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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第二章 女子vs男子!
20/223

19th BASE

お読みいただきありがとうございます。


祝!

プレミア12優勝!

日本代表の皆さんおめでとうございます。

次の舞台はオリンピック。

ぜひとも金メダルを獲得してほしいですね。

 八回の表、ツーアウト満塁で打席に立つのは四番の水田。インコースの厳しいボール球が二球続いた後のツーボールツーストライクのカウントから、春歌は全身全霊を傾けたストレートを投じる。


(これが私の、生きるための道なんだ!)


 投球は春歌の狙い通り、内角低めのコースを猛然と貫く。しかし水田も負けじとフルスイングで打ちにいく。


(やっぱインコースで来ると思ってたよ。そうでなくっちゃ!)


 バットの芯がボールを捉え、快音を響かせる。打球は石火の如く春歌の脇をライナーで通過した。


「おー! ナイバッチ!」


 男子野球部の面々が歓喜の声を上げ、ランナーも一斉に駆け出す。一体何人がホームに還ってくるのか。


 ところが次の瞬間、再び強烈な音がグラウンドに鳴り渡る。今度は革の弾ける乾いた音色。グラブとボールの衝突音だ。


「ア、アウト。チェンジ」


 打球の終着点。それは、ショートの真正面だった。昴が仁王立ちで捕球し、二塁塁審はアウトのコールをする。


「おお……」

「ああ……」


 水田と春歌は共に吐息を漏らし、打球の飛んだ先を見つめて呆然と立ち尽くす。暫くすると結果を受け入れたのか、互いに澄ました顔をして引き揚げていく。


(きっちり捕まえたと思ったんだけどなあ。前の球でバランスを崩された分、最後の押し込みがし切れなかったか。流石にあそこまで危ないボ―ルを体感しちゃうと、一球で修正するのは難しいんだよな)

(ほら御覧。きっと前のインコースが効いたから抑えられたんだ。誰にも私のピッチングに文句は言わせない)


 ベンチに戻る最中、春歌は右の拳を強く握る。ピンチこそ迎えたが、初登板を無失点で乗り切った。しかしその投球スタイルはチームメイトが予期していたものとは全く異なり、荒々しさが目立っていた。


「春歌ちゃん、最後は気合が入ってたね。ナイスボ―ルだったよ」

「ありがとうございます。真裕先輩が途中で声を掛けてくれたおかげで、気持ちが楽になりました」


 ベンチで出迎えた真裕に、春歌は溢れんばかりの笑顔を作って見せる。まるで先ほど苛々していたのが嘘のようだ。ストライクゾーンの四隅を突く制球力など、ポテンシャルの高さは証明した彼女だが、今後の行く末はどうなるのか。一抹の不安の念が残った。


 八回裏。女子野球部は八番の打順に入っていた菜々花から始まる。先ほど交代した一年生の栄輝は一番、昴は二番に入れられており、菜々花が出塁すれば二人とも打席を迎えることになる。


(春歌のピッチングはほんとにあれで良かったのか……。でもそれは今考えることじゃない。守備は守備。打撃は打撃。その区別を明確にして、どっちもで結果を出さないとね。私だって今年はたくさん試合に出たいもん)


 菜々花は初球を叩いた。打球はマウンドを越え、ゴロで二遊間を割っていく。センターへのヒットとなった。


(おし。地味だけどこういうのは積み重ねが大事。もう作者に活躍する予定が無いなんて言わせない)


 昨年は作者から度々酷い扱いを受けていた菜々花だが、今年は違う。……と良いな。


 この後アウトを一つ取られたものの、その間に菜々花が二塁へと進塁。得点圏にランナーを置き、一年生の二人に打順が回る。


「お願いします」


 まずは栄輝。中学時代には強豪クラブで四番を張っており、圧巻のパワーの持ち主である。その実力の一端を披露できるのか。


「臆せず三回バットを振っていこう! 栄輝なら打てるよ!」

「はい!」


 先輩である紗愛蘭からの激励に返事をし、栄輝が左打席に入る。男子野球部の投手は前の回から登板しているサウスポーの石野(いしの)だ。


 初球、石野は真ん中から外角に逃げていくスライダーを投じる。栄輝は果敢に強振していった。惜しくも空振りとはなったが、ヘルメットがずれるほどの豪快なスイングだった。


(ちょっと目を切るのが早かったかな。でも一球目からしっかり振れた。この感じで忘れず、次の球は捉える)


 二球目。アウトコースにストレートが来る。若干高めに外れた。栄輝はスイングしようとして止まる。


 三球目も外角への直球。こちらはストライクゾーンに入っており、栄輝は打って出る。


「ファール」


 強引に引っ張った打球がファーストの右を抜けていったものの、一塁線よりも僅かに外側に出ていた。カウントはワンボールツーストライクとなり、栄輝は追い込まれる。


「栄輝、良いスイングできてるんだから、三振怖がってそれを崩しちゃ駄目だよ。自分の良いところを捨てるな!」

「うん、ありがとう!」


 ネクストバッターズサークルから昴が声を掛ける。栄輝はそれに快く応答し、改めて打席でバットを構える。


(言われなくてもそのつもりだよ。三振を嫌がって縮こまってるようじゃ、いつまで経っても栄冠には輝けない。私はいつだってフルスイングを貫くんだ)


