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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第九章 殻
133/223

131st BASE

お読みいただきありがとうございます。


2020年も残り10日を切りました。

自分としてはまだまだ年末感は出ていませんが、2021年に向けて少しずつ気持ちを新たにしていこうかなと思います。


「おっしゃー! カキ、ナイスラン!」

「幸運のさんまヒット! バンザーイ!」


 喉から手が出るほど欲しかった二回以来の得点に、浦和明誠ベンチは喜びを爆発させる。対照的に亀ヶ崎のナインは、その多くが口を噤んで険しい顔付きになっている。


「うわ……。点取られちゃった」

「誤審された直後に失点って、流れ悪過ぎでしょ……」


 ベンチのメンバーも呆然とし、思わず不安気な言葉を漏らす。同点のチャンスを逃し、追加点を奪われる。敗色は濃くなる一方だ。


「まだだよ! まだ終わってない! 裏が残ってるんだし、前を向こう!」


 そんな空気を払拭するべく、主将の杏玖は声を張り上げる。どんな状況でも、彼女が「諦め」の二文字を思い浮かべることはない。


(……もちろんだとも。たかが二点差じゃないか。ここを踏ん張れば逆転してくれる)


 美輝の心も折れてはいない。杏玖の激励に応えようと、気持ちを切り替えて次の打者に望む。二塁ランナーの佐伊羅を還すわけにはいかない。


《六番レフト、那須さん》


 那須への初球、美輝は低めにストレートを投じる。那須が見送ってストライクとなる。


「良いよ美輝! どんどんストライク入れていこう!」


 セカンドの愛からも声が掛かる。諦めていないのは美輝や杏玖だけではない。グラウンドに立っている者全員が、自分たちの勝利を信じて懸命に顔を上げ続ける。


 二球目のカットボールが外れた後の三球目。美輝の投じたアウトローの直球を、那須は一二塁間に弾き返す。


「ファースト!」


 外野に抜けようかという鋭いゴロを、珠音がダイビングキャッチで掴む。彼女は素早く起き上がると、ベースカバーに入ってきた美輝と息を合わせて一塁に送球する。


「アウト。チェンジ」


 ヒットであればもう一点というところだったが、珠音のファインプレーで食い止めた。逆転への希望を残し、亀ヶ崎は最終回の攻撃に臨む。


「こんなところで終われないよ! 絶対に勝つんだ!」

「ルーあい、死んでも出ろ!」


 ベンチから飛ぶ檄は一層激しくなる。その傍らでは、八回表の守備に向けても動き出していた。


「真裕、準備してこい! 延長になったら行くぞ!」

「はい!」


 隆浯は真裕に肩を作るように指示を出す。彼らもまた、負けることなど考えていない。同点に追い付くことは大前提。もしもサヨナラにできなかったことを想定して次の手を打つのだ。


「……ねえ、春歌ちゃん」


 プルペンへと向かう直前、真裕は春歌に一言残していく。


「何ですか?」

「……勝つよ」


 真裕が発したのはその言葉のみ。しかし、春歌の耳には深く響く。


(真裕先輩の目、本気だった。自分の出番を信じて疑ってない。私にはできないことだ。というか、そもそもやろうとすらしているのか? ……これも、才能の差なのか?)


 春歌の喉元が急激に熱くなる。それは痛みすら伴い、彼女の中で(くすぶ)った感情を刺激する。


《七回の裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、六番レフト、琉垣さん》


 七回裏は下位打線の攻撃となるが、五回は彼らが中心となって二得点を挙げている。だから決して悲観することはない。寧ろ大いに期待できる。


 逢依への初球、伊調は外角の直球から入る。逢依は手を出さずストライクとなった。


(今のは少し甘かったか? けどスライダーが頭にあるとどうしても体の反応が付いていかないな。これでボールになるスライダーに手を出してたら相手の思う壷だし、それは避けないと)


 二球目はスライダー。真ん中近辺から膝元へと曲がっていく。予見していた逢依は悠々見送る。


「ストライクツー」

「えっ?」


 ところがまさかのストライク判定。思ったよりも変化が小さかったのだ。それだけ伊調のスライダーのキレが落ちているということだが、ひとまずここはバッテリーにとって有利に働く。


 三球目の直球は高めに外れる。続く四球目、伊調は再びスライダーを投じる。今度はボールゾーンへと沈んでいくも、追い込まれている立場の逢依は打ちにいかざるを得ない。


(届け……)


 三振しまいと食らい付く逢依。だが白球は、スイング軌道の下を潜り抜けていった。


「バッターアウト」


 先頭の逢依は三振に倒れる。亀ヶ崎に残されたアウトが、あと二つに減る。


「タイム」


 打順は七番の愛に回るが、ここでベンチが動く。二年生の西江(にしえ)ゆりが代打に送られた。


《七番、江岬さんに代わりまして、バッター西江さん》


 伊調の左右別の投球を考えれば、左打者に代えて右打者を当てる采配は至極真っ当である。しかし愛は三年生。この緊迫した最終盤で下級生に代えられるのは、相当ショックなことだ。もしかすると、彼女の高校野球はこれで終了かもしれない。


「……ゆり、頼むぞ! 私の分も打て!」


 だが愛は下を向くことなく声援を送り続ける。それがチームの勝利に繋がると信じているから……。


(えみあい先輩、どうしてあんなに声が出せるんだろう。こんなところで下げられて、絶対に悔しいはずなのに。……これも勝つためにすべきこと?)


 愛のような姿勢は、今の春歌にはない。それをどう捉えるか。果たして春歌は、このまま何もできず仕舞いで良いのだろうか。


「お願いします!」


 ゆりは元気な挨拶と共に打席に入った。愛のためにもチームのためにも、必ず結果を出したい。


(三年生、特に愛さんの夏をここで最後にするわけにはいかない。私だって負けるのは嫌だ。ここまで来たら優勝したいじゃん)


 一球目、伊調の投球は低めに来る。ゆりは果敢に手を出していつたが、伊調が投じたのはスライダー。バットは虚しく空を切る。


「良いよ良いよ! どんどん振っていけ!」


 まんまと空振りを喫してしまったものの、代打として積極的に打ちにいく心構えは非常に大切だ。愛もベンチから前向きな言葉を送って励ます。


(さっきのが噂のスライダーか。初見だとストレートだって思っちゃうな。でもスイング自体は悪くなかった。なんたって代打は、三回振ってなんぼだからね)


 ゆりも決して退くことはしない。次からもどんどんバットを振っていくつもりだ。


 二球目、伊調はスライダーを続けた。初球と同じコースを狙ったものの、イメージ通りに指先に引っ掛けられず抜け気味の投球となってしまう。


(お、抜け球!)


 ゆりは高めから落ちてくるポイントに合わせてフルスイング。バットの芯で捉えたライナーが、二遊間を襲う。


「ショート!」


 打球はグラブを伸ばした柿原の右を抜ける。そのまま勢い良く左中間を裂き、長打コースに飛んでいく。


(やった! ツーベースいける!)


 ゆりは一塁を蹴った。外野からの返球が中継で止められたため、彼女は立ったまま二塁に到達する。


「おっしゃあ! ナイスゆり」


 愛がベンチから突き上げた拳に、ゆりは笑顔を弾けさせて応える。愛の想いを力に変え、逆転への道を切り拓いた。



See you next base……

伊調’s DATA


ストレート(最高球速109km:常時球速100~105km)

★スライダー(球速90~95km)

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