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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第十章 ここに立つ理由
142/223

140th BASE

お読みいただきありがとうございます。


以前も触れたかもしれませんが、ほとんどのキャラクターには何らかの由来があります。

今回の舞泉に関する由来にお気づきの方はいるでしょうか?


《四番ライト、小山さん》


 その名前が一度コールされれば、スタンドからは大歓声が沸く。令和の“怪物”、小山舞泉が決勝の第一打席に立つ。

 昨夏は真裕に対して二打数一安打。更に三打席目では空からツーベースを放ち、サヨナラのホームを踏んでいる。


(去年はほとんどの点に舞泉ちゃんが絡んでる。だから今年は一本も打たせない)

(ふふっ……、真裕ちゃんとの対決はワクワクするね。今年は三本くらい打たせてもらうよ。じゃなきゃ私がここにいる意味が無いからね)


 この二人の対決が勝敗の行方を左右するのは間違いない。先手を取るのはどちらか。


 初球、真裕は舞泉の胸元にストレートを投じる。舞泉はやや後ろに仰け反りながら見送る。まずは厳しいボール球から入った。


(何々? 挨拶代わりの一球ってことかな? でもそれくらいやってくれた方が面白いし、どんどん来い!)


 舞泉に怯んだ様子は全く無い。寧ろ楽しんでいる。


(この一球でどうにかなるとは思ってない。こういうのを続けていって、少しずつ崩していくんだ。そうしないと舞泉ちゃんは抑えられない)


 二球目、真裕は外角低めにツーシームを投げ込む。舞泉が見送ってストライクとなる。


 三球目は再びインコースへのストレート。舞泉は打って出る。


「ファール」


 引っ張ったライナーがライトに飛んでいく。しかしフェアゾーンからは大きく外れ、フェンスに当たって一塁側プルペンの後ろを転々とする。


(ちょっとタイミングが早かったなあ。打ちたくて気持ちが前に行っちゃった)

(一打席目から真っ直ぐをあれだけ引っ張られるのか。もちろん力勝負で勝つつもりはないけど、ちょっと凹むよね)


 今の一球で真裕がツーストライクを取ったが、精神的には舞泉が優位に立っているか。 


 ただ真裕も向かっていく姿勢は崩さない。四球目は直球で膝元を突く。


「おっと……」


 舞泉は両足を引いて避けた。これでツーボールツーストライクとなる。


(さてさて、カウントも良い感じだし、スライダーは来るのかな? 早く見たいよ)

(舞泉ちゃんならここでスライダーを待つはず。私も勝負したいけど、試合に勝つためにはまだ使うべきじゃない)


 真裕が優築からのサインに頷く。五球目、彼女はアウトローに沈むカーブを投じる。

 舞泉は少しタイミングを外され、体が前に出る。右手一本で打つ形になりながらも、バットの芯で捉えて二遊間にハーフライナーを飛ばした。


「ショート!」

「オーライ」


 しかし外野までは抜けない。京子が小走りで掴んでアウトにする。


(スライダーじゃなくてカーブだったかあ。けど良いコース決まってたし、カットしなきゃだったけど打たされちゃった)


 一塁に到達する前に走る速度を緩めた舞泉は、マウンドの真裕を一瞥してからベンチに引き返す。一方の真裕も無意識に舞泉のこと追っていた。


(ごめんね。期待に応えられなくて。でも打たせるわけにはいかないから。スライダーはいざという時まで取っておくよ)


 最初の対戦は真裕に軍配。これを弾みにピッチングにも勢いが増す。


《五番ショート、平松(ひらまつ)さん》


 右打席に五番の平松が入る。昨夏は最終回に代打で出場したのみだったが、三年生になった今年はレギュラーを勝ち取った。


 真裕はテンポ良く二球で追い込む。一球ボールを挟んだ後の四球目、外角のツーシームを平松が流し打つ。


「セカン」


 セカンド真正面へのゴロ。愛が難なく処理し、ツーアウトとなる。


「キャッチャー」


 真裕は続く六番の中村(なかむら)も打ち取った。二球目でキャッチャーへのファールフライに仕留める。


 この回も真裕はランナーを許さず、落ち着いた様子でマウンドを後にする。こうなると奥州大付属も打ち崩すのに苦労しそうだ。


《二回裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、四番ファースト、紅峰さん》


 奥州大付属と同じく、亀ヶ崎も二回は四番からの攻撃となる。打席には珠音が入った。

 昨夏の準決勝は五番打者として出場。一時は勝ち越しとなるタイムリーを放っている。加えてその試合で珠音自身が勝利への貪欲さに目覚め、一人の選手としても大きく飛躍するきっかけとなった。


(あの日感じた喜びが、悔しさが、私を成長させてくれた。そしてここで勝てば、私は更なる高みへ(のぼ)れるはずだ)


 珠音は初球から打ちに出る。真ん中やや内寄りのストレートを、力負けせずセンター方向に弾き返す。

 打球は低いライナーとなった。あっという間にセカンドの左を抜け、センターの中村の前に落ちる。この試合を通じての初ヒットが生まれる。


《五番サード、外羽さん》


 続いて打順は杏玖に回る。彼女は打席に入る前に一塁側スタンドに目をやり、父親が来ているかどうかを確認する。


(……お、いたいた。また一人で座ってるじゃん)


 杏玖の父親は他の保護者たちから離れ、スタンド上部にひっそり座っていた。無愛想で人付き合いの苦手な父親らしいと、杏玖は苦笑しつつもほっこりした心情になる。ただし彼女が探していたのは父親だけではない。


(……あっちはまだ来てないみたいだね)


 一転して寂しそうな表情を浮かべる杏玖。咄嗟に気持ちを切り替え、ベンチのサインを伺う。


(真裕は良い調子で投げてる。こっちが一点でも先に取っておけば、相手にはかなりのダメージを与えられるはずだ)


 隆浯は送りバントを指示する。杏玖は最初から構えず、打つ体勢で投球を待つ。一球目、戸川は高めに投じる。バントを試みる杏玖だったが、後方に打ち上げてしまった。


(やばっ……)


 杏玖は一瞬肝を冷やすも、キャッチャーが追い付けずファール。仕切り直しとなる。


 二球目もサインは変わらず。連続でストレートが来たが、一球目よりも低く幾分かバントはしやすい。杏玖はバットの芯に近い部分に当てて転がす。


「ピッチ! セカン行けるよ!」


 球威があった分、マウンド右への強めのバントとなった。捕球した戸川は二塁方面に振り向く。ところがボールが手に付かず、投げる直前でジャッグルしてしまう。


「あ……」

「落ち着け! 一塁で良い」

「わ、分かった」


 ファーストの小野の声に従い、戸川は二塁を諦めて一塁でアウトを取る。二塁送球がスムーズに行われていれば危なかったが、ひとまず送りバント成功。ラッキーも重なって亀ヶ崎が得点圏にランナーを置く。


(あの人は? ……やっぱりいないか)


 杏玖はベンチに戻る途中で、またもやスタンドを見る。気になって仕方が無い様子だ。それほど来てほしい人とは、一体誰なのだろうか。



See you next base……

PLAYERFILE.29:小山舞泉(こやま・まみ)

学年:高校二年生

誕生日:7/5

投/打:右/左

守備位置:外野手(投手)

身長/体重:171/65

好きな食べ物:クレープ(トリプルショコラチョコレート)

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