 マウンド上の石野が一回ランナーに目をやってから、栄輝に対しての四球目を投げる。内角高めの直球。栄輝は一球目よりも更に思い切りバットを振る。


「スイング、バッターアウト」


 残念ながらボールはバットに当たらず。栄輝は空振りの三振に倒れ、悔しそうに思わず空を見上げる。


「くー、やられた」

「惜しい惜しい。ナイススイングだったよ」


 女子野球部ベンチからは栄輝に拍手が送られる。三振こそ喫したが、これからの飛躍を大いに予感させる打席であった。


 局面はツーアウトランナー二塁に変わる。続いて打席に向かうのは昴だ。


「よろしくお願いします」


 低く張りのある声色で球審に挨拶をし、昴がバットを構える。鋭角に引き締まった眉が引き立てる勇ましい顔立ちは、とても一年生のものとは思えず、大人(たいじん)の風格をも漂わせている。同じ左打者でショートの先輩である京子は、無言で昴の一挙手一投足を見ていた。


(守備の時の落ち着き具合といい、この打席での雰囲気といい、ほんとに今年入ってきた子なの? ウチの方が全然子どもに感じられちゃうよ……)


 準備が整い、マウンドの石野から一球目が投じられる。外角低めのストレート。昴は少し反応が遅れて見逃す。判定はストライクだ。


(練習の時点から感じていたことだけど、中学時代と比べてプレー全体のスピードが上がってる。それが高校野球のレベルなんだ。でも今の相手は同じ一年生。これを打てないようじゃ、次の夏の大会でレギュラーになるなんて河清(かせい)だ)


 まだ一年生の昴だが、彼女は今年の夏の大会を見据えている。狙うはもちろんレギュラー獲得。つまりは京子からポジションを奪うということだ。


 二球目はアウトコースから逃げていくスライダー。先ほど栄輝が空振りした軌道と似ていたが、昴は食いつくことはなかった。


「ボ―ル」


 三球目。石野はシュートのような変化球を使ってくる。だが低めに引っ掛けてしまい、昴は難なく見送った。これでカウントはツーボールワンストライクとなる。


(向こうは歩かせても良いとは考えてないはず。一球目の私の反応を覚えているなら、おそらく真っ直ぐで攻めてくるんじゃないかな。ストライクも稼ぎやすいだろうし)


 速い球に備える昴。四球目、石野は真ん中やや内寄りにストレートを投げ込む。


(……やっぱり来た!)


 昴は右足を上げずにすり足でタイミングを取り、動作をコンパクトにして打ちにいく。ところがボールを捉えることはできず、バットは空を切った。まだ直球の速さに付いていけていない。


(これでも遅れてるのか。見ている限り手元で伸びてるようには思えない。だとしたら単に私が下手ってことか。くそ……)


 己の未熟さを痛感し、昴は奥歯を噛みしめて悔しがる。ただまだ終わったわけではない。彼女にはあと一つストライクが残っている。


(ストレートで押し切ってくるか? それとも変化球で躱してくるのか? 決めかねて尻込みしていたらその時点で打てなくなる。答えは二つに一つ。できるだけ後悔の少ない選択をしよう)


 昴はそう自分を説き伏せる。外見だけでなく内面的にも自若としており、心に迷いは抱かない。


(……決めた、ストレートに絞る)


 前の球で見た直球の球筋を想起する昴。狙いを定めたとはいうものの、実のところ打てるビジョンはあまり浮かんでいない。しかしそんな理由で逃げに回ることはしたくなかった。彼女にも意地がある。


 五球目。石野がセットポジションに入り、投球モーションを起こす。投げてきたのは外角高めのストレート。抜けてボール気味にはなっているが、昴は打ちに出た。


(これならバットは十分届く。打てる!)


 短い金属音が響き、小飛球がサードの頭を越えていく。そのまま誰も追いつくことができず、レフト線上に落ちた。


「おお! 打った!」


 二塁ランナーの菜々花は驚きの声を上げつつ、三塁を蹴ってホームへと駆け込む。更に打った昴は二塁まで到達。タイムリーツーベースヒットとなった。


「凄いよ昴! ナイスバッチ!」

「……ありがとうございます」


 ベンチの選手から送られる賛辞に、昴はヘルメットの鍔を触って応える。けれどもその表情はどこか物憂げだった。


(ナイスバッティングでも何でもない。運良く甘いゾーンに入ってきたから打てて、運良く誰もいないコースに飛んだだけの話だ。指に掛かったストレートが来てたらアウトになってた。スイングの鈍さ、反応の悪さ、足りないところを挙げるとキリが無い。それを克服できなきゃ、上級生には追い付けない)


 昴は確かにヒットを放った。しかしそれは“打った”というより、ヒットに“なった”と表現する方が正しいだろう。昴本人もそのことは理解していた。この結果が内容の伴うものになるよう、これから技術を磨いていくことになる。


 一方で追われる立場にある京子。二塁ベース上の昴の姿を見て、彼女は心臓がきつく締め上げられるような感覚に陥っていた。


(昴、ヒットを打ったのにほとんど喜んでない。こんなんじゃ物足りないって感じ。もしやあの子、もう既にとてつもない野心を持ってるのかも。だとしたらウチもうかうかしていられない……)


 自分は間違いなく標的にされている。そんな恐怖心が、京子の中に芽生え始めていた。この時静かに、ショートのレギュラー争いのゴングが鳴ったのだった。


「八対一で女子野球部の勝利。礼!」

「ありがとうございました!」


 九回表は新たに代わった投手が締め、ゲームセット。女子野球部は新年度最初の試合を、幸先良く勝利で飾った。真裕や紗愛蘭、京子ら上級生の活躍が光る傍ら、春歌、栄輝、昴の三人の新人がデビュー。夏の大会に向け、実りの多い再スタートを切ることができた。


See you next base……


PLAYERFILE.12:野極栄輝(のぎわ・さき)


学年:高校一年生

誕生日:7/15

投/打:右/左

守備位置:外野手

身長/体重:161/58

好きな食べ物:肉料理全般(肉の含有率は最低でも7割なければならない)

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