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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十章 ここに立つ理由
145/223

143rd BASE

《六回表、奥州大学付属高校の攻撃は、九番セカンド、折戸さん》


 この回は九番の折戸から始まる。彼女は活きの良い声と共に左打席に立った。


「お願いします!」


 一年生ではあるが、小柄な体の中に計り知れないパンチ力を秘めている。第一打席でその片鱗を見せられた亀ヶ崎バッテリーは、慎重に配球を組み立てざるを得ない。

 初球は真ん中から落ちるカーブで入った。折戸は風を起こそうかという勢いでスイングするも、空振りを喫する。


(バットに当たればどんな打球が飛ぶか分からない。でもそんなにミート力は高くないだろうし、真裕の変化球の精度なら当てさせないこともできる)


 優築は二球目もカーブのサインを続ける。真裕は初球とほぼ同じコースに投げ込んだ。


「スイング」


 折戸は再びバットを振っていったが、捉えることはできない。この打席もあっさり追い込まれる。


(さっきは三球勝負に行って失敗した。ここはじっくり、段取りを整えてから抑える)

(はい。そうしましょう)


 三球目、バッテリーは直球でインハイを攻める。これにも折戸は打ちにいこうとする。


「おわっ!?」


 だがバットを振り出す寸前で危険を察知し、体を反対に回転させて避けた。この反射神経の良さも、潜在能力の高さを感じさせる。


「ひえー……。怖かった」


 折戸は口を(すぼ)めて目を見開く。本人は驚いているものの、こうした厳しい攻めをしてくるのは相手が嫌がっている証拠。力を買われているということだ。


(これで少しは踏み込み辛くなったでしょう。外角の真っ直ぐで空振りさせる)

(分かりました)


 四球目、真裕はアウトロー一杯を目掛けてストレートを投じる。優築の構えたミットがほとんど動かない、素晴らしいボールだ。


「えや!」


 折戸はもちろん手を出す。ただ三球目の影響か、それまでよりも若干腰の入りが甘いスイングとなる。


「スイング、バッターアウト」


 バットが虚しく空を切る。空振り三振。緩急のコンビネーションで翻弄し、真裕が一打席目の悔しさを晴らす。優築の巧みなリードも光った。


(緩い球にはまだまだ脆い部分があるようね。これで考え込んでくれれば良いけど、多分そういう性格ではなさそう。もし次があるようなら、また配球を練り直さないと)


 優築は今からある折戸の三打席目に備えておく。抑えはしたものの、嫌な存在であることに変わりはない。


「あーあ、三振しちゃった……」


 折戸は分かりやすく肩を落とし、しょんぼりとして打席を後にする。二本目のヒットを狙っていたが、ここは真裕に格の違いを見せつけられた。


「どんまい折り姫。真裕ちゃんに捻られちゃったね」

「ほんとですよお。カーブも当たる気しませんでした。でもやられっ放しは嫌なんで、次は打ったりますよ!」


 声を掛けてきた舞泉に、折戸は高らかにリベンジ宣言をする。既に気持ちは前を向いているようだ。


《一番サード、織田さん》


 奥州大付属は三巡目に入る。打席に立つのは織田。先ほどはチャンスでヒット性の打球を飛ばしたものの、杏玖のジャンピングキャッチに阻まれてしまった。


(最初の打席は膝元の真っ直ぐ、前の打席はカーブから入ってきた。となると今回は外のコースからかな)


 初球、織田は外角の速い球を予測する。ところが真裕が投げてきたのはカーブだった。


「ストライク」


 織田は見送るしかない。読みが外れ、思わず唇を噛む。


(またカーブからかよ。……まさか次もカーブとかじゃないよね?)


 二球目、真裕の投球はアウトコースへの直球。織田はバットが出せず見逃す。しかし判定はボールだ。


(危ねえ……。ボールで良かった)

(ボールにはなったけど、織田はタイミングが取れていない。この隙にさっさと追い込んでしまおう。そうすればこっちにはスライダーがある)


 三球目、優築は内角にミットを構えた。真裕はそこにツーシームを投じる。


(うわっ! 真っ直ぐだ!)


 織田は咄嗟の反応で手を出す。直球だと思ってスイングしたため、バットの根元で打たされた。


「ピッチャー!」


 打ったのかバントしたのか分からないような弱いゴロが、一塁線沿いを転がる。真裕は慌ててマウンドを降り、捕球に向かう。


「真裕、急げ!」


 ファーストの珠音が呼ぶ中、真裕は素手でボールを拾って一塁へ投げる。だが体勢が良くないため強い送球はできない。織田の足も速く、タイミングは際どい。


「セーフ!」


 間一髪で勝ったのは織田だった。当たり損ないが却って幸いし、内野安打が記録される。


「へへっ、ラッキー」


 織田は塁上で照れ臭そうに笑う。配球の読み合いでは完全に負けていても、こうしてヒットになることがあるのだから奇妙なものだ。


「真裕、切り替えて。ナイスボールだったよ。何も気にすることはないから」

「はい。次を抑えます」


 片やバッテリーはショックだろう。しかし二人とも引き摺ることはせず、気を取り直して次打者の坂口と対峙する。


《二番ライト、坂口さん》


 打席に入るや否や、坂口はバントの構えを見せた。ツーアウトにしてでもランナーを二塁に進めたいということか。


(あれよあれよという間にもう六回。形振(なりふ)り構わず点を取りにきてもおかしくないし、奥州大付属からすれば次の小野と小山には大いに期待できるはず。この作戦は何ら不思議じゃないか)


 初球、優築は真裕に低めのカーブを投げさせる。坂口は一塁方向にバントする。


「ファール」


 上手く勢いを殺して転がしたが、僅かに切れた。打席に戻った坂口はまたもバントの姿勢を作る。


(やっぱりバントしてきたか。バスターに切り替える可能性も有り得るけど、だったらそれがしにくい球で差し込む。もし送りバントが成功されても、二つ目のアウトが取れるならこっちとしても悪くない)


 二球目、優築の出したサインはインローの真っ直ぐ。だが真裕の投球はアウトコースに行ってしまった。坂口は一球目よりも内側を狙って転がす。


「オーライ」


 これも真裕が処理する。一瞬二塁に送球しようかという素振りを見せるも、最終的には一塁へ投じる。


「アウト」


 送りバントが成功。ツーアウトながらランナーを二塁に置き、奥州大付属はクリーンナップにチャンスを託す。



See you next base……


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