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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十章 ここに立つ理由
156/223

154th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今日はホワイトデーですね。

亀ヶ崎の選手たちも、バレンタインにチョコの交換とかしているのでしょうか。


 八回裏、亀ヶ崎はランナーを出せずにツーアウトを取られる。打順は九番に回り、ゆりが真裕に代わる代打として打席に立つ。


(やっぱり代えるのか……。正直ちょっと疑問はあるけど、監督が決めたことだから私にはどうしようもない。ブルペンの様子を見るに、次は祥で行くみたいね)


 優築は急ぎ足でベンチに帰る。九回表に向け、少しでも祥の状態を把握したかった。

 真裕の交代に驚いたのは味方だけではない。ライトにいる舞泉もゆりが代打で出てきたのを見て、目を丸くする。


(ええっ!? 交代させるの? それじゃあもう、真裕ちゃんと対戦できないじゃん。あれで終わりなんて悲し過ぎるよ……。せっかく次の回に打席が回ってくるのに)


 舞泉は前の打席で二塁打を放っているが、本人からすれば飛んだコースが良かっただけ。あれでは勝負に勝ったとは言えず、満足できる結果は得られていない。故に真裕が降板することに強いフラストレーションを感じる。


(真裕ちゃんはそんなんで良いわけ? 意地でも最後まで投げようっていう気持ちは無いの? そういう甘さは、去年から変わってないんだね……)


 どれだけ嘆いても、真裕が交代する事実は変わらない。舞泉はいじけた子どものように口を尖らせながら、ゆりの打席に目を向ける。


 ゆりへの初球、瀧本の投げたストレートが外角高めに来る。果敢に打って出るゆりだが、球威に押された打球は一塁側スタンドへ消えていく。


(真裕の代打で出てるんだから、絶対に打たなきゃ。ツーアウトでもランナーが一人出れば、ムードはガラッと変わるはずだ)


 二球目は低めのスライダー。ボールゾーンへと縦に沈む変化を見せる。ゆりは豪快なスイングで披露するも、空振りを喫する。


(ボール球を振っちゃった……。でも切り替えないと。次の球がすぐ来るよ)


 物怖じせず積極的にバットを振っていく姿勢が持ち味のゆりだが、それが裏目に出てしまっている。奥州大付属バッテリーとしても、ここは長打さえ避けられれば良いという配球をしてくる場面。今のようなボールになる球も躊躇い無く使ってくる。ゆりにはやや分が悪い。


 三球目、瀧本はアウトローにストレートを投げ込む。これもボール気味だったが、追い込まれているゆりは手を出さざるを得ない。打球は一塁ベンチの上に直撃するファールとなる。


(まだストライク一つ分のチャンスはある。落ち着け)


 ゆりは打席を外し、目を閉じて深呼吸を行う。すると緊張で体が震えていることに気付いた。


(……ちょっと自分にプレッシャー掛けすぎてたかも。打たなきゃいけないなんて思うな。しっかりバットを振って、ボールを捉えることだけを考えろ)


 もう一度深く呼吸するゆり。ほんの少しだけ身体の震えが和らぐ。


「ありがとうございます」


 ゆりは球審にお礼を言ってから打席に戻る。バットを構える姿は、さっきまでよりも若干だがどっしりしている。


 四球目。二球目と同じように、低めのスライダーが来る。ゆりは反応こそするも、冷静に見極めた。


(お、何となくボールが見えるようになった気がする。これなら打てるかも)


 僅かながら希望が差し込んだか。五球目、瀧本はスライダーを投じてくるも、高めに浮く。ゆりにとっては絶好球が来た。

 ゆりはフルスイングで打ち返す。レフト線上に大飛球が上がる。


「おお!?」


 亀ヶ崎ベンチだけでなく、球場全体がどよめきに包まれる。ホームランになれば勝利が決まるが、果たして――。


 レフトの坂口がフェンス際で足を止める。打球は彼女の差し出したグラブに、すっぽりと収まった。


「ああ……」


 一塁側スタンド及びベンチから大きな溜息が零れる。目を見張るゆりのバッティングだったが、フェンスを越えることはできず。追い込まれていたことで微妙にスイングが鈍り、会心の一撃には半歩及ばなかった。


「祥、行こうか」

「……は、はい。優築さん」


 チェンジとなり、亀ヶ崎の投手は祥へと交代する。彼女がベンチを出る直前、真裕は一言エールを送る。


「祥ちゃん、後は任せるね。祥ちゃんならできるよ」

「う、うん。ありがとう……」


 祥はぎこちなく微笑み、小走りでマウンドに上がる。心臓はこれまでに感じたことがない速さで鼓動を打っていた。


(結局投げることになっちゃった。監督はどうして私を選んだんだろう。美輝さんも春歌もいるのに……)


 投球練習の前にロジンバックを触ってみるが、指に粉末が付く感覚が全く分からない。それほどまでに祥の身体は緊張に呑み込まれている。


(……とにかく投げなくちゃ。ここに立ってる以上、私が投げなきゃ試合は進まない)


 祥は投球練習を始める。しかしワンバウンドしたり高めにすっぽ抜けたりと、制球が定まらない。その様子をベンチで見ていた舞泉は、呆れを通り越して怒りすら覚える。


(真裕ちゃんの後に出てきたピッチャーなのに、こんなにも酷いの? ……ふざけてる。腹が立つよ。もうこんな試合は終わりだ。私が終わらせてやる!)


 九回表。奥州大付属の攻撃は、先ほどゆりのフライを掴んだ二番の坂口から始まる。祥は恐々としながら優築のサインを伺う。


(祥の調子ははっきり言って最悪に近い。こんなきつい場面で登板させられる状態じゃない。とりあえずストライクを取ることだけを考えよう)


 初球はストレート。優築はひとまず真ん中外寄りにミットを構える。祥はそれを目掛け、懸命に左腕を振る。


「ボール」


 投球は構えよりもかなり外側に行ってしまった。当然ストライクゾーンからは大きく外れている。


「祥ちゃん、リラックスだよ! いつも通りやればできるから!」


 真裕がベンチから声援を飛ばす。今の彼女にはもう、こうして味方を鼓舞することしかできない。


(……分かってる。分かってるよ。私だっていつも通りやってるつもりなんだ。けど体が思うように動かないんだよ)


 祥は両肩を回して緊張を解そうとするが、効果は無い。どうして良いか分からないまま、次の投球に移る。


「ボール」


 二球目もストライクは入らない。今度は低めに叩きつける。


(このままフォアボールを出すのは絶対に駄目だ。次はストライクを投げないと)


 三球目。祥は腕の振りを弱め、真ん中付近に直球を投じる。ストライクではあるが、球威が無いので打者に打ってくださいと言わんばかりの投球となる。


 坂口も見逃すはずがなかった。シャープなスイングで弾き返した打球は、祥の股下を抜けていく。


「あっ……」


 センター前へのヒット。祥はノーアウトから、勝ち越しのランナーを許してしまった。



See you next base……


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