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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十一章 私がやるんだ
180/223

178th BASE

お読みいただきありがとうございます。


どんな戦局でも紗愛蘭は頼りになりますね。

ここから更なる反撃と行きましょう!

 亀ヶ崎の三点ビハインドで迎えた七回表、紗愛蘭のタイムリーで一点を返す。


「ナイバッチ!」


 紗愛蘭が一塁に達したところでベンチからは拍手が起こる。ただ京子同様、嬉しそうな様子を見せることはない。大事なのはここからであることが分かっているからだ。


 打席に入るのは五番の菜々花。今日は五回まで真裕を好リードで引っ張りながら、六回に四点を奪われた。加えて打撃では二度のチャンスを潰すなど、ブレーキとなっている。その汚名を返上する一打が欲しい。


(真裕があんなこと言うなんて思わなかった……。けど夏大の様子を見てたら、そうなっちゃうのも分かる。四点取られたのは私のせいでもあるんだし、ここは絶対に打たなきゃならない!)


 初球、大曽根は例の如くストレートから入るが、ゆりに投げていたような勢いが戻っている。どうやら紗愛蘭の考えは当たっていたようだ。菜々花にバットを振る隙すら与えず、ストライクを一つ先行させる。


(紗愛蘭の時とは球の質が段違いだな。右と左の違いでこうも差が出るものなの? 祥ですらここまでは無いよ)


 俄には真に受けられない菜々花だが、実際に起こっているのだから対応するしかない。彼女は二球目のストレートを打って出る。


「ファースト!」


 内角に詰まらされたゴロが矢田の前を転がる。徐々に一塁線の外に切れていき、最終的にはファールとなった。


「ファールか。……良かった」


 菜々花は安堵の溜息を漏らす。ただ大曽根のペースに引き込まれ、瞬く間にツーストライクを取られる。


(ゆりの話だと、フォークみたいな球があるって言ってたな。けどあんまり投げてるようには見られない。これだけ真っ直ぐで押せてるんだし、まだまだ続けてくるかも)


 三球目、大曽根は高めの釣り球で空振りを誘う。菜々花はバットを動かしかけながらも、途中で振るのを止めて見送る。ハーフスイングは取られなかった。


(この一球は想定内。私がリードしててもそうしたと思うし。問題は次だ。ストレートか変化球か……)


 菜々花が迷っている内に大曽根が手早くサイン交換を済ませ、セットポジションに就く。それから間もなく足を上げて投球動作に入る。


(もう投げてくるのか……。とりあえず照準は真っ直ぐに合わせて、変化球だったら都度対処する)


 四球目、大曽根は外角へ投じてきた。ストレートだと思った菜々花は差し込まれないよう気を付けてスイングを始める。ところがその瞬間、投球は小さく落ちる変化を見せる。


(やばい……)


 菜々花は何とかバットに当てようと球道を追い掛ける。しかしそれが災いし、平凡なゴロがショートに転がる。


「オーライ」


 お(あつら)え向きのゲッツーコース。久屋は慎重に体の正面で捕球し、二塁へトスする。それを受け取った本山がベースを踏んで一塁へと投げた。


「アウト。ゲームセット」


 少々ぎこちないコンビネーションではあったものの、難なく併殺を完成させた。これで試合終了。四対二で教知が勝利を収める。


「最悪だ……」


 菜々花はそう言葉を零し、深刻そうな面持ちで整列に向かう。結局彼女は今日ノーヒット。それもあって亀ヶ崎は幾度もチャンスを作りながら、もう一押しができず二得点に留まった。

 エースとして期待される真裕も六回の乱調でノックアウト。攻守共に奮わず、新チームは敗戦スタートとなってしまった。


 昼休憩を挟み、二戦目が行われる。今度は亀ヶ崎が後攻。先発を務める春歌がプレイボールのマウンドに上がる。


(真裕先輩は何があったのか知らないけど、私にとってはチャンスだ。あの人を追い抜くためにはこういう時に引き摺られないようにしないと)


 春歌は夏大では準決勝に先発登板。しかし試合を作れず、チームが逆転勝利した裏で涙を流した。その悔しさを糧に、新チームでは真裕からエースの座を奪うべく獅子奮迅の活躍を期する。


「セカン!」


 肝心の初回、春歌は先頭打者をセカンドゴロに仕留める。低めのカーブを引っ掛けさせた。更には二番、三番打者も呆気なく抑え、三者凡退で切り抜ける。いずれの打者も緩急を効かせた変化球で打ち取った。


 これまでの春歌はストレートでインコースを突く投球が中心だったが、夏の大会?を機にモデルチェンジ。変化球の割合を増やし、ストレートとのコンビネーションを軸にしたスタイルを磨いている。


(内角を抉ることを止めたわけじゃない。いざという時に威力を発揮できるよう、投球の幅を広げておくんだ。このチームは守備が良いし、それを信じて打たせればアウトもきっと増やせる。私は私のできるやり方で勝負するんだ)


 元々春歌はコントロールが良く、低めに集める力は長けている。これを徹底して継続できれば、安定感は確実に上がるはずだ。


 攻守入れ替わって一回裏。四球と相手のエラーで、ワンナウト一、三塁のチャンスが亀ヶ崎に転がり込む。打席には四番に入った嵐が立つ。


(紗愛蘭や京子が下がっているとはいえ、四番を任されたんだ。このチャンスを活かさないわけにはいかない)


 嵐は初球から快音を響かせた。教知の先発右腕、伏見(ふしみ)が投じた外角のストレートを捉え、右方向へライナーを飛ばす。ライトの右に弾んだ打球はフェンス代わりに設置されたネットまで転がる。

 二人の走者が生還するタイムリーツーベース。嵐は四番起用に応えてみせた。


 これで優位に立った亀ヶ崎は勢いに乗って得点を重ねる。二塁に残った嵐を還して初回だけで三点を挙げると、二回にも一点を追加。加えて三回にもノーアウト二塁のチャンスを作り、嵐の二打席目を迎える。


「レフト」


 嵐は三球目をレフト前に弾き返し、またもやタイムリーを放つ。これで一試合目と合わせて四打点目だ。


 打撃陣が理想的な繋がりを見せる一方で、春歌も好投を続ける。三回まで無失点。降板予定となる四回も二人のランナーを出しながら、ツーアウトまで漕ぎ着けた。


 迎える打者は一試合目でも出場していた赤池。初球のカットボールがアウトコースに外れた後、二球目は低めのカーブがストライクとなる。


 続く三球目、春歌は再び外角にカットボールを投じる。赤池はバットを出すも捉えられず、バックネットに直撃するファールが飛ぶ。


 ワンボールツーストライクと春歌が追い込んだ。ここでキャッチャーからはインコースのストレートが要求される。


(来たな。これで決めるぞ!)


 頷いた春歌は一度大きく息を吐いてから四球目を投じる。赤池の懐を目掛けて放たれたストレートは、ホームベースの少し前かは驚異的な伸びを見せた。


「へっ?」


 赤池は素っ頓狂な声を上げながらスイングする。バットのグリップに当たったのではないかと思えるほど鈍い音が鳴り、弱いゴロが春歌の前に転がる。


「オーライ」


 春歌が危なげなく処理してスリーアウト。予定の四回を投げ終え、薄らとした笑顔を浮かべてベンチに戻っていく。


(今のはめっちゃしっかり指に掛かった気がする。これをいつも投げられるようになったら良いな)


 試合はその後、両チームが二点ずつ取り合う。最終的なスコアは七対二。亀ヶ崎が新チームの初勝利を挙げた。



See you next base……

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