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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十章 ここに立つ理由
147/223

145th BASE

お読みいただきありがとうございます。


最近甘いものを控えたことで、2キロ痩せました(喜)


 六回裏の亀ヶ崎の攻撃。ワンナウトから真裕がヒットで出塁し、打順は三周目に入る。


《一番ショート、陽田さん》


 今日の京子は二打席凡退。続く二番の洋子、三番の紗愛蘭も出塁できておらず、打線が繋がらない一因となっている。


(真裕がストレートを打ったんだ。ウチも続くぞ)


 初球は真ん中へのカーブ。京子は構わずスイングしていったが、空振りを喫する。


(カーブで入ってきたか。けどスイングはこんな感じで良い。中途半端に振ってちゃ飛んでいかない)


 二球目もカーブが続く。今度は明らかなボールだったため、京子は落ち着いて見送る。


(またカーブじゃん。ウチがストレートを張ってるのバレてるのかな……。でも狙いは変えない。カーブだってそう何球も続けられないでしょ)


 三球目、またもや戸川が投げてきたのはカーブだった。しかし高めに大きく浮き、二球連続でボールとなる。


(やっぱりカーブはストレートよりも制球は良くない。ボール先行になったし、次はカウントを整えにくるんじゃないかな?)


 京子の予想は当たるのか。果たして四球目、戸川の右腕から放たれた投球は、アウトローへ直進する。


(ストレートだ! 来た!)


 やや振り遅れながらも、しっかりとバットの芯で捉える京子。三遊間に痛烈なライナーを飛ばす。


「おし!」


 京子は確かな手応えを感じながら走り出す。これでランナー一、二塁とチャンスが広がる。


「オーライ!」


 ……と思われた刹那、なんとサードの織田が横っ跳びで打球をキャッチした。これでツーアウト。更にはランナーの真裕も飛び出してしまっており、送球が一塁に渡ってスリーアウトとなる。


「ああ……」


 京子と真裕、加えて亀ヶ崎ベンチの面々が一斉に溜息を漏らす。京子の見事な流し打ちは織田の好守に阻まれ、一瞬にしてチャンスは潰えた。


「はいはい皆、このくらいで気落ちしてちゃ駄目だよ! 次の回を守り切って、サヨナラにしよう!」


 チームの雰囲気は一時的に暗くなりかけたが、一人の選手がそれを振り払うように声を上げ、一塁側ベンチをいの一番に飛び出してきた。杏玖である。主将として、どんな時も仲間たちが士気を保っていられるよう、彼女は常に熱量高く振る舞う。


「へい珠音! カモン!」


 杏玖は一塁の珠音にボールを転がしてくるよう要求する。だが呼んだ先に珠音の姿は無く、彼女はまだベンチを出たばかりだった。


「ちょっと待ってよ杏玖。流石に早すぎるって。こっちは打席の準備もしてたんだから」

「あらら、ごめんごめん」


 頭の後ろに手を当て、苦々しく笑う杏玖。少しばかり早とちりしてしまったが、彼女のおかげでチームのムードは再浮上する。


「どんまい真裕。これ飲んで」

「あ、菜々花ちゃん。ありがとう。いただきます」


 一旦ベンチに戻った真裕は、菜々花からコップ一杯の水分を受け取る。それを一気に飲み干すと、渇いた喉元が爽快感で潤された。


「ぷはあ……。美味い!」

「ふふっ、気持ち良い飲みっぷりだね。真裕も京子も良い当たりしてたし、次の攻撃できっと捕まえられるよ。だからこの回をきっちり抑えて、サヨナラ勝ちと行こう」

「うん。頑張る」


 真裕が菜々花にコップを返す。それと入れ替わりでグラブを貰い、彼女は敢然とマウンドへ走っていく。


《七回表、奥州大学付属高校の攻撃は、四番ライト、小山さん》


 スタンドが本日三度目の大歓声に包まれる。舞泉が先頭打者として左打席に入った。

 ここまでの成績はセカンドゴロと四球。舞泉のバットから快音は響いていない。ただこの三打席目の緊張感は、前の二打席とは比べ物にならない。そしてこうした場面でこそ、舞泉は功名の一打を放ってきた。


(今度は真裕ちゃんも正面から勝負してくるでしょ。打たせてもらうよ)

(ここが踏ん張りどころだ。舞泉ちゃんを抑えればこっちに流れが来る。絶対に打たせないよ)


 試合の行方を決するかもしれない第三ラウンド。初球、真裕はアウトローにカーブを投じる。


「ストライク」


 際どいコースだったが、球審の手が上がった。舞泉は見送った後、澄ました顔で小刻みに頷く。


(今日は今みたいなカーブを上手に使ってるなあ。決め球にスライダーがあるから、こっちはカウント稼ぐのに持っていけるよね。次は内に速い球かな? 甘く入ったら打つよ)


 二球目はインコースのストレート。舞泉の読み通りだが、真裕もそれは承知している。打たれることのないボールゾーンに投げ込む。


「おっと……」


 腰を引いて避ける舞泉。すると彼女は真裕に鋭い眼差しを送った。一方の真裕も舞泉から視線を逸らさない。


(良いねえ真裕ちゃん。そういうのどんどん頂戴!)

(舞泉ちゃんを抑えるためにはこれくらいやらないといけない。悪く思わないでね)


 互いの闘志は漲るばかり。三球目、真裕は内角へのツーシームを投じる。


「ボール」


 横の変化でストライクゾーンに捻じ込もうという狙いだったが、僅かに外れた。初球から一転、投手不利のカウントとなる。


 ストライクを取りたい四球目、真裕の投球は真ん中へ行く。もちろん舞泉は打ちに出る。


(むむっ!? これは……)


 一見すると失投のようにも思えるが、舞泉がスイングを始めたところで内角に向けて滑っていく。バットは風の音を響かせながら空を切った。


(……今の、スライダーだったよね。このタイミングで投げてくるとは)


 珍しく舞泉は虚を衝かれたのが表情に出る。これが彼女に対する初めてのスライダー。真裕は決め球ではなく、追い込むために投げてきたのだ。


(でもスライダーを見せちゃって良いの? ……と言いたいところだけど、多分真裕ちゃんはもう一つ上のスライダーを持ってる。最後はそれで来るんでしょ)

(分かっていても打たれないスライダー。それは舞泉ちゃんが相手でも変わらない。次の一球で三振を奪う)


 勝負を決する五球目。真裕はゆっくりと振りかぶり、心と体を調和させてから投球モーションに入る。

 彼女の右腕から投じられたスライダーは、前の球と同じく最初は真ん中付近を進む。それから打席の少し手前で、舞泉の方へと食い込んできた。


(ここからどれくらい曲がる? さっきよりも傾斜はきついはず)


 舞泉は終着点を予測し、腕を畳んでスイングする。しかし捉えることはできず、ボールはホームベースの奥でワンバウンド。優築がプロテクターで止めて前に弾いた。



See you next base……


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