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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十一章 私がやるんだ
173/223

171st BASE

お読みいただきありがとうございます。


新キャラの嵐が初登場にてツーベースを放ちました!

今後も出番が増えそうですね。

 二回表、ツーアウトから八番の嵐が二塁打を放ち、亀ヶ崎は初回に続いてチャンスを迎える。


「よろしくお願いします!」


 何度か力強い素振りを行った後、大声を張り上げて右打席に入ったのは、九番のきさらである。練習の時からチームに元気を振り撒くムードメーカーで、今日の試合もその朗らかさを買われてスタメン起用された。


(せっかく貰ったチャンスだし、元気だけが取り柄じゃないってところを見せないとね! 初球から打っていくよ!)


 一球目、真ん中付近に来た投球に対し、きさらは思い切り良くバットを振る。だが球種は低めに落ちるカーブ。結果的にスイングの軌道とは天と地ほどの間が離れていた。


「きさら、しっかりボール見ろ! 振れば良いってもんじゃないぞ!」

「は、はい……」


 ベンチからの声にバツが悪そうに返事をするきさら。指摘の内容は尤もで、今の彼女は打ちたい気持ちが先走ってフルスイングすることしか頭に無かった。それでは打てるはずがない。


(いけね……。せめてボールがバットに当たる瞬間は見ないと。どのコースに行ったのかも分かんなかったし)


 頭を軽く叩き、きさらは自らを叱咤する。考えを改めて迎えた二球目、外角に来たボールになるスライダーをきっちり見極める。


(私みたいなバッターを見たら、相手はボールを振らせたいと思うよね。問題は次をどうして来るか。多分変化球でストライクを取ってくると思うけど……)


 きさらの予想は当たる。三球目はカーブ。インコースから真ん中に入ってきた。これをきさらは逃さない。左足を上げたまま溜めを作り、投球をミートしやすいポイントまで呼び込んでからバットを振り抜く。


「ショート!」


 快音を残した痛烈な打球が三遊間を襲う。ショートの久屋(ひさや)が出したグラブは届かず、レフト前へのヒットとなった。


「ゴー! 還れるよ嵐!」


 嵐はランナーコーチの指示に従って三塁を回った。それに応戦してレフトの高畑も急いでバックホームする。


「嵐、滑って!」


 本塁では次打者の京子が大きなジェスチャーで嵐に滑り込ませようとする。嵐は全力疾走した勢いに乗り、足からスライディングを試みる。


「アウト!」


 しかしベースに届く前に右の爪先をタッチされた。ここは高畑の送球が上回り、先制点は阻まれる。


「ふう……。駄目だったか」


 嵐は歯を剥き出しにして悔しがる。一息付いて立ち上がると、腰を軽く捻って状態を確かめた。


「嵐、大丈夫?」

「うん。スライディングしても全然問題無かった」

「なら良かった。それにしてもナイスバッティングだったね。流石だよ」

「ありがとう。いきなりヒットが出て良かったよ」


 守備に就こうとする菜々花と言葉を交わし、嵐は自らもグラブを持って一塁ベースへ駆けていく。走ることに若干の恐怖はあるが、ひとまずは違和感が生じていないので安心する。


(これだけ動いても痛みが出ないなら十分だな。やっぱり野球ができないと、生きた心地がしないよ)


 嵐は不自由無くプレーできる喜びを噛み締める。それがどれだけ貴いことか、療養していた三ヶ月間を通して強く実感した。


「さあ真裕、二回も油断せず行こう!」

「うん。嵐ちゃんもしっかり守ってね」

「もちろんだよ。ふふっ」


 イニング始めのボール回しを終えた嵐は、真裕に声を掛けながら返球する。その動きは兎が跳ねるように軽やかで、弾んだ気持ちが無意識に表れている。


 二回裏、先ほど嵐を本塁で刺した高畑が左打席に立ち、教知の攻撃が始まる。初球、高畑はアウトコースのツーシームを流し打つ。


「オーライ!」


 球足の速いゴロが飛ぶも、きさらの守備範囲に収まる。彼女は半身の体勢で捕球すると、間髪入れずに一塁へ投じる。


「あ……」


 送球にあまり力が籠っておらず、嵐の元にはショートバウンドで渡る。一瞬肝を冷やしたきさらだったが、嵐が難なく捌いてアウトにする。


「……良かったあ。ありがとうございます、嵐さん」

「これくらいどうってことないよ。けどきさら、今のは何にも慌てる必要無かったでしょ。余裕あるんだから、ちゃんとステップを踏んでから投げないと駄目だよ」

「あ、はい。すみません……」


 嵐はきさらに活を入れる。嵐が捕球した時点で、高畑はまだ塁間の三分の二ほどしか進めていなかった。打球の強さや高畑の走力を考えると、きさらが送球を急ぐ理由は全く無かったということだ。ただ捕って投げれば良いというわけではない。状況に応じたプレーをしなければ、余計なミスが増えてしまう。


 今回は嵐がカバーして事なきを得た。彼女の高校入学時点での本職はキャッチャー。腰痛の影響でコンバートせざるを得なかったが、それまでに培われた捕球能力は非常に高い。さっきのようなショートバウンドの処理もお手の物だ。


(投手のワンバンを止めるよりは、野手からの送球の方が捕りやすいかな。私がファーストを守っている限り、低い送球でのエラーは付けさせないよ)


 守備に対する意識も高い嵐。彼女の復帰は亀ヶ崎に間違いなく良い影響を与えてくれるはずだ。


「アウト。チェンジ」


 嵐の好守もあり、真裕はこの回も教知打線を三者凡退に封じた。三回表は再び一番の昴からの攻撃となる。


「昴、塁に出てね。私も続くから」

「はい、もちろんです。この回こそ点を取りましょう」


 ネクストバッターズサークルの前でゆりと二言三言交えてから、昴は第二打席に臨む。一打席目と同様、構えを作る前にバットの先をホームベースの両幅に重ねる。


(最初の打席は初球の甘い球を見逃してしまった。同じ轍は踏まない)


 一球目は外角低めのストレート。昴はやや大きめのスイングで打って出るも、打球はレフトのファールゾーンに飛んでいった。


(打った感触は悪くない。外は逆方向、内は引っ張る感じで素直に対応していこう)


 二球目のカーブが外れた後の三球目、またもアウトローにストレートが来た。昴は一球目よりも少しバットを振るタイミングを早めて弾き返す。


「レフト」


 飛球が左中間に高々と上がる。だが飛距離は出ず、早々に落下点へと入った高畑が掴む。昴の二打席目はレフトフライに終わった。


(強く振ろうとし過ぎて余分な力が入ったな……。そのせいでスイングが波打って、芯で捉え切れなかったんだ)


 そう自分のバッティングを分析し、昴はベンチへ帰っていく。前の打席での反省点は解消できたが、また新たな反省点が浮かんできた。試行錯誤は次の打席までも続きそうだ。



See you next base……

PLAYERFILE.31:山科嵐(やましな・らん)

学年:高校二年生

誕生日:11/22

投/打:右/右

守備位置:一塁手

身長/体重:158/55

好きな食べ物:ナシゴレン

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