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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第九章 殻
138/223

136th BASE

お読みいただきありがとうございます。


以前も触れたかもしれませんが、ほとんどのキャラクターには何らかの由来があります。

今回の舞泉に関する由来にお気づきの方はいるでしょうか?


 準決勝第二試合の六回表。舞泉ちゃんのレーザービームが炸裂し、まさかのライトゴロで楽師館の五点目は阻止された。


「ナイス舞泉! 前からやりたいとは聞いてたけど、まじでやりやがったな!」

「ありがとうございます。ほんとにできるとは思いませんでした。えへへ」


 ベンチに帰った舞泉ちゃんはチームメイトから称えられ、嬉しそうに笑う。彼女は打球が前に落ちることを嫌がったのではなく、ライトゴロを狙うために前進守備をしていたのだ。これなら強引に突っ込まなかったのも頷ける。それだけ一塁で確実に刺せる自信があったのだろう。


「おほほー! 来た来た! これだよこれ! こういうプレー待ってたんだよ」


 舞泉ちゃんの第一打席で嘆いていた男性は、愉快気に声を上げる。この人だけではない。それまで停滞していた観客のボルテージが急上昇し、球場は今日一番の歓声に包まれる。


 これだ。これこそが舞泉ちゃんの怖いところだ。たった一つのプレーで、場の空気を一変させてしまう。どんな風に負けていようが関係無い。一瞬にして試合の流れは奥州大付属の方に引き寄せられた。


《六回裏、奥州大学付属高校の攻撃は、四番ライト、小山さん》


 再び起こった大歓声を背に受け、舞泉ちゃんが三打席目に立つ。ここで先頭打者として回ってくるところは、もはや野球の神様が予めシナリオを用意していたとしか思えない。


 そしてそのシナリオ通りに、舞泉ちゃんは打つのだ。二球目を痛烈に引っ張ると、一塁線をライナーで破っていく。


「中継までしっかり返せ! ホームに行かせるな!」


 ライトが少し処理をもたつく間に、舞泉ちゃんは三塁まで陥れる。久々に飛び出した長打。これまでの二打席、加えて今大会を通して低調だっただけに、活躍を待ち侘びていた観客の喜ぶ声も一層大きくなる。


 とは言っても、まだ楽師館が三点をリードしている。……などと思ってはいけない。球場は既に奥州大付属を応援するムードに染まり、もはや楽師館ナインはどんどん追い詰められていっている。これでは勝っている気分は全くしないだろう。


「大丈夫大丈夫! 勝ってるのはうちなんですから、焦らずいきましょう!」


 万里香ちゃんは屈しないよう必死に檄を飛ばすが、流れは奥州大付属に傾く一方だ。続く五番の平松(ひらまつ)さんが五球目をレフト前に運び、舞泉ちゃんを還す。

 これで二点差。舞泉ちゃんだけではなく、打線全体が目を覚ましたようだ。


 次の六番の立川(たてかわ)さんもヒットで繋ぐと、バントで送ってワンナウトランナー二、三塁。犠牲フライで一点を追加した後、代打で出てきた番場(ばんば)さんがライトへタイムリーを放つ。


「よーし。番ちゃんナイバッチ!」


 ベンチの舞泉ちゃんは番場さんとエアでハイタッチを交わし、とても楽しそうにしている。彼女のスリーベースから始まる猛攻で、奥州大付属はあっさりと三点差を追い付いた。


「アウト、チェンジ」


 それでも何とか楽師館は同点で食い止める。七回表はクリーンナップでの攻撃となるので、十分に勝機はある。


《奥州大学付属高校、選手の交代をお知らせします。代打いたしました番場さんに代わりまして、戸川(とがわ)さん》


 奥州大付属はピッチャーを交代。ただリリーフしたのは舞泉ちゃんではなかった。ここで出てこないということは、やはり何かしら投げられない、もしくは投げさせない事情があるのだ。


 代わってマウンドに上がった戸山さんは、ツーアウト二塁からライト前へのヒットを許す。またもや舞泉ちゃんのレーザービームを見られるかと興奮する観客もいたが、二塁ランナーが三塁で止まり、送球は中継に返されるだけだった。場面が場面だけに一か八かに賭けてみる価値もあると思うが、流石に六回表のあのプレーを目の当たりにしていては躊躇ってしまうだろう。


「サード」

「オーライ」


 力無く上がったフライを、サードの織田(おだ)さんが丁寧に掴む。一、三塁にまでチャンスを広げた楽師館だったが、後続が凡退して勝ち越し点を奪えず。結果的に舞泉ちゃんの強肩が抑止力となった。


 試合は七回裏に入る。奥州大付属は二番からの攻撃。先頭の織田さんはショートゴロに倒れたものの、ワンナウトから三番の小野さんが四球を選ぶ。一塁にランナーを置き、打順は四番の舞泉ちゃんに回る。


《四番ライト、小山さん》


 名前がコールされる前から、舞泉ちゃんには大声援が注がれる。皆がサヨナラの一打に期待を抱いていることは明らかだった。


 初球は低めのストレート。舞泉ちゃんは手を出さずストライクとなる。


 二球目はカーブだろうか、緩い球が外角に外れた。舞泉ちゃんは微動だにせず見送る。


「さあここで決めてやれ!」

「もう一本見せてくれよ!」


 沸き立つスタンドとは対照的に、打席内の舞泉ちゃんはとても静かだ。まるで獲物を仕留めに掛かる前のライオンのように、自分が打つべき一球を虎視眈々と持っている。


 三球目、その時は来た。臍の辺りに曲がってきた変化球を舞泉ちゃんは捉える。


「ライト!」


 鋭いライナーが右中間の真ん中を割る。そのままフェンスまで到達し、先に追い付いたライトがクッションボールを処理する。


「回れ回れ!」


 一塁ランナーは三塁を蹴った。外野からの送球は中継を介し、ホームに戻ってくる。私たちの試合でも起こったようなクロスプレーとなる。


「セーフ! セーフ!」


 キャッチャーがタッチする時には、ランナーがホームベースに触れていた。舞泉ちゃんのサヨナラタイムリーツーベースで、奥州大付属が逆転勝利を飾る。


「よくやったぞー! 最高じゃ!」


 先ほどの男性含め、観客から舞泉ちゃんに割れんばかりの拍手が送られる。舞泉ちゃんはグラウンドにあどけない笑顔を咲かせると、整列に来た仲間の輪に加わる。


「……やっぱり、勝っちゃったか」


 私は半ば呆然として言葉を漏らす。蘇る一年前の衝撃。こんな脚本みたいな展開があって良いのだろうか。


 結局、劣勢を覆したのも、勝利へ決めたのも舞泉ちゃんだった。あの“怪物”を倒さない限り、自分たちの優勝は無い。私はそれを改めて認識しながら、ゲームセットの挨拶を見届ける。


「五対四で奥州大学付属高校の勝利。礼!」

「ありがとうございました!」



See you next base……


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