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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十二章 金メッキの戦士
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198th BASE

お読みいただきありがとうございます。


二試合目の先発は祥が務めます。

オレスと共に活躍に期待しましょう!

 オレスが三塁側のベンチへと戻る途中、センターから走ってきた昴が横に並ぶ。それからグラブを差し出し、ハイタッチを求めた。


「ナイスプレー。どこやらせても上手だね」

「こんなの当然だって何度も言ってるでしょ。めんどくさいわね……」


 一旦は拒もうとするオレス。だが昴がグラブを引かないため、オレスは観念して一瞬だけ自分のグラブを重ねる。


「ふふ、ありがとう」


 昴が満面の笑みを浮かべる。オレスは心が掻き乱され、困った様子で首を傾げた。


「あれ? 今オレス、昴とハイタッチしてなかった?」

「嘘? 全然見てなかったわ。見間違いじゃない?」

「いや、確かにハイタッチしてた気がするんだけど……」


 珍しい一幕に、亀ヶ崎ベンチの選手の中には目を疑う者も出てくる。一試合目と比べ、風向きは変わりつつあった。


 一回裏、亀ヶ崎は一番の昴が打席に立つ。一試合目では空から二塁打を打っており、その勢いに乗っていきたい。


(オレスにはこの試合で活躍してもらいたい。そのために私が塁に出て、チャンスを作らなくちゃ)


 西経大の先発投手は犬木(いぬき)。右のサイドスローで、シュートやスライダーなどの横の変化球と角度のあるストレートを織り交ぜる投球を持ち味としている。


 初球、犬木は外角のスライダーを投じる。昴はボールと判断して見送るも、変化した分だけストライクとなる。


(初球から厳しいコースに来たな。でも変化自体は緩やかだし、捉えるのはそんなに難しくなさそう)


 二球目、内角にストレートが来る。昴は引っ張って鋭い打球を放つも、一塁線の外側を転がっていく。


 昴は一試合目での反省を活かし、積極的にバットを出せている。三球目は外角へ逃げるシュートを見極めた。


(二球目で内を突いてきたし、残りは外中心の配球になってくるのかな。甘くなったら逃さないぞ)


 迎えた四球目。犬木の投じたストレートがアウトハイに来る。昴はコースに逆らわずレフト方向に打ち返す。


 打球はレフトへのライナーとなる。守っていた武田の一歩手前に弾むと、彼女が体で止めて前に落とした。昴は一塁を大きくオーバーランし、果敢に二塁を狙う姿勢を見せる。


「おし」


 昴は小さく拳を握りながら一塁ベースに戻る。これで一試合目から数えて二打席連続の安打。更に次打者のファーストゴロの間に二塁へと進み、先制のチャンスでオレスに打順が回る。


「ネイマートル、一本頼むよ!」


 二塁ベース上で昴が声を飛ばす。オレスは背中にむず痒さを感じながら、打席でバットを構えた。


(何なのよこの変な感覚は……。気にしたら駄目。打席に集中しないと)


 犬木から一球目が投じられる。外角へのスライダー。オレスは曲がり端を捉えてライトへ弾き返す。打球は図ったようにライトとセンターの中間に落ちた。


 ランナーの昴は三塁を蹴る。外野からバックホームはされず、悠々と本塁を駆け抜けた。一試合目に続いて亀ヶ崎が先制する。


「ナイスバッティング!」


 昴がオレスを称えると、ベンチにいた真裕や紗愛蘭たちも賛美する。こうした光景は一試合目とさほど変わらないが、オレスの受け取り方には微妙な変化が生じていた。


(また何か騒いでるわね。そんなに大したことじゃないのに。……けど、何処となく居心地が良いと感じてしまってる自分がいる。それは私が、あの子たちを信じ始めてるってことなの?)


 鬱陶しかったはずなのに、心惹かれかけている。オレスは自分の感情がよく分からなくなっていた。


 一回裏はオレスのタイムリーの一点止まり。攻守交替し、祥が二イニング目のマウンドに上がる。


(何だかんだ言ってもオレスは凄いな。ただ点数のことは考えちゃ駄目だ。私は自分のできることを全うする)


 二回表、祥は四番の川端との対戦から始まる。初球、彼女は臆せず内角低めにストレートを投げ込む。


「ストライク」


 川端はほとんど反応せず見送った。あまりに良い球だったため手が出なかったのだ。


(おお? エースの他にもこんなに良いボールを投げるピッチャーがいるのか。こりゃ空も期待するわけだ)


 二球目。祥は再びインコースへのストレートを投じようとする。ところが実際の投球は真ん中低めに行ってしまう。

 これを川端は逃さない。豪快にバットを振り抜き、左中間に大飛球を飛ばす。


「うわっ!?」


 祥が素っ頓狂な声を上げる中、打球はセンターの左を抜けていく。昴がクッションボールを処理して内野へ返球するも、川端は楽々二塁まで達した。


(インコースをどんどん突こうとする姿勢は悪くないね。問題はその精度か。指にしっかり掛からなかった時はそこまで球威が無いし、その辺は空と雲泥の差があるかな)


 初球の投球では川端を唸らせたが、次の二球目であっさり打たれてしまった。甘く入ったり力が伝わらなかったりすると、少しレベルの高い相手なら今の祥の球は容易に捉えてくる。


(何だか凄い簡単に打たれちゃった……。やっぱり私じゃ抑えられないのかな)


 祥の顔に動揺が走る。すかさずキャッチャーの菜々花がマウンドへと駆け寄ってきた。


「祥、気に病むことないよ。相手は大学生なんだし、打たれるのはしょうがない。良いボール来てるから、これまで通りしっかり腕を振って投げるんだよ」

「わ、分かった」


 打席には五番の武田が入る。祥は一旦深呼吸をして落ち着いてから初球を投じた。外角のカーブがストライクとなる。


「ナイスボール! 良い感じだよ」


 菜々花は軽く拍手を送り、祥にボールを返す。祥の表情が少し明るくなった。


 二球目はインローのストレート。ボールにはなったが、きっちりと内角に投げ切った。ストライクにならなくとも効果はあるはずだ。


 三球目。祥は外角にストレートを投げる。これに対して武田がバットを出し、センターへと打球を飛ばす。


「オーライ」


鮮やかなライナーが伸びていくも、昴の守備範囲内。彼女は右斜め後方に走りながら掴んだ。


「アウト」

「走った!」


 二塁ランナーの川端は三塁へとスタートを切った。昴の強肩で刺したいところだが、如何せん捕球体勢が悪い。彼女は諦めて中継に送球する。


 しかしアウトを取ることはできた。武田の打球は良い当たりではあったものの、もう一伸び足りず。二球目でインコースを突いたことで、打つ時に十分な踏み込みをさせなかったのだ。


 続いて六番の鈴木(すずき)が右打席に立つ。亀ヶ崎の内野陣は前進せず一点止む無しのシフトを敷く。


「セカン!」


 鈴木は初球のストレートを打ってきた。だが本来のバッティングはできず、セカンドゴロに倒れる。その間に川端がホームイン。試合は振り出しに戻る。


「祥、これでオッケーだよ。同点なら取り返せば良いんだから」


 菜々花の言葉に祥は微笑を浮かべて頷く。川端に二塁打を許した後も萎縮せず投げ込み、見事に後続を抑えた。


(私でも大学生からアウトを取れるんだ。一点は取られちゃったけど、ここから仕切り直そう)


 祥に仄かな自信が芽生える。次の打者も打ち取り、最少失点で二回表を切り抜ける。



See you next base……

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