10th BASE
お読みいただきありがとうございます。
流行に乗っかり、最近はラグビーのワールドカップを見ています。
最初はルールが分からず何が起こっているか分からないことも多かったのですが、徐々に覚えられてより楽しめるようになりました。
残念ながら日本代表は準決勝で敗れてしまいましたが、今後もラグビーには注目してきたいと思います。
「回れ回れ!」
珠音に続いてもう一本タイムリーが飛び出し、女子野球部は一回裏の攻撃を終える。いきなり三点のリードを奪った。
「いやー、先輩たち凄いな。ね、昴」
「うん。男子を相手にしてるから純粋な力比べでは敵わないけど、そこを思考力と思い切りの良さで補って圧倒してる。かっこいい」
男女の差をもろともしない上級生の活躍に、一年生の栄輝や昴は目を輝かせる。自分たちも試合に出たい。そんな感情が昂っていた。
試合は二回の表へ。男子野球部の打順は四番の水田から始まる。真裕は投球に移る前にロジンバックを触り、気持ちを整理していた。
(三点は取ってもらえたけど、それを守ろうとするな。一年生も見てるわけだし、攻める姿勢を見せていかなくちゃ)
水田が右打席に入り、球審がプレイを掛ける。一球目、真裕は内角にストレートを投じる。水田は果敢に強振していくも、ボールはバットの上を通過した。
(良い振りしてるねえ。まさに四番って感じ。けど、私も負けないよ)
水田の強烈なスイングに唆され、真裕は思わず笑みを浮かべる。けれどもすぐに表情を引き締め直し、優築のサインを覗う。
(今のは球威で押せたとはいえ、これだけ振れてる打者に力勝負を続けるのは危ない。だけどここは後の打席のことも頭に入れて、内角への意識付けをしつこく行っておかないと。真裕、次はこの球をお願い)
(分かりました)
二球目。真裕はインコースを続ける。ただし少しだけ変化を掛けており、ベースの手前でもう一段階食い込ませる。
「ボ―ル」
水田は打ちにいく体勢で見送る。バッテリーの誘いには乗らない。
(これはツーシームか? それにしても、二球連続で内角を抉ってきた。この打席はとことん攻めてくるかもな。まああまり気にしないようにしよう)
バッテリーの思惑を冷静に読み解き、水田は術中に嵌らないよう心掛ける。目一杯バットを振るだけでなく、頭脳的な一面もあるみたいだ。そうなると非常に手強い。
三球目。真裕は直球で胸元を突くが、水田は手を出さない。若干高めに外れ、ツーボールワンストライクとなった。カウント的に次はストライクが欲しくなるところだが、優築は自分たちのすべきことを優先する。
(真裕のコントロールならスリーボールになっても盛り返せる。だからもう一球インコースで行こう)
(徹底してますね。でもそれがここでの目的なんだから、これくらいやって当たり前か)
サインに頷き、真裕が四球目を投げる。再び内角へのストレート。水田はやや腰を引いた格好で見逃す。
「ストライクツー」
「え?」
球審のコールを聞き、一瞬驚いた顔を見せる水田。どうやら自分ではボールと思っていたようだ。けれども判定が覆ることはなく、結果的にバッテリーが追い込む。
(際どいところだったけど、ストライクになって良かった。まだもう一つボールに余裕があるし、ここも内を突きたい)
優築はまたもやインコースにミットを構える。真裕は首を振ることなく承諾し、水田への五球目を投じる。
「ボ―ルスリー」
若干制球が定まらず、ストレートが低めに外れた。これでは水田もスイングするはずがない。だがそれも優築は織り込み済みだ。
(スリーボールにはなってしまったけれど、これだけ投げられたら嫌でも内角を意識するようになるはず。じゃあ真裕、とりあえずこの打席は外角のツーシームで締めましょう。打たれるかもしれないけど、コースを間違わなければ長打は無い)
(分かりました)
優築と真裕が次の配球を決める。それに伴い、水田は二人が何を投げようとしているのかを推測する。
(このバッテリーはきっと、俺の二打席目以降も視野に入れて組み立てを考えてる。だからここまでずっと体の近くに投げてきてるんだ。でもフルカウントになったし、最後はこっちの反応を探るために外に来るはず。しっかり踏み込んで打って、内角攻めが気になってないことを知らせてやる)
マウンドの真裕が足を上げ、投球動作を起こす。水田は左肩を少しだけ絞り、アウトコースに備えた。
六球目、真裕の右腕から放たれたボールは優築の構えたミットに向かって進む。水田は待っていましたと言わんばかりに左足を強く踏み込み、鋭くバットを振る。
「セカン」
「オーライ」
素早いゴロが真裕の横を通過していく。そのままセンターへと抜けそうな勢いだったが、予め二塁ベース寄りに守っていたセカンドの江岬愛が回り込んで追い付いた。彼女はグラブを掬い上げるようにして捕球し、一塁に転送。悠々アウトとなった。
「ナイス“えみあい”さん! ありがとうございます」
「いやいや、これくらい朝飯前さ」
真裕が感謝を述べるのに対し、にこやかに笑って応える愛。堅い守備に定評がある彼女は、昨年の秋からセカンドのレギュラーを張っている。女子野球部には現在レフトを守っている琉垣逢依というもう一人の“あい”がおり、互いの苗字を利用して“えみあい”と“ルーあい”で呼び分けられている。ただしこれは愛が半ば勝手に決めたもので、逢依の方はあまり気に入っていない。
「さあワンナウト取ったよ。真裕、ここも三人で抑えよう」
「はい!」
愛の適切なポジショニングで四番の水田をアウトにできた。しかし今の彼の打撃を見て、優築はマスク越しに不快感を抱く。
(あれほどインコースを見せたのに、ほぼ動じることなく外の球に合わせてきた。ツーシームを掛けてなかったら長打を食らっていたかも。他の子を侮るわけじゃないけれど、彼は別格として考えるべきね)
亀ヶ崎バッテリーの執拗なインコース攻めも、水田には効かず。それだけ彼が優れた打者であるということだ。この後もしも重要な場面で水田と対峙した時、優築と真裕は如何に対処するのだろうか。
「サード」
「オーライ」
バットの根元で打った弱々しい飛球が、三塁側のファールゾーンに上がる。サードの杏玖は小走りで落下地点に入ってボールを掴んだ。これでスリーアウト。真裕は水田の後の二人を打ち取り、二回表も走者を許すことなく切り抜けた。
See you next base……
PLAYERFILE.8:紅峰珠音(あかみね・ことね)
学年:高校三年生
誕生日:7/24
投/打:右/右
守備位置:一塁手
身長/体重:161/56
好きな食べ物:フライドチキン




