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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十二章 金メッキの戦士
201/223

199th BASE

お読みいただきありがとうございます。


懸命な投球を見せる祥ですが、やはり大学生は手強いですね。

それでも前を向いて腕を振れば、その先で必ず何か掴めるはずです!

 二回裏の亀ヶ崎は、犬木の前にランナーを出せず三者凡退。一方の三回表、祥は四球とヒットでワンナウトランナー一、三塁のピンチを招く。


「ふう……」


 まだ三イニング目ではあるが、祥の額には汗の粒が多く浮かび、疲労感が色濃く出ている。大学生が相手なので普段以上に手強く、良い球を投げてもあっさりとはアウトにはなってくれない。その分スタミナの消耗は激しくなっている。


(まだ三回か……。こんなところでへばるわけにはいかないぞ!)


 祥は自分を奮い立たせ、右打席に立った二番の雄山と対峙する。亀ヶ崎の内野陣は二遊間がそれぞれの塁間上に守り、打球次第で併殺を狙うかバックホームするかを決める。


 初球、祥はカーブを投じた。低めに決まり、球審がストライクを宣告する。

 今日はこのカーブでカウントを稼ぐことができている。そうなれば四球などの心配も少なくなる上、自慢のストレートもより活きてくる。


 二球目もカーブを投げたが、こちらはワンバウンドとなる。菜々花がプロテクターに当てて前へ弾いたものの、ランナーは動かない。


 ワンボールワンストライクからの三球目、祥はストレートでインコースを就く。雄山は打って出るも、打球は一塁側のファールゾーンに消えた。


 これで雄山を追い込んだ。祥としては三振を奪うか内野ゴロを打たせたい。


 四球目も内角のストレート。雄山はバットに当て、バックネット側に小飛球を上げる。菜々花が追っていくも及ばず。彼女は右足で地面の土を払い、悔しさを表現する。


(祥は良いボールを投げてるのに、相手も中々空振りしてくれない。真裕みたいに決め球があれば良いんだけど……)


 コントロールのあまり良くない祥にとって、粘られて球数が嵩むのはできるだけ避けたい。カウントが悪くなれば四球への懸念もあり、自ずとピッチングの幅は狭くなる。もちろん精神的にも負担が掛かるだろう。


「ボール」


 五球目はスライダーを投げるも、外へ大きく外れてしまう。これで祥は持っている球種を全て使った。


(すっぽ抜けちゃった……。フォアボールは出せないし、このカウントで決めないと)


 スリーボールにはしたくない。祥に焦燥感が生まれる。だが抑えるためには半端な投球はできない。となれば次の選択肢は一つしかなかった。


(今のスライダーで流れを変えたかったけど、不発だった。それなら腹を括って、力勝負に行ってみようか)


 サインを出した菜々花は内角低めにミットを構える。頷いた祥はセットポジションに入ると、頬を大きく膨らませて腹から息を吐く。


(空さんはピンチでも向かっていく姿勢を崩さなかった。私だって見習わなきゃ)


 六球目、祥は雄山の膝元を目掛けてストレートを投げ込んだ。狙いよりもやや真ん中に入ったが威力はある。ただ雄山も腕を畳んだスイングで弾き返し、祥の頭上へ打球を放つ。


「セカン!」


 勢いのある打球ではないが、飛んだコースに野手が誰もいなかった。オレスの出したグラブも躱し、しぶとく二遊間を破っていく。

 三塁ランナーは悠々ホームイン。西経大が逆転に成功する。


「ああ……」


 祥は無念そうに空を仰いた。最後の投球は納得できるものではあったが、雄山は一打席の内に同じ球を三度も見ている。これでは捉えられても仕方が無い。


 この一部始終を西経大のベンチで眺めていた空は、雄山の打球がヒットになった瞬間、歯痒そうに口を真一文字に結んだ。祥がイップスに苦しんでいたことを考えると、大学生相手にも敢然と立ち向かえていることは非常に喜ばしい。だが全国制覇を目指すチームのピースになるためには、もう一皮も二皮も剥けなければならないと思っていた。


(結局勝負球もストレートだったか。追い込むまでは良かったけど、そこから苦しかったね。活躍するためには真裕みたいに武器が欲しい。それをどうにか編み出してくれ……)


 尚もピンチは続く。ランナー一、二塁で、祥は三番の中井と対峙する。


(勝ち越されたけど、点差は考えないって最初に決めたんだ。どれだけ打たれても腕を振ることは止めちゃ駄目だ!)


 祥は下を向かず、次の投球に気持ちを切り替える。初球に外角のストレートでストライクを取ると、二球目は内角低めにカーブを投じた。

 中井がタイミングを合わせてスイングする。ところがバットの下面で引っ掛け、セカンドの左にゴロを転がしてしまう。


「オーライ」


 オレスは難無く打球を掴むと、自ら二塁ベースを踏む。それからワンステップして一塁へ送球し、併殺を完成させた。


「ゲッツーか。良かった……」


 祥は胸を撫で下ろし、小さく白い歯を零してマウンドを降りる。そんな彼女をベンチの仲間たちが労う。


「祥ちゃん、よく凌いだね。これ飲んで落ち着いて」

「ああ。ありがとう真裕」


 真裕から受け取ったコップ一杯のスポーツドリンクを、祥は一気に飲み干す。体と心が潤い、少しだけ楽になった。ただ点を取られてしまったため、良い気分にはなれない。


(よく凌いだか……。正直凌いだというより、運良く一点で済んだって感じだよね。それに真裕はこんなにバタバタしない。私もテンポ良くアウトを取れるようにならないと)


 現状の祥と真裕では、鯨と鰯ほどの大きな実力差がある。祥はそれを埋めていかなくてはならないのだ。イップスの恐怖を乗り越えたのはただのスタートに過ぎない。これからの一年は、真裕と張り合えるだけの結果を残すことが求められる。


 祥は四回表も続投。またも得点圏にランナーを背負ったが、生還を許さずスリーアウトまで漕ぎ着けた。彼女はここで降板となる。


(とりあえず、空さんに顔向けできないピッチングにはならなったかな。でもこんなんで満足してたら駄目だ。……もっと、上手くなりたい)


 四イニングを投げて二失点。結果自体は誇って良い。一方、球数は八七球を数えた。真裕が七イニングを百球ちょっとで投げ切ることを考えると、この数字は明らかに多い。

 制球力や決め球、加えてスタミナと向上させなければならない部分はたくさんある。空に成長した姿は見せられた。来夏には逞しくなって、日本一へのマウンドに上がりたい。



See you next base……

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