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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第八章 怖くても
114/223

112th BASE

お読みいただきありがとうございます。


コロナが無ければ、今年も亀高のような熱い戦いが見られたのかなあと思うと、やっぱり寂しいですね。

だからせめて物語の中だけでも、という思いは日に日にますばかりです。


「よっしゃ! ナイスピッチでした」


 先に喜びを露わにしたのは菜々花。三振のコールを聞くと右手を強く握り、マウンドを降りてきた美輝に声を掛ける。


「ありがとう。菜々花もよくあれを投げさせてくれた」

「いえいえ。投げ切ったのは美輝さんですから。完璧に狂わせましたね」


 稲村への三球目。美輝が投じたのは、姉の美羽(みう)から授かった変化球だった。系統としてはチェンジアップと言えるのだが、一般的なものよりも遅く、独特の落ち方をする。美羽本人曰く、深い海を重たく沈むイメージだそうだ。


 これまでも美輝は度々投げていたが、上手くいったりいかなかったりと精度は高くなく、試行錯誤を続けていた。現状でも決してマスターしているとは言い難い。この夏大の大事な場面で使うには怖さもあった。だがそれでも、彼女は投げることを選択した。その理由は無論、姉のような投手になりたいという強い憧れからだった。


(姉貴、あの球を使わせてもらったよ。とりあえずは上手く投げられたみたい。力を貸してくれてありがとう)


 ベンチに腰掛けた美輝はタオルで首の周りを拭いつつ、満足気な表情を見せる。姉の背中を追いかけて。亀ヶ崎での野球が終わった後も、彼女の歩みは止まらない。


「ショート!」


 五回裏の亀ヶ崎は上位打順だったものの、三人で攻撃が終わった。攻守交替して六回表、ツーアウトランナー無しから代打で出てきた和田(わだ)が、三球目を打ち上げる。


「オーライ」


 ショートの京子ががっちり掴んでスリーアウト。負けじと美輝も三者凡退に抑え、点差を詰めさせない。


 その裏、先頭の珠音が四球を選び、一塁へと歩いた。打席には五番の杏玖が入る。


《五番サード、外羽さん》


 最終回をより盤石な状態で迎えるためにも、珠音を還すのは至上命題となる。中軸打者の杏玖だが、隆浯は送りバントのサインを出す。


 江ノ藤は先ほど代打を送った関係で継投に入っていた。鎌倉から極楽寺(ごくらくじ)にスイッチ。右の本格派で、球速こそ鎌倉には劣るものの、直球と変化球のコンビネーションには長けている。


 杏玖は初球でバントを決めた。外角のストレートを一塁側に転がし、極楽寺に処理をさせる。


「ファースト」


 極楽寺は二塁を見ることなく、由比に指示されるままに一塁へ投じる。亀ヶ崎は三イニングぶりにランナーを得点圏に進め、下位打線へと回っていく。ここで江ノ藤は六番の逢依を歩かせ、ランナー一、二塁と守りやすくする。


《七番セカンド、江岬さん》


 打席に立つのは七番の愛。その初球、極楽寺は低めにストレートを投げてきた。


(サードはずっとベースに張り付いてる。集中力が欠けてるんじゃない?)


 愛はセーフティバントを敢行。三塁線へやや強めに転がす。


「うわっ、しまった……」


 ほぼ無警戒だった鵠沼は一歩目が遅れた。代わりに極楽寺が間に入って捕球し、急いで一塁に投げる。


「おわっと!」


 しかし送球は高く浮いてしまった。七里がジャンプして何とかキャッチするも、その間に愛は一塁を駆け抜ける。内野安打が記録され、ワンナウト満塁までチャンスは広がった。


《八番キャッチャー、北本さん》


 犠牲フライやスクイズ、更には併殺崩れでも一点が入る。祥と美輝を好リードで牽引してきた菜々花だが、攻撃面ではここまで貢献できていない。打つ方でも活躍できるか。


(真っ直ぐに力負けしたくないけど、無理に引っ張れば併殺網に掛かりやすくなる。こういう投手は右中間に意識を置いて打つのが一番だ)


 江ノ藤の内野陣は前進守備を敷く。初球、極楽寺はインローに直球を投じたが、低めに外れた。


(一球目から内角を使ってきたか。でも今のは見せ球のつもりで投げてるだろうから、外れるのは想定内なのかな。いずれにせよ勝負は外でしょ)


 二球目、直球が外角高めに来た。菜々花はおっつけて反対方向へと流し打つ。鋭いライナーがライト線を襲う。しかし落ちた場所はファールゾーン。フェアなら走者一掃のタイムリーになっていた。走り出していた三人のランナーは一斉に元いた塁に戻る。


「惜しい惜しい。良い狙いだと思うよ」

「ありがとうございます」


 次打者の美輝がバットを拾い、菜々花に渡す。ファールにはなったが感触は悪くない。美輝の期待も高まる中、菜々花は屈伸して体を解してから打席に入り直す。


(今ので外に張ってるのを気付かれたかな。でもだからと言って、今の姿勢を崩す必要は無い。狙いは変えないぞ)


 三球目、江ノ藤バッテリーは内角を突く。ところがまたも低めに外れた。ショートバウンドしたところを由比が僅かにミットで弾いたが、ランナーは動かず。これでツーボールワンストライクとボールが一つ先行する。


(キャッチャーとしたらインコースに投げさせたくなるよね。気持ちは分かるよ。私だって絶対そうしたいもん。けどこの場面で投げ切れる投手は中々いない。だからカウントが自然と苦しくなって、結局外に行くしかなくなるんだ)


 菜々花の読みは完璧に当たっていた。四球目、極楽寺はアウトハイにストレートを投げる。けれども苦し紛れに投じたことで球威は落ち、コースも甘い。打者にとっては絶好球だ。


(おお、やっぱり来た!)


 二球目と同様、菜々花は逆らわずにバットを出して弾き返す。今度はフェアゾーンへ。速いゴロが一二塁間に飛ぶ。


「セカン!」


 長谷がダイビングキャッチを試みるも、打球は彼女のグラブを掠めて外野へと転がっていく。それを見ながら三塁ランナーの珠音がホームイン。更に二塁ランナーの逢依も三塁を蹴った。


「稲村、ホーム来てるよ!」

「まじか。舐めるな!」


 ライトの稲村は猛チャージを掛けて捕球し、バックホームする。ただ力んでしまったか、送球は勢い余って由比の遥か頭上を越えていく。


「お、ラッキー」


 逢依はスライディングすることなくホームを踏む。加えて一塁ランナーの愛は三塁へ、打った菜々花も二塁まで進んだ。


「おっしゃあ!」


 ベース上で菜々花の笑顔が弾ける。喉から手が出るほど欲しかった追加点は、守りの殊勲者のバットから生まれた。



See you next base……

美輝’s DATA


ストレート(最高球速111km:常時球速100~105km)

カットボール(球速100~105km)

シュート(球速90~100km)

★チェンジアップ(球速70~80km)

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