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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第八章 怖くても
116/223

114th BASE

お読みいただきありがとうございます。


二回戦が終了しました。

亀ヶ崎のチームワークが光った勝利でしたね。

ところ変わって今回は、“彼ら”のお話です。


「七対一で亀ヶ崎高校の勝利。礼!」

「ありがとうございました!」


 グラウンドにゲームセットを告げるサイレンが轟く。私たち亀高は江ノ藤高校を下し、二回戦を突破した。


「今日も苦しい試合だったが、全員野球でよく勝てたと思う。特に投手陣の踏ん張りは素晴らしかった」


 試合後のミーティングで、監督が私たちを労う。中でも今日投げた三人の投手へは最大限の賛辞を送る。


 今日の試合は祥ちゃんが先発し、美輝さん、春歌ちゃんと繋いだ。各々ピンチを招く場面もあったが崩れることなく投げ切り、結果的に一失点に抑えた。


「三人ともそれぞれの成長を感じさせるピッチングだった。次も頼りにしているぞ」


 一方で私の出番はなし。肩を作ることすらしなかった。三回戦は連戦となるので、こうして休めたのは非常にありがたい。


「次の試合は明日だ。ひとまず今日の勝利を喜びつつ、早く帰って休むことにしよう」

「はい!」


 ミーティングが終わると、私たちはすぐに荷物を纏めてグラウンドを後にした。今日は今年一番とも言える猛暑日のため、できる限り避暑して熱中症などの対策に一層務めなければならない。


 宿に戻ってシャワーを浴びた私は、部屋でスマホを開く。実は今、高校野球愛知県大会の決勝が行われている。その一戦に、なんと亀高の男子野球部が出場しているのだ。


《試合は六回に入ります。現在は二対一で亀ヶ崎高校がリード。このまま勝利すれば、悲願の甲子園大会初出場の切符を手にすることができます》


 私はアプリを起動させ、ネット配信されている中継で観戦する。ちょうど六回表が始まろうとしており、マウンドで投球練習を行う椎葉君が映し出されていた。


 ここまで五イニングを投げ、失ったのは僅かに一点。それも味方のエラーが絡んでのものらしい。つまり自責点は無い。


《六回表の名栄(めいえい)工業は、一番の冴木(さえき)から始まる好打順。圧巻の投球を続ける二年生エース、椎葉丈の攻略へ向け、突破口を開きたいところです》


 対戦相手の名栄工業高校は、甲子園優勝経験もある超名門校だ。だがそんな強敵に対し、椎葉君は怯むことなく好投を続けている。


《二球目を打ち返しましたが、冴木は平凡なライトフライに倒れました。まずはワンナウトです》


 自慢のストレートを中心に、強打者たちをねじ伏せる椎葉君。すんなりと一、二番を打ち取ると、三番打者からは三振を奪った。


《スライダー空振り! 椎葉、見事な投球を続けています!》


 絶叫する実況とは対象的に、椎葉君はクールにマウンドを降りていく。覇気を纏って戦う姿は、普段の彼とはまるで別人のようだ。……とても格好良い。


「何見てるの? あ、椎葉君じゃん」


 脇から紗愛蘭ちゃんが覗いてきた。甘酸っぱくて透明感のあるシャンプーの香りが、私の鼻を通り抜けていく。


「今日が決勝だったんだね。……やっぱり愛しの椎葉君が気になるの?」


 紗愛蘭ちゃんは悪戯っぽく笑って私に尋ねる。椎葉君の話になるといつもこうだ。


「別に愛しでも何でもないから。単純に友達として応援したいだけです」

「ほんとかなあ? まあいいや。私も試合は気になるし。一緒に見せて」

「良いよ。どうぞ」


 私はスマホを紗愛蘭ちゃんの方に寄せる。試合は六回裏が始まっていた。


《ボテボテのショートゴロ。亀ヶ崎高校、三者凡退で追加点は奪えませんでした》

《サードライナー! 良い当たりでしたが、打球はグラブの中にすっぽり収まりました。椎葉はこの回も無失点。依然として亀ヶ崎がリードしています!》


 小さな画面で繰り広げられる、白熱した投手戦。私たちはいつしか言葉を失い、無意識に互いの手を握っていた。


《八回裏、亀ヶ崎はツーアウト二塁のチャンスです。ここで打席には、一番の宮藤が入ります》


 久々にチャンスらしいチャンスがやってきた。椎葉君が送ったランナーを二塁に置き、一番の宮藤(みやふじ)碧来(あぐる)君に巡ってくる。彼も私たちの同級生。昨年の交流試合でも対戦しており、巧みなバットコントロールの持ち主であることは知っているので、期待が高まる。


 相手は技巧派のサウスポー投手。五回からリリーフしているそうで、未だに失点していない。ストレートの球速はそれほどではないものの、大きなスローカーブとの緩急で亀ヶ崎打線を翻弄している。


 初球はアウトローの直球。宮藤君は果敢に打って出たが、三塁側スタンドに消えるファールとなる。


 二球目が外れた後の三球目、ピッチャーはスローカーブを投げてきた。背中から入ってくるような軌道にスイングを躊躇う宮藤君。しかし球審がストライクをコールし、忽ち追い込まれる。


「頑張って碧来君……。まだまだここ粘っていこう」

「何としても追加点を取って、椎葉君を楽にしてあげて……」


 私たちは祈るような気持ちで見守る。握り合った手の力は一層強くなっていたが、そんなことを気にする余裕など無かった。


 四球目もカーブが続く。これも宮藤君は見送った。際どいコースだったが、今度はボールと判定される。私たちは一瞬息を詰まらせた後、二人揃って安堵の息を漏らす。


「おお……」


 宮藤君は手が出なかったのか、それとも見極めたのか。どちらにせよチャンスは残った。宮藤君お願い、打って!


 一球ストレートをカットし、迎えた六球目。再びカーブが来た。三球目と同様、背中越しに曲がってくる。

 ただ宮藤君も同じ(てつ)は踏まない。体を開かずに手元まで引き付け、バットに乗せて弾き返す。


《鮮やかな流し打ち! ショート捕れない、抜けたー!》


 打球は予め三遊間寄りに守っていたショートの頭上を越える。レフト前ヒットが飛び出した。


「おお、やった! 回れ回れ」


 私たちが床を叩いて喜ぶ中、二塁ランナーが三塁を蹴る。同時にレフトもホームへと送球。ボールはワンバウンドでキャッチャーの元に返ってきた。


《クロスプレーはどうだ!? ……アウト! アウトです! 打った宮藤も見事でしたが、それを上回る素晴らしいバックホームでした! 追加点は許しません!》


 惜しくもタッチアウト。間一髪でホームインは阻止された


「ああ……」


 私たちは思わず揃って天を仰ぐ。スコアは二対一のまま変わらず。けれども次が最終回。椎葉君が抑えれば、甲子園出場が決まる。



See you next base……

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