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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十章 ここに立つ理由
159/223

157th BASE

お読みいただきありがとうございます。


祥と舞泉の対決は舞泉に軍配が上がり、奥州大付属に勝ち越し点が入りました。

ここから更に追い打ちを掛けてくるので、亀ヶ崎には何とか食い止めてほしいですね。

「ご苦労だった。……済まなかったな」

「……いえ、すみませんでした」


 帰ってきた祥を隆浯が労る。祥はただ謝るしかなかった。


「くそっ……」


 あまりの情けなさに、祥は自分への苛立ちを示す。珍しく感情を抑えられず、ベンチにグラブを叩き付けようとしたが、真裕が既のところで腕を掴んで止める。


「祥ちゃん止めて」

「……あ。ごめん」

「悔しいのは分かるけど、物に当たるのは駄目だよ。それにまだ試合は終わってない。最後まで見届けよう」

「うん……。ありがとう」


 祥は真裕と共にベンチの前方で立つ。心の中でチームメイトへの申し訳なさが渦巻いているが、かといって試合から目を背けてはいけない。逆転を信じて声を出す。それが今の彼女がするべきことだ。


《亀ヶ崎高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、笠ヶ原さんに代わりまして、波多さん》


 場内アナウンスを背に、美輝が投球練習を行う。昨日五イニング投げた疲れは当然癒えておらず、肩が重たく感じられる。それでもマウンドに上がったからには抑えなければならない。


(疲れがどうとか言っていられない。勝っても負けてもこれが最後。これまでの全てを懸けて投げ切る!)


 奥州大付属の打順は六番に回り、右打者の柴田(しばた)が今日初めての打席に立つ。彼女は負傷した中村に代わってサードに入っていた。


 もう一点もやれない亀ヶ崎内野陣は、前進守備を敷いて守る。その初球、優築はストレートのサインを出すと、アウトコースにミットを構える。


(最初の相手が柴田で良かった。美輝も緊急の登板になるけど、これで少しでも慣らすことができたら。ボールになっても構わないから、とにかく思い切り腕を振って)

(了解)


 美輝が一球目を投じる。同時に一塁ランナーが二塁へスタートを切った。


 投球は狙いよりもやや外に行ったが、ストライクとなる。捕球した優築は偽投するだけに留めた。送球が少しでも逸れたり重盗を仕掛けられたりすれば、点を失うリスクが非常に大きい。そのため無理にはアウトを取りにいかない。


(この盗塁は想定内。ここからホームインさせなければ良い。美輝もコントロールは定まっているようだし、多少球威が落ちていても、私のリードでカバーしてみせる)


 二球目、優築はインコースへのシュートを要求する。詰まらせてゴロを打たせようという考えだ。

 その狙いは見事に奏功する。ストレートと思ってスイングした柴田はバットの根元で打つことになり、サードへ弱いゴロが転がる。


「オーライ」


 この打球を杏玖が冷静に捌く。三塁ランナーの舞泉を三本間で挟み、最後は美輝がタッチする。その間に平松が三塁、柴田は二塁まで進み、結果的には状況変わらずにアウトだけが増える。


「ナイサード。やっぱ上手いね」

「ありがとう。そっちもナイピッチ。同じ感じであと二つアウト取ろう」

「おっけ。しっかり守ってよ」


 杏玖と美輝が言葉を交わす。二人とも口ぶりは平静を保っており、このピンチでも浮き足立ってはいない。自分たちのできることを落ち着いて行おうとしている。


《七番キャッチャー、瀬古さん》


 続いて打席に入るのは瀬古。初球、美輝が外角に投じたカットボールを打つも、一塁側へのファールとなる。


 二球目が外れた後の三球目、美輝は瀬古の膝元に直球を投げる。これにも瀬古はバットに当てたが、今度は三塁線の外に打球が転がる。あっという間にバッテリーが追い込んだ。


(ここであの球が決まれば、三振を狙える。美輝、いける?)

