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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第九章 殻
132/223

130th BASE

お読みいただきありがとうございます。


まさかの形で同点ならずでしたね……。

しかしスポーツのジャッジが人の目で行われている以上、こうしたことは必ず起こり得ることです。

亀ヶ崎の選手たちは気にしないことも納得することもできないでしょうが、何とか前を向いてもらいたいです。


「杏玖さんがあんなに怒るなんて……。こっからははっきり見えなかったけど、やっぱり落ちてたのかな」

「まじかよ。せっかくめっちゃ良い感じだったのに。審判のせいで負けるなんてふざけてるでしょ……」


 反撃ムードに水を差す判定に、ベンチのメンバーも不服を唱える。四点差を付けられた時のような重たい空気が、再びチームを覆う。


「うーん……。こればっかりはなあ……」


 真裕は何とも言えないといった様子で唇を結う。彼女自身もストライク、ボールの判定で助けられたと思うことがあるので、審判のことを悪く言うのは憚られる。

 また、隣にいた春歌も何も言わずに黙り込んでいた。彼女は判定が正しいかどうかではなく、自分たちが終始追い掛ける立場にあるという苦しい流れが、誤審めいたものを引き寄せたと感じていた。


(もしも私たちがリードしていたら、あるいは同点だったら、きっと普通にフェアのジャッジがされてたかもしれない。私が四点も取られなければ……)


 いくら追い上げてきているといっても、初回からずっとビハインドを背負うのは、予想以上に個々の体力も精神力も削られる。その中でのこの一件は相当堪えたに違いない。

 ただあと一歩のところまで浦和明誠を追い詰めているのも事実。もうひと踏ん張りなのだ。そのもうひと踏ん張りをするために、七回表の美輝の投球が鍵となる。


(同点だろうが一点差だろうが私には関係無い。どんな状況でも、相手に点を与えないってことは変わらないんだから)


 浦和明誠の攻撃は二番の梨本から。初球、美輝は外角にカットボールを投げる。


「ストライク」


 二球目も美輝は同じ球を続けた。梨本はやや強引に引っ張る。


「サード!」


 三遊間に速いゴロが転がる。ヒットになるかとも思われたが、反応良く一歩目を踏み出した杏玖が半身の体勢でキャッチし、一塁へ鋭い送球を投じる。


「良いね! ナイサード」

「うん。そっちもナイスピッチング」


 一塁塁審のアウトのコールを聞き、杏玖は美輝と笑顔で言葉を交わす。本音を言えばまだ(わだかま)りはある。だが今は違うことに集中すべき時間。隆浯に諭された通り、勝ちへの熱い想いは守備に活かす。


(ここもゼロで凌げれば、きっと野球の神様は私たちにチャンスをくれる。そのためにもここは我慢だ)


 続いて打席に入るのは三番の柿原。一球目、美輝が低めにストレートを投げ込むと、柿原はピッチャー返しで応戦する。


「あっ!」


 打球は美輝の股下を潜り、あっという間にセンターへと抜けていった。今日初めての安打で柿原が出塁する。


「ヒットは全然良いよ。ゲッツー取ろう」

「了解。打たせるから頼んだよ」


 再び美輝と杏玖が声を掛け合う。ランナーが出たからと焦る必要は無い。じっくり確実に、無失点に抑えられれば良いのだ。


《四番サード、安納さん》


 安納も四打席目を迎える。一球目、美輝がインコースに投じたシュートに、安納のバットが空を切る。


 二球目は外角低めのカットボール。安納はあまり踏み込まずに見送る。判定はボールだ。


(試合を決めたいという思いが強いのか、かなり引っ張りたそうな気持ちが垣間見える。美輝の制球も安定してるし、これなら打たれる気はしない)


 三球目。優築はアウトコースの直球を要求する。美輝の投球に対して安納は打ちにいったが、またもやバットには当てられない。スイングを終えた彼女の体はレフト方向に大きく開がっていた。


(よし。向こうの気が変わらない内にこのボールで仕留める。……美輝、いけるよね?)

(もちろんだよ)


 優築のサインに力強く頷き、美輝が四球目を投じる。真っ直ぐ進んでいるように見せかけて、最後は深い海に沈むように減速する。姉譲りのチェンジアップだ。


「スイング。バッターアウト」


 安納は三度(みたび)空振りを喫する。最後は片膝を地面に付く無様な格好となってしまった。


「おし」


 一方の美輝は軽くグラブを叩く。これでツーアウト。五イニング目の投球だが、全く疲れは感じられない。


(今日はビハインドの展開だからかもしれないけど、前よりも楽に投げられてる気がする。さて、あと一人も気を抜かず打ち取る)


 打席に五番の佐伊羅が入る。その初球、美輝の投じたストレートが外角高めに行く。


「ファール」


 佐伊羅が打って出るも、打球は一塁側のスタンドに消えていく。美輝の球威が佐伊羅のスイングを押し込んだ。


 二球目もストレート。今度はインコースを抉った。こちらはボールとなったが、佐伊羅の見送り方は差し込まれている。


(ここに来て真っ直ぐのスピードが上がってないか? ……いや、流石にそんなことはないはず。だとしたら私のタイミングが遅れてるのか)


 佐伊羅もどう打つべきか迷っているようだ。その様子を優築は見逃さない。


(美輝に代わってからはどの打者にも力負けしてない。あの浦和明誠をここまで封じ込んでるのは本当に凄い)


 ワンボールワンストライクからの三球目。美輝は真ん中やや外寄りの低めへと投球を行う。佐伊羅は右中間方向へ打ち返すことを意識してスイングする。

 しかし球種はストレートではなくカットボールだった。バットの芯から微妙に外れた打球は、スライス回転の掛かったフライとなってファーストの珠音の上を越えていく。


「ライト!」


 紗愛蘭が真横に走って追い掛けるも、打球はライト線上に落ちた。しかも弾んだ後は彼女から逃げるようにして転がり、ファールゾーンのフェンスに当たる。


 一塁ランナーの柿原は二塁を蹴って三塁に向かう。優築はアウトにできないと考え、佐伊羅を二塁に進ませないような指示を出そうとする。


(二塁打にはさせない。紗愛蘭の肩ならダイレクトで……あっ!)


 ところが次の瞬間、亀ヶ崎に悲劇が襲う。クッションボールが紗愛蘭の予想とは違う方向に跳ね、後逸するような形になったのだ。


「……まずい! バックホーム! 早く!」


 優築は本塁への返球に指示を切り替えた。案の定、柿原は快足を飛ばして三塁を回る。

 急いで紗愛蘭がボールを拾い、中継の珠音を介して優築に渡る。珠音の送球は若干一塁ベンチ側に逸れ、優築のタッチにタイムロスが生じる。


「セーフ!」


 その間に柿原の足がホームベースに触れた。佐伊羅のタイムリーツーベースで、浦和明誠に五点目が入る。


 亀ヶ崎にとっては痛恨の失点。不運も重なり、点差は二点に広がってしまった。



See you next base……

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