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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十三章 らぶ♡どっきゅん編
207/223

204th BASE

お読みいただきありがとうございます。


つい先日、右下の奥歯が急に痛み出し、生まれて初めて治療を目的に歯医者へ行ってきました。

虫歯かもしれないと不安を抱えながら診察を受けると、親知らずが原因だったそうです。

ひとまず消毒をしてもらい、経過を観察することに。

虫歯ではなかったことには安堵していますが、親知らずを抜くとなったらどれだけ痛いのだろうと恐々としております。

 紗愛蘭と暁は同じ広報班に振り分けられた。主な仕事は文化祭の開催を宣伝するポスターを作成し、校内外に掲げること。それを二人の他に一年生と二年生の女子一人ずつを含めた四人程度で行うのだが、彼らは第一段階で躓く。ポスターのデザインをどうするかで悩んでいたのだ。


 ひとまず四人それぞれが案を持ち寄ってみるという話になり、紗愛蘭は自宅での受験勉強の合間にデザインを考えてみる。しかし、これが中々難しい。


「うーん……。どうしようかなあ」


 美術の成績は悪くない紗愛蘭だが、絵は描くのはどちらかと言えば不得手である。ましてや一般の人も見るようなポスターをデザインするなど、無理難題を押し付けられたようなものだ。


 それでも何度か試行錯誤を繰り返し、ある程度のクオリティまで持っていけるのが紗愛蘭である。最終的には文化祭と聞いて思い付きそうなものを並べ、それらしく仕上げた。


 後日、放課後の空き教室に班で集まり、それぞれが試作したポスターを見せ合う。まだ来ていない暁を除いた三人の中では、紗愛蘭の出来栄えが一番良い。


「おー。紗愛蘭さんのやつ良いですね。シンプルで見やすいですし」

「私も良いと思います。紗愛蘭さん、勉強もできる上に絵も上手なんですね」

「ありがとう。けど二人だって可愛らしい絵を描いてるし、組み合わせたらもっと良くなるんじゃないかな。……暁君の次第だね」


 暁はホームルームが長引いているのだろうか。彼と同学年の子が顔は見たと言っているので、休んでいるわけではなさそうだ。

 ただ正直な話、あの暁が良いポスターを描けるとは思えない。下級生二人だけでなく、紗愛蘭もあまり期待していなかった。


「す、すみません! 遅くなりました……」


 そこへ、暁が大慌てで教室に入ってくる。走ってきたためか息切れが激しく、髪先には汗の雫が光っている。


「待ってたよ暁君。こっちにおいで」


 紗愛蘭に手招きされ、暁は彼女の隣に座る。鞄の中に入った一枚のクリアファイルを取り出すと、そこにはポスターのデザインが描かれた用紙が挟まっていた。


「お、ちゃんと描いてきてくれたんだね。見せてもらって良いかな?」

「は、はい。……どうぞ」


 暁は自信無さそうにしつつも、覚悟を決めたかのように息を飲む。それから恐る恐る三人にポスターを見せた。


「え?」


 三人は一斉に目を丸くする。何と暁の描いたポスターが他の誰よりも上手だったのだ。


 そこには数人の学生たちが描かれていた。全員が楽しそうに飛び跳ね、活き活きとした表情を見せている。まるで暁がなりたい自分を表現しているかのようだ。

 そして特筆すべきはその画力の高さ。一人一人の描き方がとても細やかで、今にも動き出してしまいそうなくらいリアリティがある。もはや上手いなんてレベルではない。プロに描いてもらったと言われても、一般人なら気付かないだろう。


「こ、これ、暁君が自分で描いたの……?」


 失礼ながら紗愛蘭は俄には信じられず、思わず暁に質問してしまう。暁は照れ臭そうに目を伏せて答えた。


「そうです。……やっぱり、変ですかね?」

「いやいやいやいやいや、めちゃめちゃ上手だよ! 前からこういうの描いてたの?」

「ええ……。誰かに見せたのはこれが初めてですけど」

「凄い! 凄いよ暁君! こんなことができたんだね!」


 紗愛蘭が感嘆しながら軽く拍手を送ると、他の二人も続く。顔を上げた暁は仄かに頬を赤らめ、口元を緩める。


「これはもう暁君の一択かな。二人もそれで良い?」

「もちろんです。けどせっかくなら、これに足してもう二種類くらい増やしたらどうですか? 美波君が描いてくれるならですけど」


 二年生の女子からそう提案が上がる。確かに暁のレベルを知ってしまった以上、一種類だけでは少し物足りない。紗愛蘭も同じことを思っていた。


「そうだね。暁君、お願いしても大丈夫? 私も暁君の絵をもっと見てみたいな」


 紗愛蘭が暁の目を見て頼む。暁の方が十センチほど背が高いため、図らずも紗愛蘭は上目遣いになった。暁の胸が再び高鳴り、彼は咄嗟に視線を逸らす。


「……わ、分かりました。ただ、ちょっと時間をもらっても良いですか?」

「もちろんだよ。その間にこっちで印刷とかの作業はやっておくから。……ふふっ、ありがとう」


 満面の笑みで礼を言う紗愛蘭。暁は恥ずかしさから改めて目を合わせることができず、とにかく首を縦に動かしていた。この時どうして紗愛蘭の笑顔を見ておかなかったのだろうと、彼は後になってとてつもなく後悔するのである。


 帰宅した暁は、早速二階の自室に籠って新たなポスターの作成に取り掛かる。自分の絵を認めてもらえたことが嬉しく、ペンを取らずにはいられない。


 暁は幼少期から絵を描くことが好きだった。保育園に通っていた頃は一人で絵描きに熱中するあまり、友達と遊ぶことをほとんどしなかったくらいだ。

 小学校に上がっても、絵を描く習慣は続いた。描けば描くほど上達し、高学年にもなる頃には、今のようなプロ顔負けの画力を手に入れていた。


 ところが暁はこれまで、自分の絵を他人に見せることを避けてきた。人付き合いが苦手なことも一因ではあったが、それ以上に大きな理由があったのだ。


 それは暁が小学二年生の時のこと。ある日の授業で、隣同士で似顔絵を描き合うことになった。彼は当然の如く真剣に似顔絵を作成し、モデルとなった女の子に渡した。


「うわー! 暁君の絵、とっても上手だね」


 女の子は嬉しそうに絵を受け取ってくれた。ここで暁は自分の画力が優れていることを認識する。


 だが問題はその後に起こる。全員の絵が教室の後ろに飾られ、暁の絵も他のクラスメイトに見られるようになった。大半の者は暁を素直に賛美していたが、一部からはこんな声が上がる。


「暁の絵がどうしてあんなに上手いのか知ってる? それはいつも女子を観察してるからなんだぜ」

「えー、それほんと?」

「ああ。人の絵が上手いって奴って、それだけ人を観察してるってことなんだって。母さんが言ってた」

「そうなんだ……。美波君って確かに何考えてるかよく分かんないもんね。ちょっとキモいかも」


 あらぬ誤解は忽ちクラス全員に広まる。擁護する者は誰も現れず、結局暁は周囲から避けられるようになってしまった。


 これ以後、暁は他人に自分の絵を見せられなくなった。美術の授業や学校の課題でも手を抜き、絵の上手さを隠してきたのである。


 しかし紗愛蘭との出会いが、暁の心境に変化を齎す。



See you next base……

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