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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十章 ここに立つ理由
148/223

146th BASE

お読みいただきありがとうございます。


真裕と舞泉の対戦は書いている方としてもドキドキしてしまいます。

今回は真裕が宝刀のスライダーを使い、三振を奪ったようです!

 七回表、舞泉を先頭打者として迎えた真裕は、ツーボールツーストライクのカウントからスライダーを投じる。舞泉はスイングしていったが、ボールはホームベースの奥でバウンドし、優築が前に弾く。


「やった!」


 真裕の後ろで守っていた野手の何人かが、三振と思って喜ぶ。ところが当の真裕は険しい表情をしたままだ。


「ファール、ファール」


 球審が咄嗟に両手を上げる。空振りではなく、微かにボールはバットに当たっていたようだ。


 決着は付かず。カウントが変わらぬまま、仕切り直しとなる。


(予想以上に曲がったな。その前に一球も見せられてなかったら空振りしてたかもね。……やっぱり真裕ちゃんは凄いよ)

(あれを当てるのか……。やっぱり舞泉ちゃんは凄い。でも負ける訳にはいかないんだ)


 ()るか殺られるかの、両者譲れぬ戦い。球場では他の選手や応援団などの様々な声援が飛び交っているが、真裕と舞泉の耳にはほとんど聞こえていない。それほど二人はこの対戦に全神経を注いでいる。


(真裕のボールはとても良かった。今ので空振りを取れないとなると、球種を変えた方が良いかもしれない。外角の真っ直ぐなら小山の反応も遅れるはず)


 キャッチャーの優築は次の球種をストレートに切り替えようとする。だがサインを出す直前で、動かしかけた指を止めた。


(……いや、違う。私たちが一年間やってきたことを考えたら、ここはスライダーにするべきだ)


 優築はサインを改める。要求したのは真ん中低めへのスライダー。もちろん真裕が首を振ることはない。


(舞泉ちゃんはほんとに凄い。でも私のスライダーはもっと凄い自信がある。……だから、打てるものなら打ってみろ!)


 真裕は渾身の力を振り絞り、六球目を投じる。外寄りコースから、スライダーが内角低めに向かって切れ良く曲がる。


(変化が大きいけど、このコースならバットに当てられる。今度こそ捉える!)


 舞泉はアッパー気味のスイングで、ボールをバットに乗せる。それから()ち上げるようにしてフォロースルーを取った。


「レフト!」


 高いフライがレフト線上に上がる。しかしバットの芯からは外れて打っており、それほど伸びは無い。


(これでも捉えられないのか。くそっ……)


 舞泉は臍を噛む。勝負としては真裕の勝ち。だが打球の飛んだコースを考えると、逢依が追い付けるかは微妙だ。ひょっとしたらヒットになるかもしれない。


(ちょっと待ってよ。何でこんな時にこんな打球が飛んでくるの。でも捕るしかない!)


 逢依は懸命に落下点へ向かって走る。アウトにできればビックプレーだが、突っ込めば後ろに逸らして長打にしてしまう危険もある。


「逢依、無理するな! 一個で止めろ!」


 杏玖が静止しようと叫ぶも、逢依には届かなった。逢依はスライディングしながらダイレクトでの捕球を試みる。


「フェア!」


 無情にも、打球は差し出されたグラブの手前に弾んだ。しかもバウンドが大きく、逢依の頭上を越えてファールゾーンを点々とする。


「しまった……」


 逢依は急いで方向転換し、打球を追う。その間に舞泉は一塁を蹴った。


「ボールサード!」

「逢依、ボールサードだよ! 京子は中継に入って!」

「はい!」


 優築の指示を受け、杏玖は逢依と京子の動きを誘導する。幸いさほどボールは転がらず、フェンスよりも前で逢依は追い付く。


(三塁行けるか? ……いや、ここは止めておこう)


