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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第三章 先輩として
23/223

22nd BASE

お読みいただきありがとうございます。


後輩とは比較的仲良くできたタイプだと自負しておりますが、それ故に舐められる?ことも多かったです。

その辺りの線引きってほんとに難しいと思います(苦笑)。


「ありがとうございました!」


 今日の練習が終わった。時刻は一時手前。お腹が空き過ぎて死にそうだ。私は家に帰る前に、京子ちゃんとコンビニに寄って食べ物を調達する。


「京子ちゃん、何にするか決めた?」

「うん。ウチはコロッケにしようかな」

「へえ、京子ちゃんがコロッケなんて珍しいね。そしたら私は……、“カラアゲちゃん”の醤油味にしようかな」


 二人とも何を食べるか決め、購入まで済ませる。そうして外に出ようとしたところ、私たちと入れ替わりでコンビニに入ろうとしていた春歌ちゃんとばったり遭遇した。


「あ、真裕先輩に京子先輩。お疲れ様です」

「お疲れ様。春歌ちゃん一人?」

「はい。私だけ皆と帰る方向が違うので、こうなることが多いんですよ」

「そうなんだ。もしかして今から食べる物でも買うの?」

「はい。家に着くまで我慢できそうになくって……」


 春歌ちゃんは恥ずかしそうにお腹を摩る。頬が若干赤らみ、普段以上に可愛らしい。せっかくなので、ここは少し先輩らしいことをしてみようかな。


「よし、じゃあ私が奢ってあげよう!」

「え、良いんですか!? やった!」


 顔を綻ばせる春歌ちゃん。私も反射的に嬉しくなる。

 ということで私は春歌ちゃんと一緒に再度入店。春歌ちゃんは“カラアゲちゃん”のレッドハンバーグ味を選んだ。


「いただきます」


 私たちは帰り路を歩きながらそれぞれ買ったものを食べることにする。駅に向かう方向とはやや外れた場所に家がある春歌ちゃんだが、話がしたいということでこちらに付いてきてくれた。


「んー、美味しい。久しぶりに“カラアゲちゃん”食べたなあ」


 私は袋に詰められた唐揚げを一つ、爪楊枝で刺して口の中に入れる。こんがり揚がった衣を噛んだ瞬間、ジューシーな肉汁と醤油の香ばしさが広がる。やはり唐揚げはこうでなくてはならない。私の頬は独りでに緩み出す。


「ふふっ。真裕先輩の顔、何だかほっこりしててすっごく幸せそうです」

「えっ、まじ? やばいやばい」


 隣を歩いていた春歌ちゃんに笑われ、私は慌てて表情を整える。危ない危ない、“カラアゲちゃん”のあまりの美味しさに心が奪われてしまっていた。後輩にこんな締まりのないところを見られるわけにはいかない。


「そういえば春歌ちゃん、他の一年生とは仲良くなれた? もう会って二週間ぐらい経つし、大分話せるようになったんじゃない?」

「ああ……、どうなんですかね。一応話すことには話しますけど、仲良くなれたって言われると難しいですね」

「あらら、そうなんだ。因みによく話す子とかはいるの?」

「挙げるとすれば昴ですかね。練習の時は大抵ペアを組んでますし。あとはきさらなんかとも話すことが多いです。まああの子の場合、向こうが一方的に喋ってるんですけど」


 春歌ちゃんは苦々しく白い歯を見せる。ただその口ぶりは軽快で、そこまで嫌な気はしていないように思われる。


「ははは。きさらちゃんって、話し出すと止まらないんだね」

「そうなんですよ。だからこそ誰とでも仲良くできるんだと思いますけどね。その辺りは羨ましいです」

「いやいや、春歌ちゃんだってできるでしょ。現に私とももうこんなに仲良くなってるし」

「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます」


 春歌ちゃんは照れくさそうに微笑んで後ろ髪を触る。表情も豊かで、人当たりも良い。そんな彼女なら他の一年生と親しくなるのも時間の問題だろう。


「真裕先輩たちはどうだったんですか? 二年生って仲が良い印象ですけど」


 今度は春歌ちゃんが私たちに尋ねてくる。私と京子ちゃんは顔を見合わせ、互いに考え込んだ。


「うーん……。特別仲が良いとは思わないけど……。最初は春歌ちゃんたちと似たような感じだったよね」

「どうなんだろう。まあウチと真裕は幼馴染だし、そういうところで元々ある程度人間関係が形成されてたから、全体的にも打ち解けやすさみたいなものはあったんじゃない?」

「あー。それは一理あるね。あとは紗愛蘭ちゃんの件とかもあって、仲良くなる動機とかが多かったのかも」

「え、紗愛蘭先輩と何かあったんですか?」


 私たちが納得しかけたところに、もう一度春歌ちゃんが質問する。


「それほど大したことじゃないと思うんだけどね。紗愛蘭ちゃんが私たちよりも遅く入部したのは知ってる?」

「はい。栄輝から聞きました」

「そうなんだ。じゃあこれも聞いてるかもしれないけど、実は紗愛蘭ちゃんを野球部に引き入れたのは私たちなんだよ」

「へえ、そうだったんですか」

「うん。紗愛蘭ちゃんは中学までソフトをやってて、高校に上がるのを機に辞めるつもりだったそうなんだけど、私たちがぜひ野球部に来てほしいって誘ったんだ。そういう流れがあったから、こっちとしても紗愛蘭ちゃんに早く馴染んでもらおうと積極的に話しかけにいけたし、自然と仲良くなる環境作りができていったんじゃないかな」


 私は紗愛蘭ちゃんが入部した当時のことを回想する。あの時は直後に私と京子ちゃんの誕生会もあり、他の一年生とも積極的に交流できた。それが今の関係性にも繋がっている。


「なるほど。そうやって親交を深めるきっかけがあったのは大きいですね。私たちにもそういうのがあるのかなあ」

「何かしらはあるんじゃないかな。無かったら皆を揃えて何かすれば良いじゃん」

「それはそうなんですけど……、あんまりそういうことで先頭に立つのは得意じゃないんですよね。昴とかきさらとかがやってくれないかな」


 春歌ちゃんは悩まし気に眉に皺を寄せる。彼女が音頭を取れば皆集まってくるとは思うが、その一歩を踏み出すのは簡単ではない。本人に苦手意識があるのなら尚更だ。


「だったらどっちかにやってみようよって声を掛けてみたら? 仕切る役回りは任せれば良いんだし」

「あ、それくらいならできるかも。ありがとうございます。やってみます」

「うん。頑張って」


 後輩たちが横の関係を築けるように後押しするのも先輩の仕事。手助けくらいはできたのではないだろうか。


 そうこうしているうちに駅に着いた。ここで春歌ちゃんとはお別れとなる。


「色々とお話が聞けて楽しかったです。またお願いします」

「はーい。じゃあまたね」


 一礼して見送る春歌ちゃんに対し、私たちは手を振って改札を通る。駅のホームから見えた地平線では、オレンジ色の夕焼けがのんびりと沈んでいた。



See you next base……


WORDFILE.3:カラアゲちゃん


 某コンビニ限定の人気商品。名前の通り一口サイズの唐揚げが5粒ほど入っている。購入されてから軽く揚げ直しをするため、客の元には常に揚げたてが提供される。

 鮮やかなキツネ色の衣を纏ったジューシーな鶏肉は、一度食べるとやみつきになること間違いなし。加えて様々な味のバリエーションがあり、定期的に更新されているので、そう簡単に飽きてしまうこともない。

 ぜひ一度ご賞味あれ!

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