140th BASE
お読みいただきありがとうございます。
以前も触れたかもしれませんが、ほとんどのキャラクターには何らかの由来があります。
今回の舞泉に関する由来にお気づきの方はいるでしょうか?
《四番ライト、小山さん》
その名前が一度コールされれば、スタンドからは大歓声が沸く。令和の“怪物”、小山舞泉が決勝の第一打席に立つ。
昨夏は真裕に対して二打数一安打。更に三打席目では空からツーベースを放ち、サヨナラのホームを踏んでいる。
(去年はほとんどの点に舞泉ちゃんが絡んでる。だから今年は一本も打たせない)
(ふふっ……、真裕ちゃんとの対決はワクワクするね。今年は三本くらい打たせてもらうよ。じゃなきゃ私がここにいる意味が無いからね)
この二人の対決が勝敗の行方を左右するのは間違いない。先手を取るのはどちらか。
初球、真裕は舞泉の胸元にストレートを投じる。舞泉はやや後ろに仰け反りながら見送る。まずは厳しいボール球から入った。
(何々? 挨拶代わりの一球ってことかな? でもそれくらいやってくれた方が面白いし、どんどん来い!)
舞泉に怯んだ様子は全く無い。寧ろ楽しんでいる。
(この一球でどうにかなるとは思ってない。こういうのを続けていって、少しずつ崩していくんだ。そうしないと舞泉ちゃんは抑えられない)
二球目、真裕は外角低めにツーシームを投げ込む。舞泉が見送ってストライクとなる。
三球目は再びインコースへのストレート。舞泉は打って出る。
「ファール」
引っ張ったライナーがライトに飛んでいく。しかしフェアゾーンからは大きく外れ、フェンスに当たって一塁側プルペンの後ろを転々とする。
(ちょっとタイミングが早かったなあ。打ちたくて気持ちが前に行っちゃった)
(一打席目から真っ直ぐをあれだけ引っ張られるのか。もちろん力勝負で勝つつもりはないけど、ちょっと凹むよね)
今の一球で真裕がツーストライクを取ったが、精神的には舞泉が優位に立っているか。
ただ真裕も向かっていく姿勢は崩さない。四球目は直球で膝元を突く。
「おっと……」
舞泉は両足を引いて避けた。これでツーボールツーストライクとなる。
(さてさて、カウントも良い感じだし、スライダーは来るのかな? 早く見たいよ)
(舞泉ちゃんならここでスライダーを待つはず。私も勝負したいけど、試合に勝つためにはまだ使うべきじゃない)
真裕が優築からのサインに頷く。五球目、彼女はアウトローに沈むカーブを投じる。
舞泉は少しタイミングを外され、体が前に出る。右手一本で打つ形になりながらも、バットの芯で捉えて二遊間にハーフライナーを飛ばした。
「ショート!」
「オーライ」
しかし外野までは抜けない。京子が小走りで掴んでアウトにする。
(スライダーじゃなくてカーブだったかあ。けど良いコース決まってたし、カットしなきゃだったけど打たされちゃった)
一塁に到達する前に走る速度を緩めた舞泉は、マウンドの真裕を一瞥してからベンチに引き返す。一方の真裕も無意識に舞泉のこと追っていた。
(ごめんね。期待に応えられなくて。でも打たせるわけにはいかないから。スライダーはいざという時まで取っておくよ)
最初の対戦は真裕に軍配。これを弾みにピッチングにも勢いが増す。
《五番ショート、平松さん》
右打席に五番の平松が入る。昨夏は最終回に代打で出場したのみだったが、三年生になった今年はレギュラーを勝ち取った。
真裕はテンポ良く二球で追い込む。一球ボールを挟んだ後の四球目、外角のツーシームを平松が流し打つ。
「セカン」
セカンド真正面へのゴロ。愛が難なく処理し、ツーアウトとなる。
「キャッチャー」
真裕は続く六番の中村も打ち取った。二球目でキャッチャーへのファールフライに仕留める。
この回も真裕はランナーを許さず、落ち着いた様子でマウンドを後にする。こうなると奥州大付属も打ち崩すのに苦労しそうだ。
《二回裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、四番ファースト、紅峰さん》
奥州大付属と同じく、亀ヶ崎も二回は四番からの攻撃となる。打席には珠音が入った。
昨夏の準決勝は五番打者として出場。一時は勝ち越しとなるタイムリーを放っている。加えてその試合で珠音自身が勝利への貪欲さに目覚め、一人の選手としても大きく飛躍するきっかけとなった。
(あの日感じた喜びが、悔しさが、私を成長させてくれた。そしてここで勝てば、私は更なる高みへ上れるはずだ)
珠音は初球から打ちに出る。真ん中やや内寄りのストレートを、力負けせずセンター方向に弾き返す。
打球は低いライナーとなった。あっという間にセカンドの左を抜け、センターの中村の前に落ちる。この試合を通じての初ヒットが生まれる。
《五番サード、外羽さん》
続いて打順は杏玖に回る。彼女は打席に入る前に一塁側スタンドに目をやり、父親が来ているかどうかを確認する。
(……お、いたいた。また一人で座ってるじゃん)
杏玖の父親は他の保護者たちから離れ、スタンド上部にひっそり座っていた。無愛想で人付き合いの苦手な父親らしいと、杏玖は苦笑しつつもほっこりした心情になる。ただし彼女が探していたのは父親だけではない。
(……あっちはまだ来てないみたいだね)
一転して寂しそうな表情を浮かべる杏玖。咄嗟に気持ちを切り替え、ベンチのサインを伺う。
(真裕は良い調子で投げてる。こっちが一点でも先に取っておけば、相手にはかなりのダメージを与えられるはずだ)
隆浯は送りバントを指示する。杏玖は最初から構えず、打つ体勢で投球を待つ。一球目、戸川は高めに投じる。バントを試みる杏玖だったが、後方に打ち上げてしまった。
(やばっ……)
杏玖は一瞬肝を冷やすも、キャッチャーが追い付けずファール。仕切り直しとなる。
二球目もサインは変わらず。連続でストレートが来たが、一球目よりも低く幾分かバントはしやすい。杏玖はバットの芯に近い部分に当てて転がす。
「ピッチ! セカン行けるよ!」
球威があった分、マウンド右への強めのバントとなった。捕球した戸川は二塁方面に振り向く。ところがボールが手に付かず、投げる直前でジャッグルしてしまう。
「あ……」
「落ち着け! 一塁で良い」
「わ、分かった」
ファーストの小野の声に従い、戸川は二塁を諦めて一塁でアウトを取る。二塁送球がスムーズに行われていれば危なかったが、ひとまず送りバント成功。ラッキーも重なって亀ヶ崎が得点圏にランナーを置く。
(あの人は? ……やっぱりいないか)
杏玖はベンチに戻る途中で、またもやスタンドを見る。気になって仕方が無い様子だ。それほど来てほしい人とは、一体誰なのだろうか。
See you next base……
PLAYERFILE.29:小山舞泉(こやま・まみ)
学年:高校二年生
誕生日:7/5
投/打:右/左
守備位置:外野手(投手)
身長/体重:171/65
好きな食べ物:クレープ(トリプルショコラチョコレート)




