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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十二章 金メッキの戦士
193/223

191st BASE

お読みいただきありがとうございます。


オレスの過去が少しずつ明らかになってきました。

彼女の野球に対する熱い想いが、報われると良いのですが……。

 五回裏、西経大は右打者の谷部(やべ)が打席に入り、攻撃が始まる。プレーが掛かった後も、オレスは直前の紗愛蘭とのやり取りを思い返していた。


(憶測で語ってるはずなのに、どうしてあれほどの感情移入ができるのよ。まるで自分のことみたいじゃない)


 そんなことを考えていると、唐突に短い金属音が鳴る。谷部が初球を弾き返し、オレスの正面に速いゴロを飛ばしたのだ。


「サード!」

「あっ……」


 オレスは即座に捕球体勢を作ろうとする。しかし間に合わず、打球は彼女の左胸に当たって三遊間方向に跳ねた。


「くっ……」

「オーライ!」


 これをカバーしたのは京子だ。目の前に転がってきた打球を素手で掴むと、なるべく小さなステップで一塁へ投じる。


「アウト!」


 足の速い谷部であったが、間一髪で送球が勝る。出塁を許していれば悪い流れになるところを、京子が防いだ。


「ナイス京子! 送球も完璧だったよ!」

「えへへ、ウチに掛かればこんなもんよ」


 ファーストの嵐から称えられ、京子は得意気に笑う。一方のオレスは片膝を付いたまま固まっていた。それを見た真裕が心配して駆け寄る。


「大丈夫? どこか痛めてない?」

「……このくらい何ともないわよ。みっともないから早く戻って」


 オレスが立ち上がって真裕を追いやる。すると京子がボール回しのついでに声を掛けてきた。


「へいネイマートル、せっかくアウトにしたんだからウチに感謝してよ! 褒め讃えて」


 京子の投じたボールがオレスに渡る。オレスは乱暴なグラブ捌きでキャッチすると、煩わしさをぶつけるように真裕へ強い送球を投げる。


「わおっ!」

「ふん……」


 びっくりする真裕を他所に、オレスは彼女たちからそっぽを向く。京子は腰に手を当て、困ったような顔で首を傾げる。


(ウチごときじゃ、難攻不落のネイマートル城はびくともさせられないね。けど紗愛蘭に言われたらウチらとしてはやるっきゃない)


 京子はショートの定位置に就き直しながら、紗愛蘭の言葉を思い出す。彼女は空との会話を終えた後、二年生にこう言っていた。


“オレスはきっと、ずっと一人だったんじゃないかな。孤独の中に迷い込んだあの子をどうにか救い出したいんだ”


 紗愛蘭はオレスの境遇を何となく察していた。自身も似たような経験しており、オレスの醸す空気感に共感するところがあったのだ。だからこそ他の二年生にも自らの思いを伝え、理解を得られるよう働き掛けた。

 彼女たちが懸命に伸ばす手は、残りどれだけでオレスに届くのだろうか。もう一押しのような気もするが、中々押し切るきっかけが掴めない。


「ストライク、バッターアウト」


 八番の中井(なかい)は三振に倒れ、ツーアウトランナー無し。左打席に九番の空が入る。


(何だか新入りちゃんの動きが悪いな。さっき揉めたのが影響してる? ちょっと揺さぶってみるか)


 マウンドの真裕がワインドアップから初球を投じる。それに合わせて空はバットを寝かせ、バントの構えを作る。


「えっ?」


 真裕は全く予期しておらず、反応が遅れた。アウトコースのストレートを、空が三塁線沿いに転がす。これはオレスが捕るしかない。


(私にセーフティを仕掛けようなんて、二万年早いわよ!)


 オレスは猛然とダッシュする。そしてすぐスローイングに移れるよう、両手でボールを掴んだ。


(ランナーの足はそんなに速くない。これなら余裕でアウトにできる。もうエラーなんてしない……)


 自慢の強肩の見せ所だが、オレスは四回裏の悪送球が頭に過ぎった。ここは慎重に一塁へ投げる。ところが思ったように腕が振れず、弱い送球が行ってしまう。


「セーフ!」


 空が一塁を駆け抜けると同時に、塁審の両腕が大きく広がった。セーフティバントが成功。ツーアウトながらランナーが出る。


「ちっ……」


 オレスは苦虫を噛み潰したように険しい顔をする。失策は記録されないが、アウトにできたはずだ。


「まさか投手なのにセーフティしてくるなんてね。びっくりだよ」

「うん。けどあれくらいならアウトにできたことない? ネイマートルの送球、何であんなにひょろひょろだったの?」

「それ私も思った。威張ってるくせしてミスするし、チームの士気下げるし、何かもう全然駄目じゃん」


 亀ヶ崎ベンチから忍び声が聞こえてくる。それはオレスの耳にも入った。


(……勝手に言ってろ。次のプレーで黙らせてやる)


 オレスは気に留めないようにする。こんなことは佐賀吉野の時にもあった。だがそう思おうとしても、彼女の心には痛みが走る。


「ライト!」


 打順は一番に戻り、武田の三打席目を迎える。彼女は二球目のツーシームを打つと、打球は紗愛蘭の前に弾んだ。


 ツーアウトからの連続安打で、西経大に勝ち越しのチャンスが訪れる。菜々花が一旦マウンドに行き、バッテリーは間を取る。


「空さんのセーフティが流れを向こうに引き寄せたね。あれをアウトにできてれば良かったんだけど……」


 そう言った菜々花がオレスを一瞥する。彼女を責めることはできないが、アウトにしてほしかったという気持ちはあった。


「あれは私が捕らなきゃいけなかったよ。オレスちゃんは目一杯のプレーだったし、惜しかった」


 真裕はあくまでも自分に非があると言う。それに関して菜々花は少し怪訝な表情を見せながらも、真裕の意見を尊重する。


「真裕がそう言うなら、そういうことにしておこう。とにかくここは絶対に抑えなきゃならない。チームのためにも、……オレスのためにもね」

「もちろん。打たせないよ」


 話を終えた菜々花がマウンドを離れる。それと同じくして打席に二番の雄山が入った。彼女は前の打席にレフト前へのヒットを放ち、同点のホームを踏んでいる。


(この人には外の甘い球を打たれた。今回は内をどんどん攻めていく)

(分かった。空さんはこういうところで抑え切るピッチャーだった。それがエースってもんだ)


 初球。真裕は空からの視線を背中で受けながら、インローへの直球を投じる。積極的に手を出してきた雄山から空振りを奪った。


 二球目も内角。今度はツーシームで雄山の足元を崩す。カウントはワンボールワンストライクとなる。


(うん。良い感じ。次の真っ直ぐで早いとこ追い込んじゃおう)


 菜々花が再び内角低めにミットを構える。三球目、真裕の投じたストレートに対し、雄山がシャープなスイングで応戦する。



See you next base……

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