表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十一章 私がやるんだ
176/223

174th BASE

お読みいただきありがとうございます。


亀ヶ崎はチャンスこそ多く作っているものの、中々得点できませんね。

ただ新チームは打線の繋がらないことが特に多いです。

クリーンナップを中心に打線の軸ができると良いのですが……。

 六回表、ワンナウトランナー二塁の場面で、嵐の三打席目を迎えていた。ワンボールツーストライクからの四球目、彼女の狙っていた変化球が来る。

 外から曲がってくるスライダー。絶好のチャンスが訪れ、もちろん嵐は打ちに出た。ただし思ったよりも変化が大きく、バットの根っこに近い部分に当たる。


「負けるか……。くわっ!」


 嵐は手の痺れを感じながらもスイングを止めず、右腕を押し出して大きなフォロースルーを取る。詰まった飛球が三遊間の後方に上がった。

 ショートの久屋がグラブを伸ばして追い掛ける。最後はダイビングキャッチを試みるも、僅かに届かない。


「真裕、回れ!」

「もちろん!」


 真裕は打球が飛んだ瞬間から止まることなく走り出していた。躊躇わず三塁を蹴り、本塁へ向かう。


「高畑、中継まで戻せ!」


 高畑からの返球はサードの赤池までで留められる。真裕は悠々とホームインし、遂に亀ヶ崎が先制点を奪う。


「やった! これで勝てるぞ!」


 真裕は手を叩いて喜ぶ。後は虎の子の一点を自分が守るだけだ。


 打った嵐も一塁ベース上で頬を緩める。技を見せた一打席目の二塁打に続き、手の痺れを忍んで気持ちで放った殊勲のタイムリー。怪我明けにも関わらず、ここまではどの選手よりも輝いている。


(根っこで打った時ってこんなに痛かったっけ? まあでもヒットになって良かった。それにしても、真裕はよくあんなにも早く打球が落ちるって判断できたな。ちょっと暴走っぽい気もするけど、点が入ったわけだから何とも言えないか……)


 好走塁と暴走は紙一重と言う。もしも久屋が捕球していれば間違いなく真裕もアウトにされ、目も当てられぬ事態となっていただろう。それを考えると運も味方に付けた走塁だった。


 一点だけで終わらず、更なる追加点を狙いたい亀ヶ崎。しかし九番のきさらは三球目を打ち上げてライトフライに倒れる。


 ツーアウトランナー一塁で、昴の四打席目を迎える。過去三打席はいずれも凡退。自分の思うようなバッティングができていないので、この打席で微かでも光明を見出したい。


(私が繋げば調子の良いゆりさんにチャンスで回る。その後ろには京子さんや紗愛蘭さんがいる。ツーアウトからでもビッグイニングになる可能性もあるんだから、かなり重要な役回りだ)


 初球はアウトハイのスライダー。昴はあっさりと見送るも、ストライクとなる。


(また初球を見てしまった……。投手が代わったからって様子見してたら、一打席目みたいにすぐ追い込まれるぞ)


 二球目、金山はスライダーを続けてくる。投球は初球よりもボール二つ分ほど外に曲がっていくが、昴はバットを振ってしまう。


「スイング」


 ストライクを見逃し、ボール球を空振る最悪なパターン。昴の悩める心境が如実に分かる追い込まれ方となっている。


(このまま簡単に終わるわけにはいかない。粘って甘い球を誘うんだ)


 三球目は遊び球を挟み、ワンボールツーストライクとなって迎えた四球目、インコースにストレートが来た。ここまでの配球で外角への意識付けがされている昴は反応が遅れ、窮屈なスイングを強いられる。


「おっと……」


 それでも辛うじてバットに当て、ファールで逃げる。ツーストライクから甘い球を待つには、こうしたことを忍耐強く繰り返さなければならない。


(もう一球内を突いてくるか? 今の私の反応を見たら、続けたくなると思うけど……)


 五球目。昴の読み通り、教知バッテリーは再び内角のストレートを使ってきた。だが若干真ん中に寄って打ちやすくなっている。


(いける!)


 昴はコンパクトなスイングで快音を響かせる。鋭いライナーがセンターの左に向かって飛んでいった。


「オーライ」


 しかし黒川(くろかわ)が楽々追い付き、ヒットにはならない。昴はがっかりと肩を落として走るスピードを緩める。


(良い当たりだったんだけどな……。力が足りないってことか)


 バットの芯で捉えることはできていた。ただ空振りできないという気持ちから加減したスイングになってしまい、その分打球が伸びなかった。これが追い込まれる前ならばもっと力強くバットを振ることができ、外野の頭を越す打球を放てたかもしれない。


 ともあれ一点は入った。このリードを守り抜けば、亀ヶ崎は新チームの初陣を勝利で飾れる。


 六回裏、当然の如くマウンドには真裕が登った。彼女はランナーを出した時に備え、投球練習はセットポジションから行う。ここまで一人として出塁を許しておらず、終始ワインドアップでの投球となっている。


(残りは二イニング。完全試合もやりたいけど、それよりまずは勝つこと。つまり私が最後まで投げ切って、無失点に抑えることだ)


 目標である完投へゴールは見えてきた。加えてこのままスコアに変動が無ければ、少なくとも完封も達成できる。


 教知の攻撃は七番の黒川から始まる。右打者の彼女に対し、真裕は初球に胸元へのストレートを投じる。


「サード!」


 黒川は打ち返したが、球威に押されて力の無いフライを上げる。この打球をサードのきさらががっちりと掴んだ。


 続いて八番の久屋が右打席に入る。初球、真裕の投じた外角のカーブに空振りを喫する。ストレートに差し込まれ、変化球でタイミングを崩される。今日の教知打線は全体的にこのパターンでやられており、打破できそうな兆候すら見られない。これでは本当にヒットが出ずに試合が終わってしまう。


 二球目は低めのストレート。久屋はバットにこそ当てたものの、弱々しいゴロがセカンドの左に転がる。これを昴が半身の体勢で捕球した。久屋の位置を確認してみると、まだ塁間の半分程しか達していない。


(このタイミングなら、十分間に合うな)


 昴は二、三歩ステップを踏んでから一塁に投じる。ところが送球は高く浮いてしまった。


「うわっ!」


 嵐が飛び上がるも届かず、その背後で菜々花がカバー。この間に久屋は一塁へ到達する。


「しまった……」


 昴は呆然と口を開けながら苦渋の表情を浮かべる。余裕があったが故に、僅かな油断が生まれたか。まさかのエラーという形で、初めてのランナーが出る。



See you next base……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