表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第九章 殻
127/223

125th BASE

お読みいただきありがとうございます。


亀ヶ崎が序盤で大きなビハインドを許す展開は初めてですね。

ここからどのように反撃するのか、そして逆転はできるのか。

私としてもドキドキします。

 逆転に向けて、とにかく早い内に追い付いておきたい亀ヶ崎。しかし三回、四回と共にランナーを出せずに攻撃を終えた。追い付くどころか、得点機すら作り出せないでいる。

 一方の美輝も我慢強く投げ続ける。四回表は一人のランナーを出したものの生還を許さず、五回表はテンポ良く三者凡退に抑えた。


 美輝の好投によって四点ビハインドを保ててはいるものの、このまま膠着状態が続くと亀ヶ崎にも重たい雰囲気が圧しかかってくる。次の五回裏の攻撃で、何としても反撃の糸口を掴みたい。


《五回裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、四番ファースト、紅峰さん》


 先頭は四番の珠音。第一打席は四球を選んで出塁したが、後続の併殺打もあってチャンスを広げられなかった。

 マウンドでは当然の如く先発の松武が続投している。ここまで許したのは珠音への四球のみ。つまり一本もヒットを打たれていない。


(一打席目の時は慎重に投げてるように見えたけど、四点差が付いてからはかなり大胆になった気がする。それに対してこっちの打線が押し込まれてるって感じだな。けど一本打てば変わるはずだ)


 珠音は打席でゆったりと構えを作る。リードされている中でも自分のペースを崩さない。そのどっしりとした勇姿は非常に頼もしい。


 初球、松武はカーブから入ってくる。アウトローに決まり、珠音は手を出さない。


 二球目は膝元へのストレート。こちらはボールとなった。


(真っ直ぐにもどんどん勢いが出てきてるなあ。でも甘く入ってきたところを芯で弾き返せば、反動で鋭い打球が飛ばせる)


 手首を柔らかくして速い球に備える珠音。三球目のスライダーが外れた後の四球目、松武の投じた直球は、外角高めに来た。


(……お、これくらいなら!)


 珠音は振るというよりも落とすイメージでスイングし、バットの芯で捉えた。最後に右手を押し込むことで、直球の勢いに負けないように支えながら打ち返す。


「ライト!」


 ライナーと言うにはやや打ち上げ気味となってしまったが、打球は右中間に伸びていく。栗山も九重も追い付けず、二人の間に弾んだ。九重が回り込んでフェンスの手前で処理するも、その間に珠音は悠々二塁まで達する。


「ナイスバッティング!」


 ベンチから拍手が送られる中、珠音は澄ました表情でバッティンググラブを外す。亀ヶ崎にとって待望の初ヒット、しかも一気に得点圏へと進む長打が飛び出した。


(ちょっと力負けしかけたけど、ヒットにできて良かった。さてキャプテン、続いてよ)


 珠音は次打者の杏玖に視線を送る。打席に入った杏玖も珠音を見やり、僅かに口角を持ち上げる。


(流石珠音だね。私も負けていられない)


 一球目、松武が外角低めに直球を投じてくる。杏玖は果敢にバットを出し、コースに逆らわないスイングで弾き返す。


 打球は一二塁間をライナーで破った。ライト前へのヒットとなる。


「おし!」


 杏玖は一塁を回ったところで軽く手を叩く。ノーヒットの呪縛から放たれ、臆することなく打って出ることができた。


 これでノーアウトランナー一、三塁。チャンスが拡大し、打順は二人の“あい”に回る。


《六番レフト、琉垣さん》


 浦和明誠の内野陣は前進せず、ゲッツーシフトを敷く。点差を考えれば一点を与えてもまだ余裕がある。そのため亀ヶ崎としては二点以上返しておきたい。


 初球は低めのカーブ。逢依は積極的に打ちに出るも、空振りを喫する。


(このカーブはほんと厄介だな。でもこうやってフルスイングを見せておけば、続けるのは怖いでしょ)


 二球目。松武はアウトコースにストレートを投じてきた。これはボール一つ分外れる。


 三球目は真ん中から外に逃げるスライダー。一球目に続いてスイングしていった逢依だが、またもバットが空を切る。


(追い込まれたけど焦るな。転がせば少なくとも一点は入る。珠音や杏玖のバッティングを参考にして、長くボールを見ることを意識するんだ)


 ワンボールツーストライクからの四球目。浦和明誠バッテリーが選択したのは、外角からボールになるスライダーだった。空振りさせようという狙いだが、逢依は釣られることなく見送る。


(これくらいなら見極められる。並行カウントになったし、ピッチャーもちょっとは苦しくなるだろ。きっと次で決めたいはず)


 何とか勝負球にも食らい付きたい。マウンドの松武が一塁ランナーを牽制した後、逢依への五球目を投じる。彼女はインローにストレートを突っ込んできた。


(速い! でも当てないと……)


 逢依は咄嗟の反応でスイングする。完全に詰まらされながらもバットを振り切り、打球を前に飛ばす。


「ショート!」


 小フライがショートの頭上を舞う。柿原がジャンプして差し出したグラブを嘲笑うようにして越え、センター前に落ちる。

 これを見て珠音がホームへ駆け込む。亀ヶ崎が一点を返した。


(危なかった……。差し込まれたけど、どうにかバットを出せたね)


 逢依は一塁ベース上で微かにほっとした表情を浮かべる。最後に浦和明誠が選んだのは直球。カーブであればまた結果は違っていただろう。逢依の思惑通り、初球のスイングがバッテリーに投げ辛くさせたのかもしれない。


 尚も得点のチャンスは続く。七番の愛が送りバントを決め、ワンナウトでランナーを二、三塁に進めた。


《八番キャッチャー、桐生さん》


 打席には優築が入る。二塁ランナーの逢依も還れば、一点差まで詰め寄ることができる。


(私がもっと上手にリードできていれば、春歌が四点も取られずに済んだ。あの子をこのまま敗戦投手にはできない)


 表には出さないが、優築にも期する思いはあった。初球、足首くらいの高さに来たストレートを、落ち着いて見逃す。


「ボール」


 二球目。松武はカーブでカウントを取ってきた。優築をこれも打ちにいかない。


(ここでカーブを投げてくるということは、決め球には使ってこない可能性が高い。だから無理に追わず、他の球を狙えば良い)


 三球目は高めのストレート。これは松武が意図して投げたというより抜けてしまった感じだ。ストライクゾーンからは大きく外れており、もちろん優築は手を出さない。


(疲れなのかピンチで力が入っているのか、ちょっとずつ制球が乱れてきてる。カウント的にも次でストライクを取りにくるというのなら、絶対に仕留める)


 勝負を分ける四球目となるか。松武の投球は真ん中やや内寄りに来る。打者にとっては打ち頃のコースだ。


 優築は強いスイングで打ち返す。彼女のバットの芯から快い音が響き、痛烈な打球が三遊間を襲う。



See you next base……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