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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十一章 私がやるんだ
177/223

175th BASE

お読みいただきありがとうございます。


完全試合継続中にエラーをしてしまうと、野手としては非常に辛いと思います。

ただ投手からすれば四死球は出しても大丈夫と気が楽になり、そのおかげでノーヒットノーランができたというのは結構あります。

何事も捉えようが大事です。

真裕はどうでしょうか。

 六回裏、ワンナウトから昴がエラーを犯し、教知が初めてランナーを出す。


「真裕さん、すみません……。せっかくのパーフェクトだったのに」

「大丈夫。気にしなくて良いよ。どうせできるとは思ってなかったから。それよりも切り替えて、次は頼むよ」


 真裕は謝る昴を宥める。その表情は穏やかで、大らかに構えている。


(ランナーが出ちゃったか。まあでも、ホームに還さなければ良い。昴ちゃんのミスは私がカバーする。それもエースの務めだ)


 打順は九番の金山に回るが、左打者の徳重(とくしげ)が代打に送られる。教知としても点を取りにいかなければならないため、攻撃的な手を打ってくる。


 エンドラン等を警戒して二度の牽制を入れた後、真裕は徳重への初球を投じる。アウトハイのストレートはボールと判定された。


 二球目もストレート。これも高めに来たが、今度は徳重がバットを出して空振りとなる。


(ちょっと浮いてきてるのは気になるけど、真っ直ぐの勢いは衰えてない。バッターは代打でまだタイミングも取れてないし、小細工は必要無さそうだ)


 菜々花は再度ストレートを要求する。頷いた真裕は、クイックモーションで三球目を投げる。


「ボール」


 一球目と同様、外角高めに外れた。ランナーを出したことでリズムが狂ったか、それとも点を与えまいと力んでいるのか、真裕の制球が乱れてきている。


(おかしいなあ……。普通に投げてるつもりなのに。一旦落ち着くか)


 真裕は地面に置かれたロジンバッグを触り、一呼吸入れる。気を取り直しての四球目、カーブでカウントを整えようとする。

 ところがこれも高めに浮いた。真ん中に沈んできた投球を、徳重が打って出る。


「ショート!」


 打球は京子の頭上を越え、レフトの栄輝の前に落ちる。教知に初ヒットが生まれた。


「むう……。もっと低めに投げなきゃいけなかったのに」


 真裕は歯痒そうに眉間に皺を寄せる。甘く入った球を痛打され、ワンナウトランナー一、二塁とピンチに陥る。


 教知打線は三巡目に入り、一番の赤池を打席に迎える。一球目、真裕の投げたストレートがアウトローへ行く。


「ストライク」


 赤池はバットを出さずに見送る。いや、出せなかったと言った方が正しいだろうか。それほどに彼女の反応は遅れている。


 二球目、バッテリーはストレートを続ける。ボールと判定されるも、コースは外角低め。真裕は高めに浮いていたコントロールを修正してきた。


(今のを見れば分かるけど、教知の打線は私の球に付いてこれていない。甘くならなければ打たれないはずだ)


 三球目、真裕はツーシームで内角を抉る。赤池は引っ張ろうとスイングするも、球速に対応し切れず一二塁間にゴロが転がる。


「オーライ」


 処理に向かうのは昴。素早く動き出して捕球すると、体を左向きに反転させながら二塁へ投げる。


「アウト」


 今度は良い送球が行った。受け取った京子は併殺を狙うも、一塁はセーフ。ツーアウト一、三塁と局面は変わる。


「ナイス昴ちゃん。よく二塁で刺したね!」

「ありがとうございます」


 真裕は拍手を送って昴を称える。これで先ほどのエラーを少し挽回できた。


 ただしまだピンチを凌いだわけではない。打席には二番の本山が立つ。その初球、バッテリーはカーブから入る。本山はバットの先に引っ掛けた。

 平凡なゴロをきさらが前に出てきて捌くが、捕った位置はファールゾーンだった。


(タイミングがあんまり合ってないにも関わらず、初球から打ってきた。追い込まれる前に何とかしたいってことかな? それならもう一球カーブで行くか)


 菜々花は本山の心中を悟り、続けてカーブを要求する。外角のボールゾーンへと曲がる投球となったが、本山はこれにも手を出してきた。


「ファール」


 打球はバックネットに向かって転々とする。あっという間にツーストライク。こうなれば真裕にはスライダーがある。菜々花はもちろんそのサインを出した。


(スライダー……。普通ならそうなんだけど、今はそうじゃないんだよね)


 ところが真裕は首を横に振る。これには菜々花もマスクの奥で静かに驚く。


(珍しいな。真裕がスライダーに首を振るなんて)

(今日の課題は真っ直ぐで空振りを奪うこと。カーブで追い込んだんだったら、最後は真っ直ぐで締めたい)

(……なるほど。じゃあ膝元の真っ直ぐで行こうか)


 菜々花が改めてサインを出す。真裕は首を縦に動かすと、一塁ランナーに目をやってからセットポジションに入る。


(ここで抑えればチームは勝てる。私が勝たせるんだ!)


 オレンジ色のグラブが日差しを集め、仄かに焦げた匂いを発する。真裕はそれを心地好く感じながら、三球目を投じた。


 ストレートが本山の臍付近目掛けて直進する。緩急が効いているため、本山はどうしてもスイングが遅れた。それでも空振りはせず、バットから鈍い音が鳴る。


「ピッチ!」


 一塁線上に今にも息絶えそうな弱いゴロが転がる。真裕はすかさずマウンドを降りて追い掛けた。対する本山も懸命に両腕を振って走る。


「真裕見送れ! ファールにしよう!」


 一塁が際どいタイミングになると判断した菜々花は、真裕に捕らないよう促す。だがその声は真裕には届いていなかった。


(……私がチームを勝たせる。そのためにはこのゴロをアウトにしなきゃいけない!)


 真裕は打球を素手で掴み、その流れのまま横手投げで送球を行う。最初は嵐の元へ真っ直ぐ向かっているように見えたが、次第に白線の外側に逸れていく。


「危な……」


 本山との交錯を恐れた嵐はグラブを伸ばすことができず、ボールはライトの方へ抜ける。セカンドの昴がバックアップしたものの、三塁ランナーが生還。一塁ランナーも三塁まで進んだ。


(そんな……。同点になっちゃった)


 真裕は一塁方向を見つめて唖然とする。インローを狙った三球目だったが、実際の投球は本山の腰の高さに行ってしまった。そのせいでバットに当てられたのだ。

 更には守備も不味かった。間一髪のプレーだったため、送球が上手くいかなったことはどうしようもない。問題は、菜々花の指示を無視したことにある。


「真裕……。私の声、聞こえなかった?」

「……ごめん。アウトにしたくて、体が勝手に動いちゃった」


 気遣わしそうに尋ねる菜々花に詫びを入れ、真裕は顔を顰める。すると唐突に居た堪れない気持ちになった彼女は、逃げるようにマウンドへと戻る。


(何やってるんだ……。私が崩れたら、このチームは終わりじゃないか!)


 真裕はグラブで太腿を叩く。せっかくの先制点を守り切れず、自らへの苛立ちを隠せなかった。



See you next base……

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