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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十章 ここに立つ理由
144/223

142nd BASE

そうめんお読みいただきありがとうございます。


一年生にして真裕からヒットを放った、“折り姫”こと折戸。

ご褒美として、彼女が彦星を探すスピンオフが出るかもしれませんね(出ない)。

 両チーム無得点で迎えた三回表。真裕は二本のヒットを許し、ワンナウトランナー一、三塁のピンチを招く。


《一番サード、織田さん》


 打席には織田が入る。亀ヶ崎の内野陣はゲッツーシフトを敷き、一気にチェンジを狙う。


 初球、バッテリーは外角のカーブでストライクを取る。織田は不意を衝かれたか、バットを出さない。


(カーブから入れたのは大きい。これで織田には迷いが出るはず)


 二球目、優築は続けてカーブを要求する。真裕の投球は真ん中から弧を描いて低めに落ち、織田の中途半端なスイングを誘う。


「振った!」


 真裕と優築は瞬時にハーフスイングの判定を仰ぐ。一塁塁審は右手を突き上げ、スイングを取った。


「えー。振ってないよ……」


 納得いかない織田は渋い表情をするが、もちろん判定は変わらない。カーブだけでツーストライクを取れたため、バッテリーとすればこの後の配球を幅広く考えられる。


「ナイスボール! どんどん打たせていこう。私たちが守るよ!」


 サードからは杏玖が声を上げて盛り立てる。自分の不用意なプレーでピンチを招いただけに、何とかカバーしたかった。


(私が最初のゴロを捌いていれば、真裕はもっと楽に投げられたはず。ここは私がアウトを取ってやる!)


 杏玖は念を送って打球を呼び込む。三球目、アウトハイのストレートを、織田が一塁方向にカットする。


 四球目は低めにツーシームが外れた。追い込まれている織田だが、それほど焦りは見られず、一球一球冷静に対処している。


(亀ヶ崎からしたら、一番良いのは私を併殺に仕留めること。でも前に転がれば得点のリスクが生じる。柳瀬にはスライダーがあるわけだし、三振を取りにくるんじゃないか?)

(ゲッツーが取れれば最高だけど、ここでまず大事なのは点を与えないこと。確実にランナーを還さず、アウトを一個増やしたい)


 五球目、優築の出したサインはスライダー。織田の予想通り三振を奪いにきたのだ。

 サインに頷いた真裕は、一塁ランナーの動きを確認してからセットポジションに就く。項に汗を光らせながら足を上げ、右腕を振る。


 真ん中やや外寄りのコースからスライダーが曲がっていく。織田はボールになるかどうか判断できなかったため、打ちに出た。


(ゴロにはしない。どうにか拾って打球を上げるんだ)


 織田はバットを上面にボールを乗せ、掬い上げるようなスイングをする。少々強引な打ち方だが、思惑通り打球は三塁線上へのフライとなる。


「サード!」


 杏玖の頭上を越えれば一点が入る。決して高く上がったわけではないものの、グラブを伸ばして届くかは微妙だ


(ほんとに飛んできた。 絶対に捕る!)


 自分の不始末は自分で片を付ける。杏玖は少し屈んでから飛び上がり、打球を掴む。


「おっとっと……」


 思った以上に高く飛べてしまい、若干躓きそうになる杏玖。しかし何度か片足でステップすることでバランスを整えた。更にはその間に三塁ベースも踏み、飛び出していたランナーもアウトにする。


「アウト! チェンジ」

「よっしゃ!」


 汚名返上のファインプレー。杏玖は嬉しそうにグラブを掲げる。考えていた形ではなかったものの、結果的には織田をダブルプレーに切ってピンチを脱した。


「杏玖さんナイス! 流石です!」

「いやいや、真裕がしっかり投げてくれたからだよ。でもありがとう」


 杏玖は真裕とグラブでハイタッチを交わし、ベンチへ引き上げていく。その際にもう一度スタンドを確認しようと目を動かしかけたが、すぐに元に戻した。


(……あの人は必ず来てくれる。だから私は信じて待っていよう。無様な姿を見せるのだけは嫌だからね)


 来てくれた時により良い展開になっているように。杏玖は逸る思いをぐっと堪え、試合に集中する。


「良いバッティングだったよ折り姫。やったったね。グラブどうぞ」

「ありがとうございます。えへっ!」


 ランナーから戻ってきた折戸に、舞泉がグラブを渡す。折戸は花を咲かせるような笑顔を見せる。


「真裕ちゃんの球はどうだった?」

「そうですねえ……。真っ直ぐは手元でギュイって伸びてくるし、変化球はキュキュって曲がるんでびっくりしました! でも打ったので私の勝ちですよね。次からもどんどん打ちます!」


 舞泉の質問に折戸が興奮気味に答える。舞泉はうっすらと目を細め、折戸の頭を二度三度優しく撫でた。


「それは頼もしいね。期待してるよ」

「わーい! 舞泉さんに頼りにされるなんてめちゃんこ嬉しいです!」


 跳ねるような足取りで、折戸はセカンドの守備位置に駆けていく。舞泉もそれを追ってライトへ向かう。


(真裕ちゃんからヒット打つの、折り姫に先越されちゃったなあ。私も次こそは打つよ)


 折戸の実力は舞泉も認める。二打席目以降も亀ヶ崎にとって脅威となるに違いない。


 三回裏の亀ヶ崎はランナーを出せずに攻撃を終えた。続く四回表、真裕が二番の坂口、三番の小野を危なげなく打ち取る。


《四番ライト、小山さん》


 ツーアウトとなり、舞泉の第二打席を迎える。観客からの拍手は変わらず大きく、皆彼女の一打に期待を寄せているようだ。


「ボール、フォア」


 ところが結果は四球。真裕が長打を警戒して際どいコースに投じ、中々ストライクが来なかった。


(ちぇっ……。フォアボールって一番つまんないじゃん)


 舞泉は残念そうな顔をしてバットを置き、小走りで一塁へ行く。スタンドからも小さな溜息のようなものが溢れる。

 対する真裕は全く動じず、飄々(ひょうひょう)としていた。この先の展望を考えれば納得の四球である。


(これで良い。一本出されて調子付かれたら大変なことになる。舞泉ちゃんには二連続でごめんねだけど、全力で勝負しなきゃいけない時が後で絶対に来るから)


 真裕は沈着に次の平松への投球を行う。ワンボールワンストライクからの三球目、低めのツーシームを引っ掛けさせる。


「サード」


 三遊間に平凡なゴロが転がった。今度は杏玖がしっかり捌き、スリーアウト目を取る。


「ナイスピッチ。小山とは勝負したかったでしょうけど、今はこれで良かったと思う」

「はい。勝負はまだまだありますからね」


 真裕は優築と微笑を交わしてマウンドを降りていく。舞泉との第二ラウンドはドローに終わったが、後続をしっかり抑えた。


 その後も無得点のイニングが続く。膠着状態の中、試合は六回に入る。



See you next base……

PLAYERFILE.30:折戸姫香(おりと・ひめか)

学年:高校一年生

誕生日:7/7

投/打:右/左

守備位置:二塁手

身長/体重:148/45

好きな食べ物:

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