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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第八章 怖くても
112/223

110th BASE

お読みいただきありがとうございます。


お饅頭が美味しい季節になりました。

餡子は断然、こしあん派です!

「アウト、チェンジ」


 紗愛蘭の二塁打の後は四番の珠音が四球で歩いたものの、五番の杏玖、六番の逢依が凡退して三回裏は終了。再び二点差となって四回表に入った。祥はこの回も続投する。


《四回表、江ノ藤高校の攻撃は、八番キャッチャー、由比さん》


 江ノ藤は左打者の由比からの攻撃となる。祥が彼女を抑えられるかどうかで、この回のピッチングの出来は大きく左右されそうだ。


(ちゃんと腕を振れば左打者でもストライクを投げられる。さっきの感覚はまだ覚えてるし、それをできるだけ続けるんだ)


 サインの交換を済ませ、祥は一球目を投じる。ストレートがインコースに行った。由比は見逃したが、判定はストライクとなる。


(長谷を抑えられたことで何かを掴んだか。これはもう待っててもフォアボールは出ないな。打ちにいくしかない)


 二球目。祥が投げたのは内角から真ん中に曲がるスライダー。直球に張っていた由比はバットの下で引っ掛ける。


「ファール」


 打球は一塁線の外側を転がっていった。あっという間に祥が追い込む。


(回を跨いでどうかと思ったけど、祥はまだ良い感覚を保って投げられてる。早く追い込めたし、それを最大限に活かしたい)


 三球目。菜々花はアウトロー一杯、微妙に外れているくらいのコースにミットを構える。ボールになっても良いから、そこを目掛けて思い切り投げてこいということだ。

 祥が深々と頷き、ノーワインドアップから投球を行う。彼女のストレートは菜々花のミットに向かって直進する。


(これは遠いか? ……でも見送るわけにはいかない)


 由比は打ちにいかざるを得ない。加えて腕の伸びきったスイングを強いられ、当てるだけのバッティングとなってしまった。


「ショート!」

「オーライ」


 平凡なゴロがショート正面に転がる。京子は前に出ながら打球を捌くと、鋭い送球を一塁に送る。危なげなくアウトを取った。


「よし」


 祥は小さく左の拳を握る。左打者相手ながら、自分の意図した球を投げ切った。


(アウトにできて良かった。このまま残り二人も抑える!)


 その心意気通り、祥は続く九番の鎌倉、一番の石上もテンポ良く打ち取る。中でも石上への投球は圧巻で、なんと一回もバットを振らせることなく三球三振に仕留めた。


「ストライク、バッターアウト!」

「おっしゃあ!」


 祥は笑顔を弾けさせ、マウンドを降りていく。ベンチに戻ると、嬉しそうにナインとタッチを交わした。


「祥、ナイスピッチングだったぞ。ピンチの時もよく踏ん張ってくれた」


 隆浯はそう労いの声を掛け、祥に握手を求める。祥は差し出された隆浯の左手を握り、照れくさそうにはにかみながら感謝の弁を口にする。


「は、はい。投げさせてくれてありがとうございました」


 祥はここで降板。四イニングを投げて一失点と、先発の役割を全うした。イップスと戦ってきた一年間の成果が、結果として現れた登板となった。


《亀ヶ崎高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、笠ヶ原さんに代わりまして、波多さん》


 四回裏の亀ヶ崎の攻撃は三人で終わった。そして五回表のマウンドには、三年生の波多美輝が上がる。


(祥はリードして繋いでくれた。そのバトンを私がゴールまで持っていく)


 背中まで真っ直ぐに伸びた黒髪を、(うなじ)の辺りで括っている美輝。この髪型は自らと同じ投手であり、現在社会人チームで野球をやっている姉を真似たものだ。

 元々は内野手の美輝だったが、姉に憧れて昨夏から本格的に投手に転向し、この一年間は安定したピッチングを続けてきた。派手な活躍こそ無いものの、先発もリリーフも熟す便利屋として亀ヶ崎の投手陣に欠かせない存在となっている。


《五回表、江ノ藤高校の攻撃は、二番ショート、柳さん》


 江ノ藤は二番から始まる好打順。美輝は初球のサインを決めると、セットポジションから投球モーションに入る。

 ややサイドスロー気味のフォームから繰り出された美輝のストレートが、柳の膝元を抉る。柳は腰を引いて見送った。


「ストライク」

「え?」


 柳は思わず判定を疑う。確かに菜々花のミットはボールゾーンにあるように見えるが、美輝の投球は横に角度が付いているため、ベース板の上を通った時はストライクゾーンにあるのだ。


(そこストライク取るのか……。横手投げの特徴なんだけど、こっちとしては厳しいな)


 嫌がる柳に対し、二球目も美輝は同じようなコースに投じる。やや中に入ったものの、それでも柳のスイングは窮屈になる。


「ストライクツー」


 バットは空を切った。早々に美輝が柳を追い込む。


(祥に触発されたのか、美輝さんも良いボールが来てる。次はこれで行きましょう)

(分かった)


 三球目、美輝はまたもやインローを狙って右腕を振る。投球は若干高めに浮いた。


(さっきまでで一番甘い。これなら打てる)


 柳は窮屈にならないよう、体の前にポイントを置いて打ちにいく。ところが投球は微妙に変化し、更に内に曲がってきた。柳はスイングの軌道を修正できず、打たされた格好となる。


「ファースト!」


 力の無いゴロが一二塁間へ転がる。珠音はベースから少し離れたところで捕球すると、カバーに入ってきた美輝のやや前方を目掛けてトスをする。


「アウト」


 ボールを受け取った美輝は瞬時に一塁ベースを踏んだ。俊足の柳でも追い抜くことはできず、悠々アウトとなった。


「ナイスピッチ」

「ナイスファースト。トスも完璧だったよ」


 珠音と美輝は仄かに相好を崩し、互いのグラブを軽く重ねる。一見何気なくアウトを取っているが、ファーストとピッチャーの息を合わせなければならないので実は非常に難しい。決してぶっつけ本番でできるものではなく、日頃から反復練習しておくことが必要になる。今のプレーが成功したのは二人の練習の賜物と言えよう。


 因みに最後の一球はカットボール。ストレートと同程度の球速が出ているため、初見で見分けることはほぼできないだろう。柳もものの見事に騙されていた。


「レフト!」

「オーライ」


 美輝は次の鵠沼をレフトフライに抑える。順調にツーアウトを取り、ランナー無しで四番の腰越を迎えた。



See you next base……


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