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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第九章 殻
129/223

127th BASE

お読みいただきありがとうございます。


白熱の準決勝!

しかし本当に熱くなるのはここからです!


《六回裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、一番ショート、陽田さん》


 試合の流れは亀ヶ崎に傾いている。ただし残された攻撃はあと二イニング。一番から始まる好打順を、必ず活かしたい。


(美輝さんはスライダーにきりきり舞いだった。ウチにも間違いなく投げてくる。振らされないように気を付けないと)


 京子への初球、やはりと言ったところか、伊調はスライダーを投げてくる。初動はストレートと同じように真っ直ぐ進むが、ベースの手前で突如曲がり出す。

 打者としては当然、手を出してはいけないことは分かっている。しかしスイングを始めていないと打てないタイミングで変化するので、バットを振らないわけにいかないのだ。京子も例に漏れず空振りする。


(こんなに凄いスライダーがあるのか……。予め映像で確認してたけど、そこで想像したものより何倍もえげつないな)


 二球目もスライダー。これはキャッチャーも捕れないほどアウトコースに外れてしまった。それでも京子のバットは若干動きかける。


 三球目は直球が来た。外角の甘いコースだったが、スライダーの残像に邪魔されて京子は反応できない。


「ストライクツー」


 伊調は四球目もストレートを続ける。コースはアウトロー。京子は何とかカットした。


(真っ直ぐもスライダーも追いかけないといけないのはかなり厳しいな……。でもウチが出られれば、向こうにプレッシャーが与えられる)


 どんな形で出塁したい京子。五球目、再び伊調はスライダーを投じてきた。京子は必死に付いていこうと、変化の軌道に合わせてバットを振る。


「スイング、バッターアウト!」

「くっ……」


 だが虚しくも空振りとなってしまい、京子は肩を落として打席を後にする。美輝と全く同じやられ方で三振を喫した。それだけ伊調の投球は、左打者にとって攻略のしようがないのだ。


《二番センター、増川さん》


 ならば右打者はどうか。打席に洋子が立つ。


 初球、伊調は膝元へのストレートから入ってきた。洋子はほとんどバットを動かさずに見送り、ストライクとなる。


(ビデオで見た限りだと、右打者にもスライダーが軸になるのは変わらない。でもきっと左打者よりは見やすいはず……)


 二球目、そのスライダーが来た。真ん中低めからインコースに変化する軌道に対し、洋子のバットは出かかる。


「ボール」

「振ってる! ハーフスイング!」


 すぐさま佐伊羅が一塁球審にアピールするも、スイングは認められず。ボールの判定は変わらない。


(見送れはしたけど、どうしても反応しちゃうな。あと少しでハーフスイング取られるところだった)


 右打者の洋子にとっても、スライダーを完璧に見極めるのは難しそうだ。続く三球目も、伊調はそのスライダーを投げる。先ほどより高めに来たこともあり、またも洋子は手を出しかけてしまう。


「……え?」


 ところが投球は内に曲がり過ぎ、洋子の右の太ももに直撃。洋子はスイングの途中で膝から倒れ込む。


「ヒットバイピッチ」


 球審が一塁を指さす。これに対しても佐伊羅はスイングを主張したが、バットが回る前に死球になっていたと判断される。


「痛た……」

「大丈夫ですか、洋子さん?」


 次打者の紗愛蘭が心配して駆け寄る。だが洋子はゆっくりと立ち上がり、左足を軽く揺らして痛みの度合いを確認する。


「大丈夫。跡は付いてそうだけど。それより塁に出られたし、続いてよ」


 洋子は仄かに口角を持ち上げてから一塁に走っていく。思わぬ形であるが、とにかくランナーが出た。この後のクリーンナップでチャンスを広げ、是が非でも得点に繋げたい。


《三番ライト、踽々莉さん》


 打席に紗愛蘭が入る。左打者の彼女だが、伊調のスライダーにどう対応するのか。


 一球目、伊調はこれまでと配球を変えず、スライダーから入ってきた。紗愛蘭も予想できていたものの、美輝たちと同様にスイングしてしまう。


(うーん……。変化するって頭では分かってるんだけど、どうしても体が反応しちゃうなあ。初見で手を出さないようにするには、最初からバットを振らないって決めてかからない限り無理だ。それができないなら打つことを考えるしかない)


 二球目もスライダー。紗愛蘭は初球と同じような形で空振りを喫する。スイングの反動で落ちたヘルメットを拾い、一旦打席を外してから被り直す。


(これで良い。変化の尺度は何となく計れたし、次は当てられる。けど真っ直ぐもケアしなきゃいけないから、そこは注意しないと)


 三球目、伊調は内角を狙ってストレートを投じる。しかし投球は真ん中低めに外れた。


(洋子さんへのデッドボールの意識があるなら、インコースには投げにくくなってるはず。だから私は思い切って踏み込んでいける。もしぶつけられたらそれはそれで儲けものだ)


 紗愛蘭の読み通り、伊調は死球を引き摺っていた。その影響で四球目の直球も低めのボール球となる。こうなると次はスライダーしかない。ただ分かっていても打たせないのが伊調のスライダーの凄いところだ。


 伊調が佐伊羅とサインに頷き、五球目を投じる。真ん中から外へと逃げていくスライダーを、紗愛蘭は打ちに出た。


(届け!)


 紗愛蘭のバットに、スライダーの曲がった先が引っかかる。ベース板の上で高く跳ね上がった打球が、伊調の頭の上を越える。


「ショート!」

「走れ紗愛蘭!」


 素早く前に出てショートバウンドで捕球する柿原と、懸命に走る紗愛蘭。どちらも俊敏で一塁のタイミングは際どい。


「あっ……」


 柿原の送球は若干高くなってしまう。梨本がジャンプして捕らざるを得なかったため一瞬ベースから足が浮き、その分だけ紗愛蘭に時間ができる。


「セーフ! セーフ!」


 一塁塁審は両手を横に広げた。判定を聞いた紗愛蘭は思わず白い歯を零す。


「セーフ? 良かった……」


 スライダーを捉えることはできなかったものの、打ち返すことはできた。そこから紗愛蘭は俊足を活かし、内野安打を()ぎ取った。ランナー一、二塁として主砲の珠音に打順は回る。


《四番ファースト、紅峰さん》


 第二打席では得点の足掛かりとなる二塁打を放った珠音。ここは四番として、自ら得点を挙げることが期待される。


 ここでも伊調は初球にスライダーを投げる。ところが珍しくコントロールが乱れ、ベースよりも前でワンバウンドする投球となる。しかも佐伊羅がそれを一塁側に大きく弾いてしまった。


「ゴー!」


 洋子と紗愛蘭はそれぞれ進塁。ランナー二、三塁と変わり、ヒット一本で同点の局面ができあがる。



See you next base……


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