(もちろん。大丈夫に決まってるでしょ)


 四球目のサインはすぐに決まった。美輝は少し間を取ってから投球モーションに入り、真ん中低めを目掛けて右腕を振る。

 投球は勢い良く打者に向かって直進するように見えながら、ベースの手前で減速して沈んでいく。瀬古はその変化に対応できず、出したバットは空を切る。


「スイング、バッターアウト」


 美輝の決め球、姉譲りのチェンジアップが炸裂。瀬古を空振り三振に仕留め、ツーアウトまで漕ぎ着けた。


「ナイスボール! あと一個です!」


 ベンチから祥が声を張り上げ、美輝を盛り立てる。ピンチを切り抜け二点差で踏み止まれば、流れはもう一度亀ヶ崎に傾くかもしれない。


《八番、瀧本さんに代わりまして、バッター、下軒(しものき)さん》


 ここで奥州大付属は代打として、小柄な左打者の下軒を打席に送る。瀧本の投球内容は安定感があり、九回裏も続投させて良いが、それ以上にリードを広げておきたいと考えたようだ。


(左だからって気にすることはない。これまで通り投げるだけだ)


 一球目、美輝はアウトハイにストレートを投じる。ほぼ狙ったコースに投げられたが、球審にはボールと判定される。


(ちょっと高いか。背が低いだけに高低が厳しくなるな)


 二球目もストレートを続ける。今度は少し高さを修正し、ストライクを取った。


 三球目は一転してカットボールでインコースを突く。内に変化した分ややストライクゾーンからは外れる。


 ここまで下軒は一度も振っていないどころか、打ちにいく素振りもほとんど見せていない。積極的にヒットを狙うというよりは、じっくり球を見ている印象だ。それは目の前で見ている優築も感じている。


(もしかしたら勝負は次の折戸で考えてるのかもしれない。となると下軒は、フォアボールでも何でも良いから塁に出てほしいというところか。いずれにせよ、まずはカウントを整えないと)


 四球目、バッテリーは再び外角の直球でストライクを取りにいこうとする。しかし美輝の投球は思ったよりも低めに行ってしまい、ボールとなる。


「くっ……」


 投げた瞬間から苦い顔をしていた美輝。下軒にはどうにも投げにくさを感じているみたいだ。


 それでも美輝は五球目でストライクを取る。真ん中低めのカットボールを使い、スリーボールツーストライクとする。これも下軒はスイングしなかった。


(最後はどうしようか。あの球を使いたいけど、下軒にあまり打つ気が無いなら見極められる可能性がある。それなら……)


 優築が六球目のサインを出す。頷いた美輝はセットポジションに就き、足を上げて投球動作を起こす。

 美輝が投じたのは外へ逃げるシュートだった。下軒は初めて反応を見せ、スイングしようとする。ところが変化球だと分かったところで咄嗟にバットを止めた。


「ボール、フォア」

「振った!」


 優築がハーフスイングを主張するも、判定は変わらない。美輝は下軒を歩かせてしまい、ツーアウト満塁で折戸を迎える。



See you next base……

WORD FILE.9:ランダウン(挟殺)プレー


 タッチプレーが必要な状況下では、ランナーは塁上でアウトにならない、若しくは野手にタッチされないよう、塁間を行ったり来たりして逃げることがある。そのランナーを野手が追い掛け、他の野手と挟撃するような形になることをランダウン(挟殺)プレーと呼ぶ。

 ランダウンプレーの最中はインプレーとなるため、他のランナーも進塁若しくは帰塁が可能となる。ただし同じ塁上に二人のランナーが重なった場合、先を進むランナーに優先権が発生する。

 一方の守備側には高い連携力が求められる。少しでもミスをすれば余計な進塁や得点を許してしまうこともあり、日々の練習の成果が試されるプレーだと言える。

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