21st BASE
お読みいただきありがとうございます。
紅葉狩りに行ったら花粉症になりました!
※関連性は不明です。
男子野球部との試合を終えた日の夜。夕食と入浴を済ませた私は、自分の部屋で寛いでいた。
「んー、疲れたあ」
ベッドの上に仰向けで寝転がり、スマホを充電器に差して弄り始める。昨日までは長袖のパジャマを着ていたが、今日は少し暑苦しかったので半袖へと切り替えた。選んだのは全身に猫のイラストが描かれたもの。私のお気に入りの一着である。
「あ、そうだ。椎葉君に今日の試合の報告をしないと」
今日の試合結果について、椎葉君から教えてほしいとお願いされていた。私は早速メッセージアプリを起動させる。
「何て打てば良いかな。えっと……、《お疲れ様。今日の試合だけど、八対一で私たちが勝ったよ。イエーイ》と」
私は文末に誇らしげな顔の絵文字を付けてから送信ボタンを押す。前まではあまりこうした装飾はしなかったが、最近は紗愛蘭ちゃんたちに影響されて絵文字やスタンプを使うようになった。
それから五分ほどが経ち、椎葉君から返信が送られてくる。
《は⁉ 八対一? あいつらまじで何やってんだよ。絶対監督にどやらされただろ……》
七点もの差を付けられるとは予想だにしていなかったのだろう。画面の向こう側で呆気に取られている椎葉君の顔が思い浮かび、私はふと笑みを溢す。
《序盤は割と競ってたんだけどね。でも良い新入生がたくさん入ってきたなって感じはしたよ。四番の水田君なんか特に。技術もそうだけど、何よりも賢い子だなって思った!》
《あー、水田は確かに良いな。今年の一年の中ではあいつが飛び抜けてるわ。まあかなり生意気な奴だけどな》
《生意気なの? ぱっと見は素直な性格してそうな顔立ちだったけど》
《いやいや、あいつのどこが素直なんだよ。一年生のくせに我が強いし、口答えもしてくる。扱いにくいったらありゃしないよ》
我が強い。その言葉を見て、私の胸に針で刺されたような感覚が走る。菜々花ちゃんが言っていたように、あの春歌ちゃんにも我儘な一面があるのだろうか。
《そうなんだ。それは大変だね》
《ほんとだわ。ただ実力は確かにあるし、ある程度自立して練習に取り組んでるからそこは評価してやらないと。礼儀とかはこれから覚えていってもらえば良いかな。因みにそっちの新人はどうなの? いつも柳瀬と一緒にいる子が一人いたじゃん》
《春歌ちゃんのこと? 素直で良い子だよ。それにとっても野球が好きみたい!》
私は椎葉君に春歌ちゃんを紹介する。今日のことには触れず、自分が率直に感じている印象を書き出す。
《へえ、誰かさんとそっくりだ》
《それ他の人からも言われる(笑)。けど仲良い後輩ができて本当に良かったよ。ポジションも同じピッチャーだし、色々と教えてあげられるよう頑張らなきゃ》
《そうだな。俺も頑張らないと。後輩の育成は先輩の大切な役目だからな。しっかりやれれば当然チームも強くなる。俺たちの目標にだって近づけるんだ》
何だかんだ言いながら、椎葉君は新入部員が入ってきたことを喜んでいるみたいだ。それは私も同じ。実力だけなら彼の方が遥か先を行っているが、こうして一緒に高め合おうとしてくれるのは凄く励みになる。
《うん。頑張ろう! じゃあ明日も練習あるし、そろそろ寝るね。おやすみ》
私は眠そうなペンギンのスタンプを送る。最後に椎葉君から《おやすみ》と返ってきたのを確認すると、スマホを閉じてゆっくりと目を瞑った。背中の張りがベッドに吸い込まれていくようでとても快く、私はすぐに寝付くことができた。
「よろしくお願いします!」
翌朝、部室で練習着に着替えた私は、グラウンドに大きな声を挨拶して入っていく。練習開始まではまだ三〇分くらいあるが、既に何人かが自主練を行っている。春歌ちゃんもその一人だった。
「あ、真裕先輩、おはようございます」
春歌ちゃんは同級生の昴ちゃんとキャッチボールをしていた。ホームからセンターほどの長い間隔を空け、一球一球フォームを確かめるように丁寧に投げ合っている。