 舞泉は二塁をオーバーランしてストップ。三塁をも伺う姿勢を見せるが、ノーアウトなので無茶はしない。


 思わぬ形で舞泉のツーベースが飛び出した。ただ会心のバッティングではなかったからか、スタンドの歓声はそれほど大きくない。疎らな拍手が起こるに留まる。


(とりあえずバットに当てられた……という感じかな。偶々打球が良いところに落ちただけだ。これじゃとてもじゃないけど、勝ったなんて言えないよ)

(いくら当たりが悪いと言っても、ヒットはヒット。空振りさせにいって取れなかったわけだから、私の負けだ。絶対打たせないつもりだったのに……)


 舞泉も真裕も共に浮かない表情をしている。非常に濃い内容の対決だっただけに、この結果は何とも味気無さを感じさせる。


 ともあれ奥州大付属にチャンスが訪れた。亀ヶ崎は守りのタイムを取り、内野陣がマウンドに集まる。


「バッターは五番だけど、送ってくる確率はかなり高いよね」


 杏玖の言葉に皆が賛同する。一点勝負のこの展開では、体裁など構わない策を講じてきてもおかしくはない。寧ろそれが当たり前とも言えよう。


「ひとまず送りバントをしてきたら、処理は優築、真裕、珠音の三人に任せるで良い?」

「ええ、そのつもり」

「はい、大丈夫です」

「おっけーだよ」

「よし。じゃあ私と愛はベースカバー、京子はランナーを引き付ける役目で行こう。もちろんバント以外にも対応できるようにしておいてね」


 亀ヶ崎の思惑としては、ランナーを進ませずにアウトを増やしたい。しかしバントと決め付けてシフトを敷くにはリスクが大きく、できる範囲で対処するしかない。


「仮にバントを決められてランナーが三塁に行ったら、内野も外野も前進させることになるけど、バッテリーはどういう配球で行くか考えはある?」

「そうなったら三振を取りに行く。私たちにはスライダーがあるしね」


 杏玖の問いかけに優築が答える。真裕も同調して小刻みに頷く。


「了解。そりゃ三振に取れるならそれに越したことはないよね。ならバックは前に飛ばされた時に精一杯守るよ。全員で集中して、一点もやらずに凌ごう!」

「おー!」


 タイムが解け、選手がそれぞれのポジションに戻る。一点も与えられないという重圧は尋常ではないが、このピンチを乗り越えれば優勝の二文字が確実に見えてくる。


《五番ショート、平松さん》


 打席に立った平松は普通に打つ素振りをしている。今大会で彼女に送りバントは記録されていないが、二回戦で一度だけ企てる場面はあった。その時は一球目をファールにし、後からヒッティングに切り替えている。


(打席へ入る前にベンチを確認してたし、何かしらのサインは出ているはず。初球は様子を見よう)


 優築は外角ボールゾーンへのストレートを要求する。承諾した真裕が投球動作を起こすと、平松はバントの構えに入った。亀ヶ崎ナインの想定通りだ。しかし投球がボールだったため、平松はバットを引いて見送る。


(やっぱり送ってくるか。当然次の球で変更する可能性もあるけど、ひとまずこれでこっちの動きも決めやすくなった)


 優築は珠音を手招きし、前に出てくるよう促す。バントが珠音の元に転がれば、三塁で刺すつもりだ。


 二球目はアウトローへのツーシーム。今度はストライクだったため、平松はバントする。


「ピッチャー」


 平松が転がしたのは三塁側。だが少し角度を付け過ぎ、真裕が捕る前にファールラインを割る。


(まずは一回失敗させられた。これで平松には相当なプレッシャーが掛かるはず。外に意識は行きつつあるだろうし、逆側の球で差し込む)


 三球目、優築はインコースにミットを構える。平松の不意を突こうということだ。

 真裕がセットポジションから足を上げるのに合わせ、平松は一球目と変わらずバントの構えを作る。真裕の投じた直球が、平松の懐付近に向かって進む。


「わっ!」


 案の定、平松はびっくりした顔をする。腰を反ったような体勢で行ったバントは、小フライとなった。



See you next base……


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