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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十二章 金メッキの戦士
185/223

183rd BASE

お読みいただきありがとうございます。


オレスは中々の曲者のようですね……。

亀ヶ崎のメンバーは彼女の心を開かせることができるでしょうか。

 新学期を迎えた。約二ヶ月ぶりに私のクラスは全員が集結したわけだが、不思議と久しい感覚は無い。きっと定期的に補習などがあったからだろう。


「おお柳瀬、おはよう。久しぶりだな」


 教室に入って初めに話しかけてきたのは椎葉君だ。肌は真っ黒に焼けており、休み中に猛練習した跡が伺える。夏の大会前に極限まで短く切られていた髪は、櫛が入る程度まで伸びていた。


「久しぶりだね! 休みは満喫できた?」

「まさか。野球ばっかの毎日だよ。柳瀬ともお互い忙しくて、ほぼ会えなかったしな」


 椎葉君は野球部の合宿も重なって補習には不参加。そのため休みの間は模試の際に顔を合わせただけだった。


「残念だったなあ。去年みたいに夏祭りとか行きたかったよ」

「え? ……おお、そうだな」


 仄かに顔を赤らめ、目を逸らす椎葉君。垣間見えた口角が、心做しか上がっている気がする。


「あ、椎葉君だ! 決勝テレビで見てたよ。惜しかったね」

「けど凄かった! めちゃめちゃかっこよかったよ!」


 そこへクラスメイトの女の子が何人か割って入ってきた。彼女たちも、地方大会での椎葉君の熱投に魅せられたようだ。


「あ、ああ……。ありがとう。次は勝てるように頑張るよ」


 椎葉君は戸惑いながらも、女の子たちに笑顔を向ける。女の子たちは歓喜の悲鳴を小さく上げて去っていた。


 甲子園まであと一歩という試合で、あれだけのピッチングをしたのだ。人気が出てちやほやされるのは必然。でも何故だろう。ちょっとだけ嫌な感じがする。


「どうした柳瀬? 難しい顔して」

「え?」


 しまった。気付かぬ内に感情が表に出ていたみたいだ。私は咄嗟に惚けた笑顔を浮かべて誤魔化す。


「……ど、どうもしてないよ。ぼけっとしちゃってた」

「そかそか。二学期もよろしくな。もし休みとかあったら、また二人で遊びに行こうぜ。……い、息抜きも必要だしな!」

「もちろん。夏休みに遊べなかった分を取り返さないとね」


 二人ともチームでは最高学年となり、これまで以上に大変さは増す。それでも、椎葉君とは仲良くしていたいな。


 気になるオレスちゃんはと言うと、昴ちゃんのクラスに転入してきたそうだ。放課後、私と紗愛蘭ちゃんは部活が始まる前の部室で、教室でのオレスちゃんの様子を昴ちゃんに尋ねる。


「自己紹介は私たちにしたのと同じ感じでしたね。名前だけ名乗るみたいな。その後担任がちょっと経歴みたいなのを喋ったんですけど、それについて何か言うことはしませんでした」


 昴ちゃんの話に依ると、オレスちゃんはイギリスから父親の仕事の関係でこちらへ引っ越してきたらしい。ただ日本語も非常に上手だし、昔から日本には住んでいたようにも思える。


「日本には初めて来たの?」


 私はそう聞いてみる。昴ちゃんは少し考え込むも、答えが出ないと首を捻った。


「分かんないですね。ただ……」

「ただ?」

「これなんですけど……」


 昴ちゃんが申し訳無さそうな顔をしつつ、私たちにスマホを見せてきた。画面には誰しもが使う検索サイトが映っており、オレスちゃんの名前で検索が掛かっている。


「良くないとは思ったんですが、オレスのことをちょっと調べてみたんです。そしたら頭にこれが出てきて……」


 検索結果の先頭には、『オレス・ネイマートル/佐賀吉野(さがよしの)高校女子野球部』という題名のサイトがある。閲覧はまだしていないみたいだ。


「開いても良い?」

「はい。どうぞ」


 私はアクセスしてみる。すると野球帽を被ったオレスちゃんそっくりの顔写真と、プロフィールが掲載されたページに飛んだ。


「これ、オレスちゃんなのかな?」

「そうだと思う。どれどれ……」


 隣にいた紗愛蘭ちゃんと一緒に内容を確認する。学年は一年生、ポジションは二塁手、誕生日は十二月十二日。いずれも一年前の六月時点のデータとなっている。


「オレスは佐賀吉野ってところの野球部に入ってたっこと?」

「これを見る限りそうなるね。ということは以前にも日本にいたんだ……」


 これは予想外だ。オレスちゃんは一度違う高校に入学していたとは。そこで一体何があったのだろう。謎は深まる。


 その夜、私は今日の情報を元に更に調べてみた。佐賀吉野は佐賀県唯一の女子野球部のある高校で、昨年も今年も夏の大会に参加している。成績は二年連続で初戦敗退。レベルは高くないようだ。


 オレスちゃんは昨年の大会でメンバー登録されているものの、試合に出場した記録は無い。彼女の実力を考えれば、怪我などの理由が無い限りレギュラーを取れるはず。これはどういうことなのだろうか。

 もしかしたら今のような態度を取っている理由に繋がるかもしれない。すんなり話してくれると思えないが、ダメ元で一度本人に聞いてみるか。


 翌朝。私は練習前に一人で体を解していたオレスちゃんに話し掛ける。


「ねえネイマートルちゃん、ちょっとだけ良いかな?」

「何? 野球以外の話ならするつもりは無いけど」

「関係あると言えばあるかなあ……。一つ聞きたいことがあるんだよね」

「……勝手にすれば。私が答えるかは別問題だし」


 私のことは一切見ようとせず、耳だけを傾けてストレッチを続けるオレスちゃん。相変わらずの愛想の無さである。それでも私はめげず、声を震わせながらも思い切って質問してみる。


「ネイマートルちゃんってさ、ここに来る前は佐賀吉野って高校にいたの?」

「は?」


 オレスちゃんが反射的にこちらを振り向いた。口と目がどちらも開かれ、ぶっきらぼうな表情は一気に崩れる。


「どうしてそれを?」

「か、風の噂で聞いたんだよ。一年前にそこの野球部に入ってたって。でも亀高にも一年生として入ってきたよね。進級する前にイギリスに一回帰ったとか?」

「はあ……。別に。貴方に話すことじゃない。知らなくたって野球はできるわ」


 一度は動揺を見せたオレスちゃんだったが、溜息を一つ吐くとまた無愛想な顔付きに戻る。そして再び冷めた物言いで私を突き放す。


「それはそうなんだけど……。でもそこでどういう風に野球をやってたかを知れたらさ、ここでもそれにできるだけ合わせられるのかなって……」

「いい加減にして。私は話す気が無いの。話したくないこと話さなくて良いって言ったのはそっちでしょ」

「う……」


 そう言われるとこちらも返す言葉が無い。私が黙ったことで会話が途切れてしまった。


「話はそれだけ? じゃあ私はアップに行くから」


 オレスちゃんは私に引き留める隙も与えず走り去っていく。結局彼女の口からは何も聞き出せず、佐賀吉野高校にいたことが事実であると分かっただけだった。


 オレスちゃんとの溝は深いまま。そんな中週末には、新たに練習試合が控えている。



See you next base……

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