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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十一章 私がやるんだ
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168th BASE

お読みいただきありがとうございます。


新チームが始まり、早速試合に入っていきます。

これまでとはまた違った選手が活躍していきますので、その辺りも楽しんでいただけたら幸いです!

《多くの緑に囲まれた教知大学。ここでは、教育の未来を担う教員の育成に力を入れています……》


 教知大学の中心部には、学生支援センターと呼ばれる建物がある。そこでは在学生の履修や課外活動の相談を受けるだけでなく、受験生に向けた情報発信も行っている。正面入口に置かれている大型ビジョンでは大学を紹介する映像が流れており、最後は「教育の夢と未来を知る場所」というキャッチコピーで締め括られた。


 そんな教知大学の女子野球部と、真裕たちのいる亀ヶ崎女子野球部が練習試合を行う。支援センター前の長い坂を下った先にあるグラウンドでは、既に両チームが試合に向けて準備を進めている。


「九番サード、きさら」

「はい!」


 新主将の紗愛蘭から発表されるスターティングメンバーも最後まで読み上げられ、これからシートノックに移る。先発バッテリー以外の選手たちが守備に就き、コーチの森繁(もりしげ)(なごみ)が放つ打球を捌いていく。


「ショート、もっと前出られるよ!」

「今できないと試合じゃできないんだから、躊躇わず行こう!」


 今日は新チームになって初めての試合となるため、ノックの時から非常に活気が溢れている。どの選手もアピールしようと気合が入っている証拠だ。


 ブルペンでは先発を務める真裕が投球練習を行っていた。新たに正捕手の座を狙う菜々花とバッテリーを組み、完投、及び完封を目指す。




「集合!」


 定刻を迎えた。両チームが整列を終え、試合開始が宣告される。


「ただいまより、教知大学対亀ヶ崎高校の試合を始めます。礼!」

「よろしくお願いします!」


 亀ヶ崎は先攻。新打線の切り込み隊長を務めるのは、一年生の昴だ。彼女は左打席に立つと、ベースの両幅をバットの先でなぞってから構えに入る。


(監督はここでスタメンだったからと言って、レギュラーなわけじゃないと昨日話してた。でも私を一番で起用した何らかの意味があるはず。それを考えてプレーするんだ)


 昴は夏大でも出番があり、得点に絡む活躍を見せた。隆浯は全選手が横一線と口にしているが、昴にはレギュラーを取る以上のことを期待しているだろう。


 教知の先発投手は右の池下(いけした)。初球、彼女は額の前まで振り被ると、オーバースローからストレートを投じる。


「ストライク」


 外角寄りの高めに決まった。昴はほとんど反応することなく見逃す。


「昴、振ってけ振ってけ!」


 ベンチからは果敢に打っていくよう促す声が飛ぶ。元々昴はじっくり見極めるタイプの打者だが、それは初球の甘い球に手を出さない理由にはならない。一番打者としてチームに勢いを付けるためには、消極的な姿勢はご法度だ。


(打つ気が無かったわけじゃないけど、咄嗟にバットが出せなかった。準備ができなかった証拠だ。これでストライクを取られるのは勿体ないし、次は打っていかないと)


 二球目。膝元に切れ込んでくるカーブを、昴は大きなスイングで打って出る。しかし捉えることはできず、小フライが三塁側のファールゾーンに弾む。


(ちょっとボールだったな……。こんなちぐはぐなバッティングをしてちゃ駄目だ。冷静になれ)


 昴は深く呼吸し、落ち着いてバットを構え直す。緊張こそしているが、そこで慌てずクールに振る舞えるのも彼女の強みである。


 三球目もカーブが続き、今度はアウトローから更に低く沈んでいく。昴は釣られずに見極めた。


 四球目。池下は真ん中低めにストレートを投げ込む。昴は差し込まれながらもバットに当て、再び三塁側へファールを打つ。


(真っ直ぐがそんなに速いわけじゃない。でもカーブが良いアクセントになって緩急が利いてるから、どうしても振り遅れ気味になる。もう少し早く始動した方が良いな)


 五球目、池下が投球モーションに入ると、昴はさっきまでよりも若干早めに足を上げてタイミングを取る。投じられたのはカーブ。前の二球と比べて球速は遅く、変化も大きい。昴は手元まで引き付けようとするも、堪え切れず体を前に出されて打ち返す。


「セカン」


 平凡なゴロが一二塁間を転がる。セカンドの本山(もとやま)が正面に入って捌き、一塁へ送球。足の速い昴と雖も余裕でアウトとなる。


(真っ直ぐを意識し過ぎると、今度はカーブでタイミングを狂わされる。次までにどっちに照準を定めるか整理しておかないと)


 昴は一番打者の役割を果たせなかった。ただしまだ一打席目。次の打席以降でどう修正していくかに真価は問われる。


 代わって打席には、二番のゆりが入る。夏大では代打で二塁打を放つなど、非凡な打撃センスを持っている。彼女が繋ぎ役の機能を果たせれば、より攻撃的な打線が形成できるはずだ。


(三年生が抜けて私たちの代になったわけだし、ここからは出番も増えるはず。どんどん活躍するぞ!)


 息巻くゆりに対する初球、池下はアウトコースにストレートを投げてくる。ゆりは積極的にバットを出していった。


「ピッチ!」


 快音を残した打球が、池下の股下を鋭く抜ける。センター前のヒットでゆりが出塁する。


「しゃ!」


 ゆりは一塁をオーバーランしたところで右の拳を握る。昴とは対照的に、初球から甘い球を逃さなかったことが功を奏した。


「京子、私に続け! 初回で点取ろう!」


 打席には三番の京子が立つ。彼女と次の四番に入っている紗愛蘭は、夏大でもレギュラーを張っていた。この二人には真裕と共に、チームを更なる高みへ牽引することが求められる。


(これまでのウチは塁に出るのが役割だった。三番になれば状況に応じて、チャンスメイクとランナーを還すことのどっちも熟さなきゃいけない。難しいけど任されたからにはやるしかない)


 京子もゆりと同様、初球から打っていく。外角低めの直球を三遊間に弾き返した。


「オーライ」


 バットの下面で引っ掛けた打球は高く弾んだゴロとなる。サードの赤池(あかいけ)が斜め前に出て捕球。一度は二塁に目をやったが、間に合わないと判断し一塁をアウトにする。


(うーん……。今のは打つべきじゃなかったな。ゆりに続きたいばっかりに手を出しちゃったよ)


 京子は自らの強引な打撃を悔やむ。新しい打順で早く結果を出したいという気持ちが、先走ってしまった。


 だがこの間にゆりが二塁へと進んだ。亀ヶ崎は初回からチャンスを作り、打席に紗愛蘭を迎える。



See you next base……

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