表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十一章 私がやるんだ
171/223

169th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今年度の高校女子野球選手権大会の決勝が、甲子園球場で開催されることが決まったようです。

これはビッグニュースですね!

もしかすると来期のベスガルは、甲子園球場を舞台に描くことになるかもしれません!


 教知大学との練習試合は一回表、亀ヶ崎はツーアウトランナー二塁といきなりチャンスを迎える。打席には四番の紗愛蘭が入った。


「よろしくお願いします」


 球審に丁寧に挨拶してから、紗愛蘭はバットを構える。謙虚な振舞はいつになっても変わらない。これには球審も贔屓こそできないものの、気分良く判定を下せるだろう。


(打順が変わっても私のやるべきことは変わらない。ここはランナーを還すことに集中するんだ)


 中学時代を含めても、紗愛蘭はこれまで四番に座ったことがない。 珠音のように長打を量産できるわけではなく、一般的な四番打者のイメージとはタイプが違うかもしれない。しかし今の亀ヶ崎の中では最も安定感があり、打線に一本の柱を立てようと思うと、彼女を四番に据えることが現状では最適解になる。


 初球、太腿付近にストレートが来た。避けなければ死球になりそうな投球に、紗愛蘭は咄嗟に両足を引いて見送る。


(四番になればこういう厳しい攻めも自ずと増えていく。ストライクだって簡単に投げてこないかもしれない。もしそうなっても、冷静さを失わないよう注意しないと。別に私が打たなくたって、後ろに繋げられれば良いんだから)


 二球目。インコースへのストレートが続く。紗愛蘭はこれも外れていると判断して反応を示さない。案の定、球審の手は挙がらず、ボールが二つ先行する。


(流石に歩かせることはしないだろうし、次は外でストライクを取ってくるかな。甘く来たら打つんだ)


 バッティングカウントになっての三球目、池下から投じられたのはアウトコースへのカーブだった。紗愛蘭は真ん中付近に曲がってきたところをバットに乗せ、ショートの左へと弾き返す。


「レフト!」


 打球はレフト前に落ちた。守っていた高畑(たかばた)は予め前進守備を敷いており、ワンバウンドで捕球した後すぐ送球体勢に入る。


「ストップ! ゆりストップ!」


 これではゆりも三塁を回れない。紗愛蘭の見事なバットコントロールでヒットが生まれたが、タイムリーとはならなかった。


(如何に狙って打ったとしても、今の私のパワーじゃ流して外野の頭を越すのは難しい。ああやって前に守られちゃうと、普通の単打じゃ二塁ランナーは還せないな……)


 当たり前だが、四番で起用されたからと言って紗愛蘭が急に長打を打てるようになるわけではない。つまり今回のような状況で点を取るためには、ランナーがより良い走塁をする、若しくは後続の打者がもう一本ヒットを打つしかないのだ。

 その後続の打者となる五番の打順は、今日は菜々花が務める。プレッシャーは掛かるが、彼女としても先制タイムリーを打てば気持ちが楽になり、リード面にも良い影響を与えるだろう。


(ゆりも紗愛蘭もファーストストライクを打っていってる。私も狙うぞ)


 初球は高めから沈むカーブ。菜々花は直球にタイミングを合わせて打ちにいってしまい、空振りを喫した。だがファーストストライクにしっかりスイングしていったことは評価できる。


 二球目はストレートが低めに外れる。これに対して菜々花はほとんどバットを動かさなかった。球筋がよく見えている証拠だ。


(初球の空振りは引っ張りたい気持ちが強過ぎたかな。もうちょっと意識をセンター方向に移そう。無理に引っ張ったって飛距離は出ないんだから)


 菜々花はスイング時に体が開かないよう注意し、バットを構え直す。三球目、外角に向かって真っ直ぐ進んできた投球を、彼女は打って出る。


(ヒットで十分。コースに逆らわずライト前に落とすイメージで……)


 バットに当たってからも限界まで手首を返さず、菜々花は右方向に鋭いライナーを放つ。打球はあっという間に一二塁間を割った。


「オーライ」


 ところが飛んだ先はライトの日比野(ひびの)の真正面。彼女は少し前進しただけで立ち止まり、胸の前で捕球する。


「ああ……。伸び過ぎたかあ」


 菜々花は天を仰ぎながら一塁を駆け抜ける。不運にもライトライナーに倒れ、亀ヶ崎は先制のチャンスを逸した。


「ドンマイ菜々花ちゃん。良い当たりはしてたし、切り替えていこう。先にマウンドで待ってるからね」

「分かった。急いで防具付けて行くよ」


 ベンチに帰ってきた菜々花と言葉を交わし、真裕はマウンドへと勢い良く走っていく。新チームになって最初の登板となるが、緊張した様子は無く、淡々と投球練習を行う。


(教知のレベルはそんなに高くない。大学生と言っても奥州大付属や楽師館には及ばない。こういう相手には当たり前のように完投するくらいじゃないと)


 真裕にアピールするという考えは更々無い。エースでいることは大前提とした上で、どうチームを勝たせるかに焦点を当てて投げるつもりだ。無論、彼女は前のチームの一年間で、

それだけの地位を築いてきた。


「お待たせ」


 菜々花の準備も終わり、一回裏が始まる。一番の赤池が右打席に入った。


(真裕をリードするのは久しぶりだし、ちょっと緊張するかも……。まずは真っ直ぐから行こうか)

(了解! 完投するためにはストライク先行で投げなきゃね)


 真裕はオレンジ色のグラブを高々と振り被り、第一球を投じる。外角低めのストレートが菜々花のミットに吸い込まれた。


「ストライク」


 球威も制球も申し分無し。赤池の反応は随分と遅れているようで、バットを振ることができない。


(良いねえ真裕。球は走ってるし、行ける内はどんどん真っ直ぐで押していこうか)


 二球目も菜々花はストレートを要求する。真裕の投球は真ん中内寄りとそれほど厳しくないコースに行ったが、赤池は差し込まれて力の無いフライを打ち上げる。


「オーライ」


 セカンドの昴が二塁ベースの近くで掴んだ。真裕が赤池を打ち取り、あっさりとこの試合のワンナウト目を灯す。


(空振りを取れるように練習したことで、真っ直ぐが前より指に掛かるようになってる気がする。投げていても気持ちが良いよ)


 磨き直したストレートに手応えを感じる真裕。彼女は二番の本山を三球でサードゴロに仕留めると、続く三番の矢田(やだ)に対してはワンボールツーストライクからの四球目、インローにストレートを投じる。


「スイング、バッターアウト!」


 矢田のバットが虚しく空を切り、真裕は三振を奪った。僅か九球で三人の打者を料理する圧巻の投球で、一回裏を無失点で終える。目標の完投に向けて最高のスタートを切った。



See you next base……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