも打ってくる傾向にあった。この打席もその穴を突いて打ち取りたい)


 一球目、優築はストライクからボールになるカーブを要求し、春歌の投球もその通りになる。濱地はこれにも手を出してきた。ボールはバットの下面に当たる。


「ショート!」

「オーライ」


 平凡なゴロがショートの右に転がっていく。京子は素早く打球の正面に回り、捕球体勢に入る。これでスリーアウトとなりそうだ。


「あ……」


 ところが京子は打球を捕る際、グラブの中でジャックル。すぐに手前に落ちたボールを拾って一塁に投げようとするも、その時には既に濱地はベースを駆け抜けようとしていた。三人で攻撃終了のはずが、まさかのエラーで俊足のランナーを生かしてしまった。


「ごめん春歌。捕らなきゃいけない打球だったのに……」

「気にしないでください。こういうことだってありますよ。次お願いします!」

「うん……。分かった」


 京子の謝罪に春歌は笑顔で応え、返球を受け取る。二回に続いて迎えたピンチ。今度は抑えられるのか。



See you next base……


WORDFILE.5:タイムリー(適時打)


 走者を本塁に生還させた安打のこと。タイムリーは放った打者には、得点の数だけ打点が記録される。

 英語でタイムリー(Timely)とは「ちょうど良い時期」という意味があり、それを直訳して日本語で“適時”打と表現するようになったと言われている。


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