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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十章 ここに立つ理由
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165th BASE

お読みいただきありがとうございます。


夏大が終了し、ここからは亀ヶ崎は新しいチームとして活動していきます。

一体どんなチームになるのでしょうか?

 夏大決勝戦の翌日は、穏やかな雨が降り続く日となった。私たち亀高野球部はバスに乗って兵庫から愛知へと帰ってくる。


「トッキー食べる人ー?」

「はーい! ください!」

「ほらゆり、お食べ」


 愛さんが箱から長細いチョコレート菓子を二本取り出し、ゆりちゃんに食べさせる。こんな感じで車内は終始、ほんわかした雰囲気で過ごしていた。一夜明けて負けたショックは和らぎ、激闘を終えた解放感や充実感の方が漂っている。


「ゆりちゃん流石だなあ。いの一番に手を挙げてるよ」

「そうだね。真裕も欲しいなら言ったら?」

「いや、止めとくよ。さっきサービスエリアでたこ焼き食べたばっかりだし」


 私も悔しさは残っているが、気持ちは次へと切り替わっていた。今もこうして隣に座っている紗愛蘭ちゃんと談笑し、リラックスできている。


 舞泉ちゃんとの勝負は、お互いにやるせなさを感じる結果となった。私が完璧に抑えたわけでもなく、舞泉ちゃんに打たれたわけでもない。どっち付かずのまま私はマウンドを降りることとなった。

 試合も舞泉ちゃんとの対戦も、決着が付くまで投げたかった。今はその思いに尽きる。来年はそれを成し遂げられるよう、これから新しいチームで頑張っていく。


 午後二時半、私たちは亀高に到着。今から新体制の発表を含め、杏玖さんの挨拶が行われる。


「皆、今日まで私をキャプテンとして支えてくれて、本当にありがとう。日本一にはなれなかったけど、とても充実した日々を送れました。私たちの雪辱は次の代が果たしてくれると信じてます!」


 杏玖さんは穏和に微笑みながらも、力強い物言いをする。私たちに相当期待してくれているということだろう。


「それでは新チームについて、キャプテンを決めたいと思います。三年生の間では色んな名前が出ましたが、最終的な結論は紗愛蘭にお願いしたいということになりました」

「私……ですか?」


 まさかという顔をする紗愛蘭ちゃん。しかし何も驚くことはない。紗愛蘭ちゃんは一年生からレギュラーを張っているし、日頃から周りに対して気配りもできる。実力も性格もキャプテンになるには申し分無い。


「うん。紗愛蘭なら間違いないって支持は断トツだったよ。やってくれるかな?」

「……わ、分かりました。頑張ります!」


 新チームのキャプテンには紗愛蘭ちゃんが就任。彼女は杏玖さんと入れ替わって前へと出る。


「えっと……。こういうことをやったことがないので、結構不安な思いがあります。皆に色々と助けられながら進めていくことになるでしょうが、このチームを優勝させられるよう全力を尽くそうと思います。よろしくお願いします」


 そう言って礼をした紗愛蘭ちゃんに、私たちは拍手を送る。紗愛蘭ちゃんは照れ臭そうに頬を赤くしながら、人差し指で右の顎を搔いた。


「杏玖さん、副キャプテンは私が決めるってことで良いですか?」

「うん。紗愛蘭がやりやすい人を選びなよ」

「はい。じゃあ副キャプテンは……、真裕と京子にお願いしたいと思います」

「は、はい!」


 私は名前を呼ばれ、少し上擦った声で返事をする。紗愛蘭ちゃんがキャプテンをやるということで何となく予見していたが、実際に指名されると狼狽えてしまう。

 だがもちろん断る理由は無い。紗愛蘭ちゃんから頼られるのは素直に嬉しいし、微力ながらアシストできたら良いな。


「ウチが副キャプテン? ……できるか分かんないけど、紗愛蘭が言うのなら頑張るよ」


 京子ちゃんも戸惑いつつも承諾し、無事キャプテンと副キャプテンが決定した。私たち三人で新チームを纏めていく。


 最後に監督が三年生と新チームに向けて少し話し、私たちは解散となった。皆すぐには帰らず、それぞれが余韻に浸るように思い思いの時間を過ごす。


 私は優築さんとグラウンドの周りを散歩する。空はまだどんよりと曇っているが、雨粒は落ちていない。


「真裕、今日までありがとう。貴方とバッテリーを組めて良かった」

「いえいえ。私の方こそありがとうございました」


 昨日ゆっくりと話せなかったので、こうして二人で会話する時間が欲しかったところだ。明日から優築さんがいなくなるというのが、ちょっと信じられない。


「決勝で好投できたのも、優築さんとバッテリーを組めたおかげです。……できればそのまま優勝したかったんですね」

「そうね。私にもう少し力があれば……」

「何言ってるんですか。優築さんの責任じゃないですよ。皆で戦った結果です。誰の責任でもありません」

「そう言ってもらえると心が軽くなるわ。真裕はそういうところも含めて、ほんとに頼もしくなったわね」


 優築さんは温厚な笑顔を見せる。固まった氷が溶けたように、今まで見たことないほど柔らかな表情をしていた。私は胸を打たれて思わずにやけてしまう。


「えへへっ……。ありがとうございます。一応副キャプテンになるので」

「そうだったわね。あんまり言っちゃいけないけど、もし真裕が九回も投げていたらどうなっていたかなって考えちゃう。勝ち越されてピンチが続いて、真裕ならああできるのに、こうできるのにって正直何度も思ったもの」

「そうだったんですか……。でも私も自分が投げてればと思った部分はあります」


 私たちはふと足を止める。それから自然と、誰もいないマウンドに目をやっていた。


「……私はやっぱり、あの場面は真裕が続投するべきだったんじゃないかと思う。祥を責めたいわけじゃないし、監督だって考えがあって代えたんだろうけど、できることなら真裕を降ろさないでほしかった」


 優築さんも私に投げ続けてほしかったのか……。それを聞けて凄く嬉しくなる一方、試合後に感じた怒りが再燃しそうになる。ただし今はその感情を内に隠しておき、優築さんの話に耳を傾ける。


「日本一になるためには、当然だけど祥や春歌の成長は欠かせない。だけど勝負所では真裕が投げなきゃならない。それを自覚しておいて」

「……分かってます。真の意味でエースになって、舞泉ちゃんにも奥州大付属にもリベンジしてみます」


 私は太腿の横で両の拳を固く握り、優築さんの目を見て宣言する。優築さんは優しく笑ってくれた。


「その言葉が聞けて嬉しいわ。応援してる」

「ありがとうございます。頑張ります!」


 刹那、優築さんの瞳が微妙に潤ったように見えたのは気のせいだろうか。それを確認する間もなく、優築さんが前を向いて颯爽と歩き出す。泣き顔を見せたくなかったのかもしれない。私はそんなことを考えながら、慌てて優築さんの後を追う。


 一時的に止んでいた雨が、再び物静かに降り始めた。



See you next base……

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