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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第三章 先輩として
26/223

25th BASE

お読みいただきありがとうございます。


死ぬまでに一度で良いから「さわやか」のハンバーグが食べてみたいです。


 一、二番を春歌が抑え、打順は三番の花輪(はなわ)に回る。彼女はヘルメットから伸びた後ろ髪を優美に靡かせ、球審に一礼して右打席に入る。


「よろしくお願いします」


 まだ一年生の花輪だが、身長は既に一六五センチに迫る。体型こそまだまだ華奢ではあるものの、打球を遠くに飛ばせる力は持っていそうだ。


(身長高いな。この人って一年生なんだっけ。栄輝よりもあるんじゃない?)

(背が高いというのは利点ばかりじゃない。内角は一層腕を畳まないと捌きにくいだろうし、そこをきっちり突いていければ十分抑えられるはず。ということで春歌、一球目はインハイに真っ直ぐを投げてきて)

(お、こういう人にはそのコースが一番有効ってことかな。分かりました)


 初球、バッテリーはストレートで花輪の胸元を抉る。花輪は少しだけ背中を反らして見送った。判定はボールとなる。


(おー、怖い怖い。挨拶代わりとしては真摯じゃないね)


 ボ―ルの通過点を見ながら口を(すぼ)める花輪。ストライクゾーンから僅かに外れている程度ではあったが、危なく感じられたみたいだ。


(次はストライクを取っておきたい。アウトローのカーブで行こうか)

(はい)


 二球目。春歌は外角低めに向けてカーブを投じる。しかし若干コースが外れ、真ん中に入ってしまった。打者にとっては好球となり、花輪は果敢に打って出る。


「センター!」


 鮮やかなライナーがマウンドを越え、外野まで飛んでいく。咄嗟に振り返った春歌の視線の先では、センターを守る増川(ますかわ)洋子(ようこ)が懸命に前進していた。


(諦めてヒットで止めた方が良いか? いや、これくらいならチャレンジしないと)


 打球が落ちてくる。洋子は落下地点に合わせ、グラブを出して前のめりに飛び込む。


「痛た……。捕ってます!」


 洋子は地面に腹を打ちながらも、ボールの入ったグラブを高々と掲げる。後ろに逸らすことを恐れず挑戦していったことが功を奏し、アウトを捥ぎ取った。


「ナイスセンター!」


 亀ヶ崎ナインが拍手を送る中、洋子は仰々しく喜ぶことはせず颯爽とベンチに帰っていく。彼女のファインプレーもあり、結果的に一回表は三者凡退で終わった。


「春歌ちゃん、ひとまず初回の投球お疲れ。ナイズピッチだったね」

「それほどでもないですよ。洋子さんが助けてくれたおかげです」


 マウンドから降りてきた春歌を真裕が迎え、二人はグータッチを交わす。春歌は一球のコントロールミスこそあったものの、インコースへはしっかりと強い球を投げ込めている。最後の打球がセンターフライになったのも、直前の内角高めへのストレートが効き、打者の踏み込みが甘くなったからであろう。まだ一イニングだが、春歌自身の言う“自分のピッチング”ができていると思われる。


 試合は一回裏の亀ヶ崎の攻撃に移る。最初の打者は京子。隆浯が先に言っていた通り、今回は前の試合からオーダーを弄ってきた。


「よろしくお願いします」


 京子が左打席に立つ。一番を務めるのは高校に入ってからでは初めて。普段とは違う場所でどのような働きを見せるのかの資質が問われる。


(一番の役目はとにかく塁に出ること。紗愛蘭みたいにポンポンとヒットは打てないかもしれないけど、せめてフォアボールくらいは取りたい)


 一球目、真ん中高めにストレートが来る。京子はバットを振ることなく見送る。


「ストライク」

「京子! 良い球見ていく必要無いよ! どんどん打っていこう」

「は、はい」


 ベンチから聞こえてきた声に、京子は狼狽えながら返事をする。実際にそれほど難しい球ではなかったので、手を出していっても良かったかもしれない。


(しまった……。今のは打つ気でいればヒットにできたかも。もったいなかった。次は逃しちゃ駄目だ)


 二球目。初球とは一転して低めにカーブが来た。打ちにいこうとスイングした京子だが、投球はボールゾーンへと沈んでいき、彼女のバットは空を切る。


「そこはボ―ルだよ! 打ってもヒットにならないから、しっかり見極めて!」

「は、はい」


 再びベンチから声が飛んでくる。京子は一球目の時と同様、しどろもどろになって応答するしかない。むざむざと二球で追い込まれてしまった。


(ストライクを見逃してボールを振るって、最悪なパターンじゃん。このまま何もできず終わるわけにはいかない。ちょっとでも次に繋がることをしておかないと……)


 心臓が手で握られているような息苦しさを覚える京子。どうにか頭の中の混乱を収めつつ、バットを構え直す。


 三球目が投じられる。インローへのストレート。しかし軌道は僅かにストライクゾーンからは外れていた。京子は身体に当たることを案じて右膝を後ろに引く。


(え?)


 ところがボールは途中からベース側に食い込んできた。打つ体勢が崩れた京子はバットを振ることもできず、見送るしかない。


「ストライクスリー。バッターアウト」

「ああ……」


 京子はあんぐりと口を開ける。結局相手に操られているかの如く三球三振に倒れ、彼女は肩を落として打席から引き揚げる。本人としてもチームとしても、何とも嫌な感じの始まりになってしまった。


See you next base……


STARTING LINE UP


1.陽田 京子    右/左 ショート

2.増川 洋子    右/右 センター

3.踽々莉 紗愛蘭  右/左 ライト

4.紅峰 珠音    右/右 ファースト

5.外羽 杏玖    右/右 サード

6.琉垣 逢依    右/右 レフト

7.江岬 愛     右/左 セカンド

8.桐生 優築    右/右 キャッチャー

9.沓沢 春歌    右/左 ピッチャー


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