23rd BASE
お読みいただきありがとうございます。
最近とあるきっかけで英会話ができるようになりたいという思いが強くなりました。
聞き取りはそこまで苦手ではないのですが、話すときにどうしても単語が出てこず苦労してします。
ちょっとずつ練習していかなくては……。
《二番線に豊武駅行きがまいります》
ホームで待つこと五分、電車が到着する。私たちはそそくさと乗り込み、ドアに近い場所の席に腰掛けた。
「それにしても春歌ちゃんはほんとに良い子だなあ。あの子が来てから部活がもっと楽しくなった気がする」
「それは良かったね。ウチの場合は昴が入って悩みが増えたよ。はあ……」
京子ちゃんは溜息を漏らし、疲弊した様子を見せる。先日一緒に帰った時には昴ちゃんと距離を感じていると話していたが、それがまだ解消されていないのだろうが。
「昴ちゃんと上手くいってないの?」
「いや、それは最初のことを考えたら大分良くなったと思う。それよりも重大な問題が起きてる」
「何々? 推しが被ったとか?」
「違うわ! いつの間にそんなこと覚えたのよ……。まあ良いや。今心配なのは試合に出られるか出られないかの話。このまま昴が台頭してきたら、私の出番がどんどん減っちゃうじゃん」
話をする最中、京子ちゃんはずっと頭を抱える素振りをしていた。いつになく真剣に悩んでいるみたいだ。
確かに昴ちゃんの能力は高い。今後も試合で使われていくだろう。しかし京子ちゃんも実力でレギュラーを獲得し、去年の秋から守り続けている。その実績や経験はそう易々とは覆せないはずだ。
「大丈夫だよ。京子ちゃんは歴としたレギュラーなんだし、高校で一年間やってきた差は簡単には埋まらないよ。危機感を持つのは悪いことじゃないけど、そこまでナーバスになる必要は無いと思う」
「それは真裕のように才能のある人だから言えるんだよ。ウチみたいな凡才は、ちょっとでも隙を見せたらすぐに天才に追い抜かされちゃうの」
「いやいや、私からしたら京子ちゃんだって才能がある人だよ。足の速さとか球際の強さとか、私や昴ちゃんよりも得意としてることがあるじゃん」
京子ちゃんは決して凡人なんかではない。この一年で大きく成長しているし、これからもきっとどんどん成長を遂げていく。だから昴ちゃんにだって負けない。
「ありがとう。その意見は素直に受け取っておくよ。ウチもレギュラーを譲りたいわけじゃないし、奪われないよう努力はするつもり。とりあえず、与えられた機会で結果を残していくしかないね」
私の言葉を聞いて自信が湧いたのか、京子ちゃんの表情が少し冴えたものに変わる。私としてもショートは京子ちゃんに守っていてもらいたい。やっぱり二人で一緒に試合に出られる方がやっていて楽しいのだから。
「うん、その意気だ。私も春歌ちゃんたちに負けないようにしないと」
春歌ちゃんも昴ちゃんも、大事な後輩であり、ライバルでもある。その線引きをはっきりとつけるのは難しいかもしれない。だけどどちらでも良好な関係が保てるようにしていこう。揺れる電車の中、私はそう決意するのだった。
ゴールデンウィークが迫ったある日。放課後の練習を終えた私たちは、監督の元に集合する。本日は何やら報告があるそうだ。
「皆ご苦労。今日はゴールデンウィークの予定について話がある。三日の日だが、静岡にある浜静高校と試合を行うことになった」
「浜静高校?」
私たちは揃って首を傾げる。浜静高校、聞いたことのない名前だ。昨年の夏の大会でも見ていない気がする。
「お、その反応は誰も知らないって感じだな。まあそりゃそうか。今年女子野球部ができたチームだからな」
「え? じゃあ全員一年生なんですか?」
「いや、向こうの監督の話では二年生もいるということだった」
杏玖さんの質問に、監督は首を横に振って答える。
「どうやら去年は同好会という形で活動していて、新たに一年生が加わったことで部として承認されたんだと。一応今年の夏の大会にも参加できるらしい」
「なるほど。そういうことだったんですか」
「うむ。場所はうちのグラウンドでやる予定だ。夏の大会を見据え、今回はバリエーションに富んだ起用をしていこうと思ってる。新入生の出番も増えるかもしれない。特に気負わずプレーしてくれれば良いが、自分たちもチームの一員として戦うんだという心構えは作っておいてくれ。良いか?」
「はい!」
「は、はい」
昴ちゃんや春歌ちゃんが威勢良く返事をする一方、この前の試合に出ていなかった一年生たちはやや引き攣った顔をしている。去年の私たちもそうだったが、入部して間もないのに試合に出すと言われれば、どうしても気を張ってしまうものだ。だが一年生でこんなにあっさりとチャンスがもらえるチームは少ない。ぜひともチャンスを活かしてほしい。
「報告は以上だ。何も無ければこれで解散とする。明日も朝が早いから、だらだらと油を売らずにさっさと帰れよ」
「はい! ありがとうございました!」
ゴールデンウィーク中に試合が組まれるとは思っていたが、今年創設したチームとやることになるとは。同級生もいるみたいだし、新たな出会いがありそうで楽しみだ。
「真裕、春歌。二人ともちょっとだけ残ってもらえるか?」
「へ? はい、大丈夫です」
終わりの挨拶を済ませた後、監督が私たちを呼び止める。
「どうしましたか?」
「さっき話した浜静との試合の件だが、実は一試合目の先発を春歌に任せようと思ってるんだ」
「え? 私が先発ですか?」
春歌ちゃんは素っ頓狂な声を上げて自分を指さす。監督は淡々とした顔つきのまま、ゆったりと頷いた。
「そうだ。春歌くらいの力を持っていれば、新人ということは構わず先発マウンドに上げても大丈夫だと俺は思ってる。それに静浜はおそらく一年生が中心になって動いてる。決して侮っているわけではないが、初先発の相手としては最適だろうし、お前にも良い刺激になるはずだ。やってくれるか?」
「もちろんです! やります!」
嬉しそうに何度も首を縦に動かす春歌ちゃん。それを見た監督は僅かに相好を崩しかけたが、咄嗟に口の形を整え、今度は私に確認を取る。
「それなら良かった。真裕はどうだ? 春歌を先発させても良いと思うか?」
「はい。大丈夫だと思います。私も二回目の練習試合で先発しましたし、春歌ちゃんもここでやっておけば、夏の大会に向けての算段が立てられますしね」
態々検討する必要など無い。春歌ちゃんなら先発で投げても卒なく熟してくれるはずだ。私にはその確信があった。
「ありがとうございます! 真裕先輩がそう言ってくれるなら、自信を持って投げられそうです」
春歌ちゃんの笑顔がはち切れる。新入生を迎えて二度目の試合は、胸の弾む話題が多くなりそうだ。
See you next base……
★二年生の通学事情★
真裕と京子は普段、電車と徒歩で学校に通っている。所要時間は合計で約40分。内訳は自宅から駅まで、駅から亀ヶ崎高校までがそれぞれ徒歩で15分、電車に乗っている時間が20分となっている。
紗愛蘭、祥、菜々花の三人は自転車通学。祥と菜々花が大体20分掛かるのに対し、紗愛蘭は家から5分と非常に近い。羨ましい。




