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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十二章 金メッキの戦士
194/223

192nd BASE

お読みいただきありがとうございます。


24日から女子野球でも夏の大会が始まりました。

こちらも男子と同じく二年ぶりの開催。

今回は決勝が甲子園で行われるとあって、これまで以上に熱い大会になると思います!



 五回裏、西経大がツーアウト一、二塁のチャンスを迎える。打席に立った二番の雄山は三球目、真裕の投じた内寄り低めのストレートを打ち返した。


「ピッチャー!」


 打球が真裕の股下を抜けていく。更に昴と京子の真ん中を割いて、センターのゆりの元まで転がる。


「ストップ、ストップ」


 二塁ランナーの空は三塁で止まった。ゆりから良い送球が本塁に渡り、回っていればアウトになっていただろう。しかし塁が全て埋まり、西経大のチャンスは広がる。


(突っ込んでやろうと思ったけど、流石にあれじゃ無理か。でも傍で新入りちゃんを見られるし、それはそれで良いかも)


 三塁ベースからリードを取りつつ、空がオレスに視線を注ぐ。ただし話しかけることはしない。紗愛蘭たちが自分たちで解決すると言った以上、余計な口出しは無用だ。


(よくよく見ると結構可愛い顔してるじゃん。何となくあの有名な海外の女優に似てる気がする。一昔前まで魔法学校に通ってた人。名前は何だったかな……)


 空が野獣じゃない方を演じたハリウッド女優の名前を思い出すのに苦労する中、打席には三番の多岐元が入る。ここまでは真裕の前に二打席凡退。そろそろクリーンナップとして気を吐きたい。


 初球、カーブが真ん中から外角に曲がっていく。多岐元は打って出るも、打球は三塁側のファールゾーンを転がる。


 多岐元は強引に引っ張ってきた。この姿勢にキャッチャーの菜々花は疑問を感じつつも、それに応じた配球を考える。


(確実に一点を取ることよりも、自分で試合を決めたいって気持ちが強いのかな? クリーンナップに座ってればそう思っても不思議じゃないか)


 二球目はアウトローへのツーシーム。これは多岐元が見送り、ボールとなる。


(前のバッターにはツーストライク目を取ろうとした球を打たれた。だから次が大事な一球になるぞ)


菜々花はストレートのサインを出し、内角低めにミットを構えた。多岐元が引っ張りに掛かっていたとしても、厳しいコースなら簡単には打たれないと判断したのだ。


(菜々花ちゃん、中々思い切ったことをするね。けどそれだけ私が信頼されている証だし、応えないと)


 三球目、真裕が菜々花の要求通り、インローへのストレートを投じる。多岐元はもちろんスイングしてきたが、バットの芯では捉えられず、詰まった打球が飛んだ。


「サード!」


 三塁線の右側に小飛球が舞う。オレスが背走しながらジャンプするも、打球はその頭上を越えてフェアゾーンに落ちる。


「おっしゃー。勝ち越し!」


 空が嬉しそうにしながら悠然とホームを踏む。続いて二塁ランナーの竹田も駆け込んできた。


「栄輝、中継まで返して!」


 ボールは栄輝から京子に返球されたところで止められる。多岐元のタイムリーで西経大が逆転。二点のリードを奪う。


「うーん……。やられた」


 二人のランナーが生還するのを目の前で見ながら、真裕は唇を噛んで悔しがる。配球の発想も実際の投球も悪くなかった。多岐元を差し込んでいたのは事実だ。

 だが相手は大学生。そもそものパワーは向こうが上のため分が悪い。加えて多岐元には三打席も抑えられまいという意地があり、それに押し切られる形となってしまった。


(もっと真っ直ぐに力があれば……。でも終わったことをここでしょげても仕方が無い。次で切って攻撃に繋げるんだ)


 気持ちを切り替え、真裕は四番の川端への投球に向かう。初球に内角のストレートでストライクを取ると、二球目はアウトローのカーブで引っ掛けさせる。


「ショート」


 平凡なゴロを京子が処理し、自ら二塁ベースを踏む。何とか二失点で食い止め、真裕はマウンドを降りる。


「ごめん、点取られちゃった」


 ベンチに戻った真裕はナインに謝る。それに対して責める者はおらず、紗愛蘭を筆頭にここまでの好投を労う。


「謝らなくて良いよ。それより二点で抑えたわけだし、ワンチャンスで逆転できる。そのためにまず真裕が打ってきて」

「そうだね。じゃあ行ってくるよ」


 六回表、先頭打者として九番の真裕が打席に入る。クリーンナップにチャンスで回すため、どんな形でも良いから出塁したい。


(空さんは勝ってる状況に立場とテンポが一気に上がる。けどそれをさせないようにすれば、自然と投げ辛くなってくる。そうすれば打つチャンスも出るはずだ)


 初球、内角にストレートが来る。真裕は打ちに出ると、ファールではあるがレフトへ鋭い打球を放つ。


(完全に狙われた打ち方だったね。まあ私のこと知ってれば当然か)


 空は分かっていたかのように涼しい顔をし、打球の行方を追う。いくら捉えられたとしても、先ほどのコースならファールにしかならないと自信を持っていた。


 二球目は外角へのスライダー。真裕はタイミングが合わず見送り、あっさりと追い込まれる。


(……やばい。空さんのリズムに引き込まれちゃってる。一旦落ち着いて、ここから持ち直すんだ)


 三球目。再びスライダーが来た。今度は低めで空振りを取ろうとする投球だったが、真裕はバットを出さない。


 四球目、五球目はクロスファイヤーのストレートが続くも、真裕は辛うじてカットする。六球目は高めのカーブを見極め、ツーボールツーストライクまで盛り返す。


(よしよし。これで少しはペースを乱せてるかな。そろそろ甘い球が来るかもしれない)

(粘るねえ。そういう姿勢もエースには大切だよ。だけどこっちも根負けするわけにはいかないからね)


 空はズボンで左手の汗を拭き、ロジンバックを触る。それから川端とサイン交換を済ませると、真裕への七球目を投げた。

 打者の臍付近を抉るストレート。真裕はまたもファールで逃げようとする。ところが投球はこれまで以上の伸びを見せる。


「スイング、バッターアウト」


 バットが虚しく空を切り、真裕は三振に倒れる。何度も見たはずのインコースへのストレートだったが、見たこともないほどの威力があった。


(これまではある程度抑えて投げてたってことか……。けどギアを上げさせるまでには追い詰められた。きっと京子ちゃん以降には繋がるはずだ)

(思わず本気を出しちゃった。粘られるのは嫌だし、力で押し込むしかなかったかな。さて一踏ん張り頑張りますか)


 完投勝利へ向け、空は締めに掛かっている。それを阻止できるか。亀ヶ崎打線は三巡目に入る。



See you next base……


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