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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十二章 金メッキの戦士
197/223

195th BASE

お読みいただきありがとうございます。


最近は自分が競技から離れていることもあり、野球をプレーする感覚を思い出すのに苦労します。

「紗愛蘭さんナイバッチ。レフトの正面じゃなかったら昴も還ってこられたのに」

「けどあのチェンジアップを打ったのは流石だよ。それに引き換えオレスは……」

「ほんとだわ。ヒットじゃないにしろさ、せめてセカンドゴロくらい打ってランナー進めてくれてればね。そしたら紗愛蘭さんのヒットで同点だったじゃん」


 亀ヶ崎ベンチでは紗愛蘭を称賛する傍ら、同点にならなかったことを惜しむ声も上がる。すると先ほどのファーストフライが蒸し返され、非難の矛先はオレスに向けられた。悲しきことに紗愛蘭のタイムリーによって、オレスの悪者ぶりが却って引き立つことになってしまう。


 打席には五番のゆりが入っていた。彼女に一打出れば同点となるが、初球は低めのカーブに空振り、二球目はアウトコースのストレートをファールにして早々と追い込まれる。


(空さんの球威、全然衰えてないじゃん。京子も紗愛蘭もよく打ったな。私も続きたいけど……)


 三球目、太腿付近にストレートが来る。ゆりは腰を引いて避けた。「ボール」紗愛蘭に打たれた反省から、バッテリーはストレートを続けてきた。即ちチェンジアップを使う布石だろう。


(チェンジアップを打たれたまま終われないからね。今度はもうバットに当てさせすらしない)


 空としてももう打たせるわけにはいかない。ワンボールツーストライクからの四球目、真ん中低め目掛けてチェンジアップを投じる。


 投球は狙いよりも少し高くなった。だが打者のゆりにはストレートの残像が頭にあるため、どうしてもコースを見極める前にバットが動いてしまう。タイミングも狂わされており、彼女のスイングからは虚しくも何も生まれない。


「バッターアウト、チェンジ」

「ああー……。打てんかった」


 ゆりは顔を皺くちゃにして地団駄を踏む。ランナーが二者残塁となり、亀ヶ崎の反撃は一点に留まる。


「センター」

「オーライ」


 続く六回裏、西経大はワンナウトからランナーを一人出すも、後続が打ち取られて無得点に終わる。一点差のまま試合は最終回に入った。


 どうにか点を取りたい亀ヶ崎だったが、六番の菜々花が二球目を打たされてサードゴロに倒れる。続く七番の栄輝はスライダーで二つの空振りを奪われ、三球目にして追い込まれる。


(振っても振っても当たらない。ちゃんとボールを見てるつもりなのに……)


 今日の栄輝は空の変化球に全く対応できていない。ストレートが一球ファールになってからの五球目、外角にチェンジアップが来る。


「スイング、バッターアウト」


 栄輝は途中で振ったバットを止めるも、球審にスイングを取られる。三振でツーアウト。亀ヶ崎は後が無くなった。


「頼む嵐! まだ終わらせないでくれ!」

「嵐さん、出てください!」


 亀ヶ崎ベンチからの声は止まない。このまま負けるわけにはいかない。打順は八番の嵐に回る。


(最後の打者になってたまるか。必ず打ってやる)


 嵐は臆せず初球を打って出た。外角高めのストレートを叩き、ピッチャー返しのライナーを放つ。打球は空の右を通過すると、センターへ抜ける。


「おお! 嵐ちゃんナイス!」


 次打者の真裕がバットを持ったまま手を叩き、嵐に拍手を送る。首の皮一枚ながら、望みは繋がった。


「……よし、私も続くぞ」


 そう呟いた真裕が打席に立つ。六回の反撃は彼女の粘りから始まった。それだけに空も煩わしい印象を持っている。


(もう一回我慢比べするのは流石に嫌だな。そうなる前に蹴りを付ける)


 初球、空はカーブを投じる。真裕は低めに外れていると判断して見送ったが、球審はストライクをコールする。


(今のがストライクになったのは痛いな。……けど弱気になっちゃ駄目。諦めず食らい付くんだ)


 真裕は逆境を跳ね返そうと自らに奮起を促す。対する空は早めに追い込むべく、力を振り絞ったストレートをインコースに投じる。


「ボール」


 僅かに外れた。真裕は見極められたものの、微妙に差し込まれている。これは川端も確と感じ取っていた。


(空の全力の真っ直ぐにはまだ付いていけてない。ここは勝負を長引かせたくないし、真っ直ぐでツーストライク目を取ろう)

(もう一球同じ球か。こりゃ気合を入れ直さないとね)


 疲労のピークに達する最終回にクロスファイヤーを続けるのは、精神的な消耗も激しい。スタミナ豊富な空も例外ではない。故に次の一球が明暗を分けることになりそうだ。

 その三球目、ランナーがいるにも関わらず、空はゆったりと溜めを作ったモーションで投球を行う。全身全霊を傾けて振り抜いた左腕から、勢いのあるストレートが放たれた。


 しかしコースは真ん中高め。少々力み過ぎたか、空は投げ損じてしまった。これなら真裕にもチャンスはある。


(打つならこれしかない)


 真裕は少々振り遅れながらも、フルスイングで捉えた。ライトへ鋭い飛球が上がる。


「やばっ、ライト!」

「抜けろ!」


 空と真裕の叫びが、グラウンドに轟く。ライトの猛田は左斜めに走って懸命に打球を追った。彼女が捕れなければ、一塁ランナーは一気に還ってこられる。


 猛田が加速しながら左腕を伸ばす。すると打球は吸い込まれるようにして彼女のグラブに収まる。


「アウト! ゲームセット!」


 最後はライトライナーで試合終了。西経大が五回裏に奪った二点を守り切った。


「ふう……。良かった良かった」


 空はマウンド上で大きく息を吐き、安寧の表情を浮かべる。先制点こそ許したものの、終わってみれば二失点完投勝利。元エースの名に恥じぬ投球内容だった。特に六回のピンチでオレスとゆりを打ち取った勝負強さは、素晴らしいとしか言い様が無い。


「アウトかあ。もう一伸びだった……」


 一方の真裕は一塁を回ったところで天を仰ぐ。敗戦投手になったものの、大学生相手に三点しか与えなかったのは立派である。


 整列に向かった空と真裕は、対面に並んで顔を合わせる。そうして互いの健闘を称え合った。


「真裕、ナイスピッチングだったね。成長したところが見られて嬉しかったよ」

「ありがとうございます! できることなら勝ちたかったですけど、やっぱり空さんは凄いです。でももし次があったら負けません」

「ふふっ、言うようになったねえ。けどその前に、日本一になるところを見せてよ。期待してるからね」

「もちろんです! その日はちゃんと予定を空けておいてくださいね」


 真裕と空の新旧エースが投げ合った試合は、一点を争う好ゲームとなった。亀ヶ崎の選手たちは先輩から学ぶことも多かっただろう。


 けれどもまだ終わりではない。亀ヶ崎にはチームとしてやるべきことが残っている。それはオレスを真の仲間にすること。思うような活躍をできなかった彼女に、差し伸べられる手はあるのか。



See you next base……


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