「おはよう春歌ちゃん。早出して遠投なんて感心だね」
「ありがとうございます。試合で投げた翌日は日課として必ずやっているんですよ。肩の調子とフォームをチェックするために。少しでも投げ方が崩れているとすぐ気付けるので、真裕先輩にもおすすめです」
「なるほど。参考にさせてもらうね。今度からは一緒にやってもらって良い?」
「はい、もちろんです!」
屈託の無い笑顔を見せる春歌ちゃん。やっぱりこの子が厄介だなんて全く思えない。
「昴、ありがとう。そろそろ上がろっか」
「了解」
春歌ちゃんと昴ちゃんは徐々に距離を縮め、キャッチボールを終わらせる。ちょうどそのタイミングで、菜々花ちゃんがグラウンドに姿を現した。すると春歌ちゃんは待っていたかのように、自ら彼女の元に寄っていく。
「菜々花先輩」
私は春歌ちゃんの後ろに付き、様子を覗うことにする。もしも口論になったらいち早く止められるようにしておかなければ。
「おはようございます」
「お、おお……。おはよう」
「あの、昨日はすみませんでした」
「へ?」
開口一番、春歌ちゃんは昨日の件に関して謝罪の言葉を述べる。菜々花ちゃんは彼女の方から話を切り出すとは思っていなかったようで、戸惑いを隠せない。
「菜々花先輩の言っていた通り、私はサインを無視してインコースに投げました。しかも試合後にそれをはぐらかそうと恍けました。本当にごめんなさい」
春歌ちゃんは深く頭を下げる。口調からも態度からも、自分のしでかしたことの重大さを受け止めているのが伝わってくる。
「むう……。やっぱりそうだったのか。春歌、自分から言い出してくれてありがとう。顔を上げて」
これでは菜々花ちゃんも怒るに怒れないのだろう。昨日の杏玖さんが彼女にしたように、春歌ちゃんを優しく諫めようとする。
「でもどうしてあんなことしたの? 一つ間違えば大惨事になってたことは、春歌だって承知してたんでしょ」
「はい。でも初登板でどうしても抑えなきゃって気持ちが強すぎて、我を見失ってました。当然あそこまで危ないところに投げるつもりはなかったんです。ちょっとびっくりさせてやろうと思って……。ただ今考えれば、明らかに軽率でした。絶対にやってはいけない行為だと思います」
面を上げた春歌ちゃんは、昨日の自分を振り返って反省の弁を口にする。それを聞いた菜々花ちゃんは少しだけ頬を緩めた。
「そうだね。まあきちんと駄目なことを理解してるみたいだし、今回のところは堪忍しておいてあげる。その代わり、二度とあんな真似はしないと誓って」
「はい、もちろんです。もう勝手なことはしません」
「よし。ならこれからもよろしくね。春歌には夏の大会で活躍してもらわないといけないんだから」
「ありがとうございます。頑張ります」
春歌ちゃんはもう一度深々と頭を下げ、他の一年生の輪に交じる。無事解決に至り、一件落着だ。
「良かったね菜々花ちゃん。春歌ちゃんも自分から非を認めて詫びるなんて偉いよ。あれでも厄介な子に見える?」
私は菜々花ちゃんに尋ねる。菜々花ちゃんは暫し考え込む間を取った後、首を横に振って私の問いに頷く。
「そうだね。私の思い過ごしだったみたいだよ。迷惑かけてごめん」
「ううん、気にしないで。こういうことだってあるよ。ちゃんと和解できたんだし、これで良かったんじゃない」
「そうやって言ってもらえると助かるよ。ありがとう」
菜々花ちゃんは真剣に野球に取り組んでいる。春歌ちゃんも真剣に野球に取り組んでいる。だからこそ今回みたいに意思疎通ができずにぶつかることだってある。大切なのは、互いにしっかり話し合うこと。それができればきっと上手くやっていける。私はそう信じて疑わなかった。
See you next base……
PLAYERFILE.13:椎葉丈(しいば・たけし)
学年:高校二年生
誕生日:7/18
投/打:右/右
守備位置:投手
身長/体重:178/78
好きな食べ物:アイスクリームなどの甘いもの




