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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十一章 私がやるんだ
179/223

177th BASE

お読みいただきありがとうございます。


五回までとは全く違う試合になってしまいました。

真裕もここまでの乱調に陥るとは。

ちょっと言葉が出ません……。

(……私、何て酷いこと言いかけたんだろう。自分勝手にプレーして、周りが全く見えてなかった)


 降板した真裕はベンチに腰掛けて下を向き、自責の念に苛まれる。ノルマとして課した完投を目前としながら、自らの判断ミスで逃した。そこから怒涛の如く打ち込まれ、結果的には四点を献上。チームを勝たせるどころの話ではない。


(こんなんじゃ真のエースになれない。……一体どうすれば良いの?)


 真裕は頭を抱え、首を小刻みに振る。その頃グラウンドでは、リリーフした祥が五番の日比野をショートゴロに打ち取っていた。


「ナイスピッチ」


 ベンチの選手たちが祥を出迎える。もちろん真裕もそこに加わっていたが、祥に声を掛けることも手を合わせることもしない。円陣を組んだ時も表情は暗く、一人だけ地面を見つめていた。そんな彼女の態度を良くないと見た紗愛蘭は、一言釘を刺しておく。


「真裕、落ち込むのは分かるけど、まだ試合は終わってない。だから応援ぐらいはしないと駄目だよ」

「……うん。分かってるよ」


 流石の真裕も紗愛蘭に言われれば従うしかない。とりあえずベンチの前方に立ち、虚ろな眼差しでグラウンドに目をやった。


(私のせいで負けちゃうのか……)


 試合は最終回へ突入。七回表、二番のゆりが先頭打者として打席に入る。


(三点差をひっくり返すためには、私が出ないとだね。三本目打っちゃいますか!)


 教知は前の回に代打で出た徳重をレフトの守備に就かせ、高畑に代えて右の大曽根(おおぞね)をマウンドへ送る。前に投げていた二人よりも身長は低いが、投球練習では活きの良い球を繰り出していた。


 初球、大曽根からストレートが投じられる。ゆりは手を出していくも、バットに当てられない。


(速い……というか、手元でキュッて伸びてくる感じがあるな。一呼吸早くスイングしないと遅れちゃうぞ)


 二球目もストレート。ゆりは一球目よりも早めにバットを振り出し、差し込まれながらも打ち返す。


「ライト」


 一塁側のファールゾーンに高い飛球が上がる。ライトの日比野が追っていくも、彼女の手前に打球は落ちた。


 二球で追い込まれたゆり。三球目、大曽根はまたもストレートを投げてきた。アウトローへ見事に制球されている。


「ボール」


 球審は僅かに外れていると判断を下す。ゆりとしては手が出なかったので、ひとまず助かった。


(びっくりしたあ……。低いと思ってたら急に伸びてくるんだもん。慌ててバットを振り出そうとしても間に合わないし、ストレートはよっぽど外れていない限り手を出していかなきゃ)


 四球目。大曽根が初めて変化球を投じる。低めの落ちる球だが、明らかなボールになっていたためゆりはあっさり見送る。


(今のはフォークかな? どれほどの精度なのか分かんないけど、良いところに決まったら厄介だな。確実に振っちゃうよ。どうしよう……)


 ゆりは何か方法は無いかと考えを巡らせる。しかし大曽根はその間を与えまいと、テンポ良く五球目の投球を行う。


「えっ、もう来ちゃうの?」


 外角高めへのストレート。慌てて打ちに出たゆりは詰まらされ、真上にフライを上げる。


「オーライ」


 東山がマスクを取り、体を野手陣と同じ向きにしてから捕球する。ゆりはキャッチャーフライに倒れた。


「真っ直ぐの伸びがえげつないよ。普通に待ってるだけだと対応できないかも」

「そうなの? 分かった」


 ワンナウトを取られたが、ここから打順はクリーンナップへと回る。三番の京子はゆりから大曽根の情報を耳打ちされ、打席に入る。


(確かに真っ直ぐは良い物を持っているようには見えた。心して掛からないとね)


 初球、アウトコースにストレートが来る。京子はバットを出そうとするも、怪訝な面持ちをしながら途中で止めた。判定はストライクだ。


(あれ? 想像してたよりも大してボールが来ないんだけど。これくらいなら普通に打てそうだよ)


 二球目もストレートが続く。今度はインローに来たが、見るからに低かった。京子はもちろん反応しない。


(何というか、凄く恐る恐る投げてる気がするな。ゆりの時は活き活きしてたように思うけど。いくら何でも変わり過ぎじゃない?)


 三球目。大曽根の投球は低めに行く。球種はストレートだったが伸びは無く、お辞儀するように沈んでしまう。


「ボール」

「うーん……」


 大曽根は冴えない顔を見せる。故障でもしたのかと疑いたくなるが、体のどこかを気にする素振りは無い。

 不可思議なまま迎えた四球目、ここでもストレートが投じられる。コースはほぼ真ん中。京子は追い掛けないよう一呼吸置いてからスイングし、タイミングを合わせて打ち返す。


「ライト」


 鋭いライナーが右中間を真っ二つに割く。京子は俊足を飛ばして一気に二塁まで到達。更に外野の処理がもたついているのを確認すると、三塁へと向かった。中継に入った本山から三塁に送球が渡るも、京子はタッチされる間もなくセーフとなる。


「ま、これくらいは打てないとね」


 京子は大手を振って喜ぶことはせず、少しだけ表情を明るくしてバッティンググラブを外す。チャンスは作れたが、彼女が還っても劣勢は変わらない。もっとランナーを溜めることが必要になる。


 打席には四番の紗愛蘭が立つ。初球、ストレートが外角高めに外れる。これも勢いは無く、紗愛蘭が変化球ではないかと錯覚してしまうほどだった。


(今の真っ直ぐなのか。ゆりへの投球を見る限り力を抜いてるわけでなさそうだし……。もしかして、左打者はめちゃくちゃ苦手なのかも)


 紗愛蘭は大曽根の弱点を考察する。まだ三人にしか対戦していないので確証は持てないが、可能性は高そうだ。


(そうとなれば私は確実に打たなきゃ。一点でも取れれば流れは変わるはず。真裕だって打たれることがある。あの子が今後全部背負っちゃわないよう、この試合は私たちでできるだけカバーしておきたい)


 主将という立場なったからには、紗愛蘭は如何なる時でもチームのことを頭に入れておかなければならない。ただでさえ四番という重責を担っており、大きな負担を抱えることになるのは間違いない。

 だが彼女なら結果を出せると思われたから主将を任されたのだ。この打席でもそれを証明するかのように、二球目のストレートを鮮やかにセンターへ弾き返す。


 打球は黒川の前に落ちてヒットとなる。三塁ランナーの京子がゆっくりとホームイン。二点差に詰め寄った。



See you next base……

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