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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十二章 金メッキの戦士
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190th BASE

お読みいただきありがとうございます。


高校野球では二年ぶりに甲子園を目指す戦いが始まりましたね。

今年こそ順調に大会が進むことを願います。


「オレスって何かうざくない? 最近めっちゃ当たり強いじゃん」

「分かるわー。何であんなに口出ししてくるの? 私たちはのんびりやりたいんだけど」

「そうなんだよね。まああの子って外国人だし、そこら辺の空気は読めないんじゃない」

「確かに。文化が合わないってこういうことなんだね。ま、できる限り関わらないようにしよ。何か言っても適当に受け流しておけば良いし。外国語は分かりませーんってね。はははっ……」


 入学して二ヶ月もすると、オレスはチームから完全に孤立していた。更には外国人であることを揶揄する陰口も耳に入ってくるようになり、それが彼女の心を深く抉った。


(最初はあんなに興味を持ってたくせに、自分に都合が悪いとなったら迫害する。そんなんなら、初めから近付いてくるな)


 人間不信に近い状態に陥り、もはや退部すら考えたオレスだったが、それだけはしたくなかった。せっかく日本で野球ができている。それを自分から捨てるという選択肢は無かったのだ。


 ところが昨年の夏大の直前、突如父親が一時的にイギリスへ戻ることとなった。オレスも付いていくこととなり、それに合わせて佐賀吉野を退学。もちろん野球部も辞めた。


 それから半年と少し経って、オレスは家族と共に再来日。父親の勤務地を考慮し、編入先は亀ヶ崎に決まった。


 もう同じ轍を踏むわけにはいかない。そのためにオレスは新しいチームメイトととにかく関わりを持たないことにした。最初から割り切って関係を築かなければ、裏切られて傷付くこともないのだから――。


(幸いこのチームは、全国制覇を目指してるだけあって個々の意識が高い。私は自分が結果を残すことを考えていれば良い。そうすれば自然と勝てる)


 全ては理想を叶えるため。オレスは孤独でも活躍できる道を選んだのだ。


「サード!」


 斎賀の放った打球が、三遊間を襲う。オレスは素早く反応し、横っ跳びで捕球する。


(周りの雑音が何よ! 私の実力があれば、誰も文句は言えないでしょ!)


 オレスは先ほど以上のスピードボールを一塁へ投じる。少々高くはなったが、嵐の手が届く範囲内には収まっている。


「アウト」

「ふう……」


 アウトになったのを確認したオレスは、何事も無かったかのようにその場を去る。すると彼女の元へ颯爽と真裕が近付き、柔和に微笑みかけた。


「ナイスプレー! 今度はアウトにしてくれたんだね。ありがとう」


 真裕が右手を差し出し、オレスとタッチを交わそうとする。しかしやはりと言うべきか、オレスが手を伸ばすことはない。


「ふん。どこがナイスなのよ。こんなのできて当たり前でしょ。いちいち騒がないで」

「でも私は実際に助かったわけだし、そういう時はちゃんとお礼を言わないとね。それが仲間ってもんでしょ」

「……仲間? 私とあんたが?」

「そうだよ。これから一緒に戦っていく仲間じゃん」


 オレスは目を丸くする。咄嗟に首を振って顔付きを整えると、真裕から逃げるように歩を進めるスピードを速めた。


 五回表、亀ヶ崎の攻撃は六番の菜々花から始まる。打順の離れているオレスは一人でベンチの奥に座り、戦況を追う。


(仲間か……。以前と何か違う気がしてたのは、これだったのかもね)


 亀ヶ崎の選手たちは、オレスをただのチームメイトではなく、“共に戦う仲間”として迎え入れようとしている。そこには佐賀吉野の時には感じられなかった熱量があった。


「ネイマートル、さっきはナイスプレーだったね。完全に抜けたと思ったよ」


 そこへ紗愛蘭がやってきて、オレスの隣に腰掛ける。オレスは鬱陶しそうに意地の悪い返答をする。


「……いきなり何? その前の説教でもしにきたわけ?」

「そんなんじゃないよ。あれはあれで惜しかったし、ネイマートルの判断は間違ってないと思う。それよりも良いプレーしたんだから、気分上げていこ!」


 小さく手を叩いて鼓舞する紗愛蘭に対し、オレスは表情一つ変えずに口を閉ざしたまま。紗愛蘭は困惑したように力無い笑みを浮かべながらも、少し雰囲気を変えて話す。


「まあ良いや。……ねえネイマートル、何も答えてなくても良いから、ちょっとの間だけ私の話を聞いててくれるかな?」


 オレスはほんの僅かに紗愛蘭の方へと視線を動かし、すぐに戻す。紗愛蘭はそれを勝手にすれば良いというメッセージとして受け取った。


「ネイマートルが何故そこまでして、私たちと距離を置こうとするのかは分からない。けど何かしら理由はあると思うんだ。もちろんそれを話す必要は無いし、私たちも無理には聞かない。……けどね、もしもネイマートルが一人で何かを抱え込んでいるのなら、私たちはそれを一緒に解決していきたいの」


 紗愛蘭はオレスの顔を見つめ、優しく訴えかける。彼女は更に続けた。


「ネイマートルは亀高に来る前、違う高校に行ってたらしいね。もしかしたら、そこで辛い出来事があったのかもしれない。孤独を感じる出来事があったのかもしれない。でも私たちはそんな思いはさせない。ネイマートルを一人になんかしないよ!」


 言葉を紡ぐに連れ、紗愛蘭の語気が僅かながらに強まっていく。オレスは呆れたように深い溜息を零す。


「はあ……。何よそれ。そんなの信用できるわけないじゃない。それに知ったような口ぶりをしてるけど、私の何が分かるって……」


 捨て台詞を吐こうと不意に紗愛蘭と顔を合わせた瞬間、オレスは目を見開いて固まる。紗愛蘭は痛みすら感じていそうなほど、酷く悲しい面持ちをしていたのだ。しかも瞳には涙が滲んでいる。


「……ちょ、ちょっと、何も泣くことないじゃない。そんなにきつい物言いだった?」


 オレスはあたふたしながら紗愛蘭を宥めようとする。こんな風に狼狽えるのは、亀ヶ崎に来て初めてだ。


「いや、そうじゃないの。オレスが経験してきたことを想像してみたら、すっごく胸がキュッとなっちゃって……。だから気にしなくても良いよ」


 紗愛蘭が涙を拭って笑顔を作る。それに対してオレスは何も言えなかった。


「ショート!」


 刹那、ツーアウトから八番の嵐がショートゴロに倒れた。五回表の亀ヶ崎は三者凡退に終わり、攻守が入れ替わる。


「チェンジになっちゃったか。さあネイマートル、しっかり守っていこう。またファインプレー見せてよ」


 紗愛蘭はグラブを持ってライトへ走っていく。オレスはその背中を見ながら、奥歯を噛み締める。


(どういうことなのよ。訳分かんない……)


 ひとまずオレスは紗愛蘭の後を追うようにしてベンチを飛び出す。彼女の金髪が太陽の光に反射し、一部分だけ透き通って見えた。



See you next base……

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