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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十章 ここに立つ理由
150/223

148th BASE

お読みいただきありがとうございます。


決勝戦は終盤に入って一気に白熱してきましたね。

ここで遂に得点が入るのでしょうか?

 両チーム無得点で迎えた七回表、ワンナウトからランナーの舞泉が三盗を成功させる。その後、六番の中村がライトのファールゾーンへフライを打ち上げる。


「オーライ」


 紗愛蘭は前進守備の定位置からほぼ真横に走り、余裕を持って落下点に入れそうだ。舞泉がタッチアップできるかどうかは微妙な距離になる。


「紗愛蘭ちゃん、捕れ!」


 真裕が紗愛蘭に捕球するよう促す。その傍ら、優築はどちらにすべきなのか迷っていた。


(本当に捕って良いのか? 紗愛蘭が捕れば小山は確実に突っ込んでくるぞ。だけどあの子の肩なら刺せる気もする。……どうするべきだ?)


 おそらく優築が指示すれば、紗愛蘭は打球を捕らずに見送るだろう。だがそれが正しいのかどうかの自信が持てない。優築が悩んでいる間にも、打球は紗愛蘭の元に落ちてくる。


(……ここは紗愛蘭に任せるか。あの子が刺せると思ったら捕ってもらって、すぐにバックホームさせる)


 優築は紗愛蘭に判断を委ねた。その紗愛蘭はというと、落下点から少し後ろに下がり、助走を付ける素振りを見せる。


(捕る? なら私は走るよ)


 ハーフウェイまで出ていた舞泉が一旦帰塁する。ここは多少無理してでも本塁に突入して良い場面だ。


「紗愛蘭、これ捕るよね?」

「ええ、おそらく。それだけホームで殺す自信があるのよ」


 スタンドで応援している風や晴香ら卒業生は、固唾を飲んで見守る。もちろん紗愛蘭の強肩は知っているものの、不安に思う部分もある。


(……紗愛蘭は捕る。来るなら来なさい!)


 優築はバックホームに備える。時を同じくして、紗愛蘭が打球をキャッチした。


「バックホーム!!」


 舞泉が三塁からタッチアップする。優築の叫びがグラウンドに轟き、それに導かれるように紗愛蘭は本塁へ投じる。

 その送球はまさにレーザービーム。一直線に優築へ向かって進み、ワンバウンドで届きそうだ。


(よし。このタイミングならアウトだ!)


 優築は円滑にタッチを行うため、しゃがんだ体勢で捕球しようとする。舞泉からベースまではまだそこそこの距離があり、送球が達する方が間違いなく早い。


 ところが送球のバウンドは予想以上に大きく跳ねた。優築は立ち上がって捕らざるを得なくなり、その分タッチも遅れる。


(もらった!)


 この隙に舞泉は足から滑り込んだ。彼女の右の爪先が、ホームベースの角に触れる。


「セーフ!」


 優築のタッチは追い付かず、舞泉が生還する。遂に試合が動いた。先に点を挙げたのは、奥州大付属だ。


「やったー! よく走ったぞ舞泉!」


 奥州大付属ベンチのメンバーが総出で舞泉を迎える。喜びのあまり抱き着く者もいた。


 対する亀ヶ崎ナイン。スコア上ではたった一点で取られただけだが、それが何点にも感じられる。中でも優築は自分の不手際が失点を招いたと、自責の念に苛まれる。


(やってしまった……。スライダーがあることを考えたら、追い込みさえすれば私たちが圧倒的に有利だった。危険を冒してまで紗愛蘭の肩に賭ける必要は無かった。なのに何故止めなかったんだ)


 優築は中村を三振に仕留められるよう配球を組み立てていた。四球目をファールにして追い込んでおけば、五球目のスライダーでプラン通り三振を奪いにいくこともできたはずだ。もちろん必ず上手くいくとは限らないが、扇の要としては何かしらの判断を下さなければならなかった。普段の彼女なら当たり前のようにやっていることである。


 だが今回はできなかった。紗愛蘭に任せてしまった。理由は簡単。舞泉に盗塁を許したことで優築は少なからず動揺し、そこで焦りが生まれたから。そのため早く終わらせられるかもしれない、一気に二つのアウトを取れるかもしれないという“あわよくば”に(すが)ったのだ。


 その結果、奥州大付属に先制点を献上。優築は責任を感じずにはいられない。


「……築さん、優築さん」

「え?」


 暫くホームベースを見つめ、自問自答を続けていた優築だったが、誰かから名前を呼ばれて我に返る。目の前には真裕が立っている。


「優築さん、ボールください」

「……あ、ああ、ごめんなさい」


 優築は持っていたボールを真裕に渡す。すると真裕はうっすらと柔らかな笑みを浮かべて言った。


「点は取られちゃいましたけど、まだ一点です。この後を抑えれば、最終回で逆転できます。前を向きましょう」

「……そ、それもそうね。反省は後にする」

「はい! そうしましょう」


 真裕は小走りでマウンドへ戻っていく。その背中を優築は頼もしそうに見送りつつ、深い呼吸をする。


(真裕の言う通りだ。まだ何も終わってないし、私たちには勝つためにするべきことがある。試合途中でくよくよするなんて柄じゃないだろ)


 どれだけの苦難に直面しようとも、心が揺らぐ出来事があったとしても、どっしり構えていなければならない。それがキャッチャーであり、優築は如何なる時もその心得を全うしてきた。だからこの場面も、これまで積み重ねてきたことを実践するしかないのだ。


「ツーアウト! もう点はやらないよ。ここで切って裏の攻撃に繋げよう!」


 優築は声を張り上げて仲間を鼓舞し、マスクを被り直す。そうして今一度、扇の要としての使命に臨む。


《七番キャッチャー、瀬古さん》


 打席には瀬古が入る。初球、真裕はカーブを投じる。


「ストライク」


 外角低めに決まった。瀬古は全くと言って良いほど動きの無いまま見逃す。


(この反応は真っ直ぐを待ってるな。ランナーもいないし、大きいのを狙ってるのかも。でもそれはさせない。もう一球カーブでストライクを取りましょう)

(分かりました。……時は戻せない。先に点を与えた事実は変わらない。なら私は、今やれることをやるしかないんだ)


 サイン交換を終え、真裕は二球目を投じる。カーブが初球と同じようなコースを通り、優築のミットに収まる。


「ストライクツー」


 これも瀬古は手を出さない。優築が感じた通り、直球系統を狙っていたようだ。


(追い込めた。ただここは三振しても良い場面。ツーストライクでも真っ直ぐに合わせて思い切り振ってくるかもしれない。ならこれで行こう)


 優築はボールになるツーシームを要求する。頷いた真裕は、早いテンポで三球目を投げる。

 投球は真ん中低めのボールゾーンに沈んでいく。瀬古はフルスイングで応戦するも、バットの芯で捉えることはできない。


「サード」


 弱いゴロが杏玖の正面に転がる。彼女は軽やかな足取りで前に出ると、難なく捌いた。


 これでスリーアウト。奥州大付属が一点をリードし、七回裏の亀ヶ崎の攻撃に移る。



See you next base……

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